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2018.11.13 [イベントレポート]
「人間を描くためにたくさんのチャレンジをしている監督」11/1(木):トークショー『女王陛下のお気に入り』

女王陛下のお気に入り

©2018 TIFF

 
11/1(木)、特別招待作品『女王陛下のお気に入り』上映後、立田敦子さん(映画評論家)、平山義成さん(20世紀フォックス映画)をお迎えし、トークショーが行われました。
作品詳細
 
平山義成さん:キャスト、監督にもたっぷり取材されている立田敦子さんをお招きしてお話しを伺いたいと思います。
 
立田敦子さん:ベネチア国際映画祭では、大変豪華なラインナップで前半にも素晴らしい作品がたくさんありました。アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』がグランプリである金獅子賞を受賞しましたが、その作品に次いで、人気もあり、評価も高かったのが、この作品『女王陛下のお気に入り』でした。
 
平山義成さん:ヨルゴス・ランティモス監督の着眼点は独特なものがありますね。
 
立田敦子さん:彼を知ったのは、2009年のカンヌ映画祭の「ある視点」部門で上映・受賞した、『籠の中の乙女』という作品でした。こんなすごい監督が出てきたのか、と思いましたね。ミヒャエル・ハネケやラース・フォン・トリアーの次の世代の監督として、現地でも大変話題になりました。
 
平山義成さん:ランティモス監督の元には、2009年の時点で、『女王陛下のお気に入り』の脚本が届いていたそうですね。
 
立田敦子さん:監督が言うには、9年前にすでに届いていたとのことでした。
ランティモス監督は『籠の中の乙女』の後、2015年にカンヌで審査員賞、アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた『ロブスター』があり、2017年にはこちらもカンヌのコンペで脚本賞を受賞した『聖なる鹿殺し』がありました。
ランティモス監督はギリシャ人であり、イギリスの歴史には疎い部分もあったので、なぜこの作品の脚本が送られてきたのか、尋ねたそうなんですね。『籠の中の乙女』を観て、“家族の物語を、人間の深みをここまで描写できる監督はいない、そんな監督にこの作品をお願いしたい”と言われたそうなんですね。ランティモス監督自身もこの脚本を気に入った部分は女性3人ががっつりと三つ巴になって、主役を張るところで、そんな作品は観たことが無く、映画的な題材で素晴らしいと思ったそうです。
でもそこから完成までには長い時間が掛かっていますよね。
まずデボラ・デイヴィスが書いたオリジナルの脚本があり、そこからトニー・マクナマラというオーストリア人の脚本家と、ランティモス監督が4年掛けてリライトをしました。その間に2作品を制作した後、この作品に取り掛かったそうです。
監督自身は2011年にロンドンに移住して、そこをベースとして活動し、以降の作品は英語で撮っています。
2009年にカンヌで話題になったことが、『ロブスター』での豪華キャストを実現させて、この作品まで繋がっていますね。
 
平山義成さん:『ロブスター』に出演した女優陣も、この作品でも組んでいますね。
 
立田敦子さん:オリヴィア・コールマンについては、よく知っている女優なので、最初にキャスティングをしたそうです。今回ランティモス作品に初めて出演となったエマ・ストーンに関しては、技術はすでに評価していて、実際に会ってみて意気投合して今回の重要な役に繋がったそうです。
 
平山義成さん:撮影も独特なものがありますね。
 
立田敦子さん:普通の歴史劇、コスチューム劇とは全く違いますよね。作り方も違うそうです。アン女王を含めた主要の3人は歴史上の人物なんですが、彼女たちの人生を描くことではなくて、3人の関係性を描くことに興味を持ったということなんですね。
その女性同士のパワーバランスがもつれ合い、変わっていくところが人間の本質が見える部分であり、それを描くためには3人の登場人物のバランスが必要で、それがとても面白いということでした。
また、脚本を初めて読んだ時には、ここまで女性の地位が向上しておらず、#MeToo運動等による女性の台頭が作品の内容とリンクした結果になったと話していたのが面白かったですね。
 
平山義成さん:サンディ・パウエルによる衣装もパウエルさんの才能をより発揮できるものになっているように感じました。
 
立田敦子さん:アカデミー賞受賞経験もあるサンディ・パウエルによる衣装は、今回の作品では、女性は黒を基調としていて、男性は史実を強調して白塗りをしてウィッグを被って、着飾っています。
史実に忠実にするよりももっと現代的にしたいという監督の要望にサンディ・パウエルさんが応えた形になっています。服飾の歴史にも詳しい方なのですが、今回は史実にあるシルエットだけを踏襲して、色や装飾はより現代的な衣装を制作しています。
 
平山義成さん:デニムも出てきたりして、驚きましたね。
 
立田敦子さん:個人的に一番驚いたのはカメラワークで、宮殿の中のでの映像を普通に撮っていたら凡庸なものになってしまうということから、広角レンズを使ったりしていますね。
既存のライトとかほとんど使わずに、自然光、夜の場合にはろうそくだけで撮っている。そこで顔が見えなくなったりもしているのですが、それでも構わないとしていますね。すごく簡単に撮ったかのように見えるんですが、そこが大変だったということで、今回いちばんチャレンジだったのは、ライトを使わない撮影だったということでした。撮影監督はロビー・ライアンという方なんですが、ライトを使いたくないと監督に言ったら「いいよ」と軽く答えられたそうなんです。でもそれは簡単にできるわけではなくて、じゃあ光がないところでどういう撮影ができるのか、というテスト撮影にすごく時間をかけたそうです。
 
平山義成さん:だから人工的ではない、まるで目の前で起こっているかのようなできごとの自然な描写ができているんですね。
 
立田敦子さん:そうですね、廊下などを歩いていても、外が曇っていれば曇っているような顔色になっているし、晴れていれば、それなりに自然光が差しているし、夜は本当にろうそくの光だけで、人間を描くためにはそういったチャレンジが必要だったということですね。
 
平山義成さん:ここまできますと、やはりアカデミー賞が気になってくるところなんですが、前哨戦となる、イギリスのブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アウォードのノミネート作品が発表されました。そこで『女王陛下のお気に入り』は13部門にノミネートされました。私は個人的にオスカーでも10部門くらいにはノミネートされるんじゃないかと思っているんですが、そのへんはいかがでしょうか?
 
立田敦子さん:ノミネートはかなりされるんじゃないか思いますね。ほとんど最多に近く、『アリー/スター誕生』と最多を競うんじゃないかと思っていますけれど。私がいちばん望んでいるのは、ヨルゴス・ランティモス監督がなんとか監督賞の中の一人に滑り込んでくれないかなと。撮影賞、衣装賞、女優賞辺りは確実にくると思うんですね。あと作品賞、監督賞あたりに滑り込んでくれたらうれしいですね。
 
平山義成さん:私も個人的にフォックス・サーチライト・ピクチャーズとヨルゴス・ランティモスが組むとこれだけのことができるというのがちゃんと伝わればいいなと思っています。
彼の制作会社であるエレメント・ピクチャーズとファーストビッグディールを結びましたので、これからもランティモス監督とのパートナーシップが続くのではないかと思います。
 
立田敦子さん:私はこの作品を3回半観たんですが、観れば観るほど完成度が高いと言いますか、細かいセリフ、ライティング、カメラワーク、音楽、女優たちの演技、脇役の演技、何をとっても文句をつけるところがないんですよね。
 
平山義成さん:たぶん二度目のほうが、細かいところも含めて楽しめますよね。
 
立田敦子さん:コメディですからね。最初の上映なのに先ほど観客席から笑いが聞こえたので、さすが東京国際映画祭の観客の方はレベルが高いなと思いました。
何よりもコメディであり、監督が言うにはラブストーリーであると。三角関係で、政治的なパワー関係もあるんですが、それよりも何よりもラブストーリーであると。
 
平山義成さん:そこがちゃんと伝わるようになっているんですね。それではここからQ&Aに入りたいと思います。
 
Q:ランティモス監督はなぜ毎回動物にこだわるのでしょうか?
 
立田敦子さん:監督ではないので、うまくお答えできるかどうかわからないのですが…
 
平山義成さん:インタビューでそこに関して答えているのがありますので、お答えしますと、やはり動物と人間の関係についてすごく興味あるという発言をされていまして、例えば人間は動物をあがめたり、愛玩したり、かと思うと食べたり、生贄にしたり、いろんな関わり方があると。そこに対してとても興味があると言ってまして、なおかつさらに面白いのは、それが文化によって関係性が変わるのだというところに非常に興味があると。だから自分の映画の中で人間と動物の関わりを使っていくということを言ってましたね。
 
立田敦子さん:もっといえば、人間は動物のひとつなんだという考えがあって、結局人間の気まぐれであって、1+1が2になるのではなく、今日は気が変わったり、昨日の味方は今日の敵であったりとかそういう風にどんどん変わる、それは動物と同じように変わるものなんだよと、普遍的であるというよりは…
 
平山義成さん:そうですね、ある種の真実というか…
 
立田敦子さん:人間の真実。人間はこうあるべきなんだよという理性でものを考えるのではなく、人間というのはこういうものなんだと彼は今まで4作全てにおいて示したいという風にはおっしゃってます。ちなみにこのストーリーは史実なんですけれども、史実にはウサギは出てこないそうです。そこは完全なフィクションですね。
あと音楽の話しもさせてください。音楽の使い方が大変モダンといいますか、普通の歴史物にはない使い方をしてると思うんですが、監督が言ってらしたのは『アマデウス』、『バリー・リンドン』やピーター・グリーナウェイ作品を全部観て参考にしそうです。監督はギリシャの方なので、その辺のイギリスの歴史物というのは一通りご覧になってそれとは違うやり方を、というのは意識して考えられたとは思います。
 
平山義成さん:既存の傑作群の中で自分の色をどうやって出すか、この作品にどうやってオリジナルを出すかっていうことをやった結果がこれだったっていうのは非常に感じますね。
1970年のエルトン・ジョンのデビューアルバムに入っている『スカイライン・ピジョン』という曲も使用していまして、結構この映画のテーマと絡むのでもし興味の方がいらっしゃったら訳詞を探されると面白いかなと思います。
 
立田敦子さん:そういう意味でも非常に細かくて、ランティモス監督、いい加減に作っているということは何もないですね、この作品は。
 
平山義成さん:これから劇場公開(2019年2月日本公開)に向かっていくんですけども、本当に色んな楽しみ方、発見がある作品だと思いますので、ぜひこの機会にみなさんご支援いただければと思います。

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