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2018.11.08 [イベントレポート]
「稲垣吾郎さんは本当に何も誤魔化さない人」10/30(火):Q&A『半世界』

半世界

©2018 TIFF
10/30の舞台挨拶登壇時の阪本順治監督

 
10/30(火)、コンペティション『半世界』上映後、阪本順治監督をお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
矢田部PD(司会):やはり長年の経験をお持ちの監督もワールドプレミアの日というのは緊張されるのでしょうか。
 
阪本順治監督:はい、緊張します。いつまでも慣れないですし、めったにこういう巨大なシアターで(上映を)やることはないので……皆さんの、目が、怖い……(笑)
 
矢田部PD:いくつか私からお伺いしたいと思うのですが、まずはなんといってもこの作品の舞台挨拶でもご登壇いただきました稲垣吾郎さんをはじめキャストの皆さんをどのようにキャスティングされたか、まずは稲垣さんからお願いできますでしょうか。
 
阪本順治監督:以前に彼と生(なま)で会った時に、本当に何も誤魔化さないし、自分を前へ前へ出そうという人でもないし。そういう姿を見た記憶がありましたので、今回の役柄、というより職業といいますかね、淡々と寡黙に夜通し働く、そういうものが似合うのではないかという風に私は直感で思ったんですけど。どうでしょうか、炭焼き職人。(会場から拍手)ありがとうございます。
 
矢田部PD:実際に似合うだろうなぁと思われてキャスティングされて、現場に入られて稲垣さんは監督の予想通りだったでしょうか。あるいは、一緒に役柄を膨らませていった、というようにかなり監督も演出をつけられたのでしょうか。現場での様子を教えていただけますか。
 
阪本順治監督:俳優さんによっては、自分の個性を最大限前に出そうとか、何か仕掛けようとかそういうタイプの方もいらっしゃるんですけど、彼は逆にいうとそれをしないと決めていらっしゃるので、だからある種ちょっとしたパフォーマンス、手だったりするし、いろんな気持ちを演出するというより、僕が思う高村 絋という人間の姿というか、あるいは日常生活のクセとか、そういうものを演出させてもらいました。僕のクセで、食べた後すぐ唇を拭く、みかん食べる時は白いところを全部取ってからじゃないと食べない、とかそういうことは(台本に)書いていたかな(笑)。あと、彼はやっぱり舞台も多いですから、変な演出ですけど「稲垣君、活舌が良すぎる」って言ったことがありますね。
あとはフニャフニャっとしてくれ、みたいなね。そういう物理的なことばかり言っていたと思います。気持ちがどうのこうのっていう演出はしないで済んでいたし、クランクイン前に3回ほどご飯を食べたりして、そういう現場に持ち込まなくていい打ち合わせはすでにしていましたね。
 
矢田部PD:ありがとうございます。もう一つお伺いしたいのですが、この映画全体のお話になるのですが、タイトルは写真家をインスパイアされたとおっしゃっていましたけれど、この作品は非常にいろいろな要素がありまして、友情の物語であり、夫婦の物語であり、労働と向き合う物語であり、そういう要素があるんですけれども、その脚本を書かれたときにはどういう順番といいますか、どういう流れでこの物語全体を構築されていったかお伺いできますでしょうか。
 
阪本順治監督:(熟考して)去年ですよね、新しい道を歩き始めるであろう稲垣君とかこれから極端に露出が少なくなるのではと思った時に、僕でよければ何かさせてもらえないかなというような声掛けでもあったし、もし稲垣君とやるのであれば地方都市の何者でもない人というのをやってもらいたいなと思ったし。加えて前の作品が8・9割方キューバロケという映画『エルネスト』をやったので、ちょっと一回自分の地元というか、三重県は地元じゃないんですけど、日本に戻って、日本の自然の中で自分たちの話をやりたい。それを考えました。それで今まであらすじや脚本を書いてきて映画化できなかったストックというものがあったので、その中でストックとストックを組み合わせて、稲垣君を置いて、その時に他のキャストもやってくれるかどうかは別として(頭に)浮かべて、新たにオリジナルを加えて書きました。それからロケ地を探して、三重県に、南伊勢にたどり着きました。
 
矢田部PD:ありがとうございます。では、ご質問いかがでしょうか。なかなか大きな劇場なので手を挙げるのが難しいかもしれませんが、せっかくの機会ですので、ここに稲垣さんがいらっしゃると思って……
 
阪本順治監督:それは僕に失礼じゃないですか?(笑)
 
矢田部PD:失礼しました(笑)それでは、質問お願いします。
 
 
 
※※※以下、ラストシーンを含めた内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Q:素晴らしい作品をどうもありがとうございました。2つ質問があります。1つめは、非常に印象的なシーンとして、紘の出棺の時に狐の嫁入りでお天気雨が降っていて、ちょうど虹がかかっていましたが、撮るのは非常に難しいと思います。撮れたのは偶然だったのでしょうか?それとも撮れるまで何度もチャレンジしたのでしょうか?もう1つは、映画全体の中で光の印影が鮮やかだった印象があるのですが、監督は何かこだわりをお持ちなのでしょうか?
 
阪本順治監督:まず、脚本には「真っ黒な雨雲がやってきて土砂降りの雨」と書いてあるんです。ただ、あの日しか撮影ができない理由がありまして、朝から真っ青な青空で。それで雲を待とうかと言っていたのですけど、夜までにあれだけの分量を撮れない。そうやって追いつめられると元気になっちゃうんです、僕は。それでまあ、狐の嫁入り(になる)って、前の日に天気予報はわかっていたので、台詞を足したんですね「春の火や山は狐の嫁入雨」。これ本当は「秋の火や山は狐の嫁入雨」という小林一茶の句なんですよ。その秋を春に変えて。敢えて狐の嫁入りで僕らは撮影しているんだ、という風に切り替えたんですね。そうしたら虹が出ました。日が当たった中で(ホースを使って人工的に)思い切り雨を降らせていますから。結果、あれが本当に脚本通りに、どんよりとした真っ暗な中の葬儀だったら、やっぱり映画的にもしんどくなっていたと思います。あの光は向こうに行った紘の存在なんだと割り切って撮影しました。虹は偶然です。
光と影というのは、僕ら映像に携わる人間としては最も大事なことでもあります。その場面のキャラクターの気持ちを受け取って光と影を考えるので、今回はただの風景でも何となく心象を表すように、撮影の後に現像所でも光を色々調整したりしています。
 
Q:素敵な映画をありがとうございました。狐の嫁入りのことで黒澤 明監督の『夢』の中にある母と息子のエピソードを思い出しました。
聞いてよいのかわかりませんが、主人公を死なせてしまうということはすごいびっくりすることで、暖かな日常、自分の仕事に邁進しているけれども家族を暖かな眼差しで見ていた主人公が突然いなくなってしまうことですごい衝撃を受けて、失われた日常みたいなものがとても深く刺さったのですけれども、主人公を殺してしまうということについて何かお考えがあったのでしょうか?

 
阪本順治監督:怒っている人もいるかと思うんですけど…(笑)。非常に個人的な話なんですけど、僕の祖父までは代々仏像の彫刻師なんですよ。その後、仏壇店なんです、僕の実家が。今はもう無くなりましたけど。で、小さい頃から割と人の死のそばにいたんです。ちっちゃい頃から死を以って人はどこへ行くのか考えてたんですね。そういうのを他の映画でも出したりもしています。今回の映画は小さな町から世界を見るということもやりたかったし、その、死というものを僕なりに考えたことをやろうと思いました。それは、脚本を書いている時に僕の身内が立て続けに亡くなったということもあったのですけども。人はいつかは死ぬわけなので、でもその人は命を使って必ず残したものが必ずあるんです。命を使うっていうのが「使命」って漢字になっているって勝手に僕は思ってて、そういうこともやりたかった。だから、多分、死ななくても違うエンディングはあったと思うんですけど、僕は不意であればあるほど、その、もう一つやりたかった、命を使って残すという、それがやれるかなという風に思ってやりました。だから当然、僕にとっては意味のある死なのです。
 
Q:今回、主人公は炭焼き職人で、稲垣吾郎さんは体の線が細い方だと思うのですが、そうした体の細い方に重労働だなと思われる職業を選んだのは、どうなんでしょうか。
 
阪本順治監督:たぶん、長谷川(博己)君だって元自衛官としては細い方で、自衛官も細かったり、小柄だったりする方もたくさんいるし。炭焼き職人を調べるためにいろいろ映像とかも見ました。紀州備長炭を親子でやっているドキュメンタリーを見ましたが、お父さんも息子もすごく細いです。筋肉質とかではないです。たぶん脱いだらかなり(筋肉が)付いていると思うんですけど。誰だったら炭焼き職人に良かったんでしょうかね。
 
Q:仏像の彫刻師とか、陶芸家とか、他の職業もあったのかなと思いまして。
 
阪本順治監督:それはちょっと批判めいたことでしょうか(笑)。
 
Q:そんなことはないです。
 
Q:素敵な映画をありがとうございました。冒頭にすぐに「ああ、紘は亡くなったんだな」ということが、わかるじゃないですか。3か月前みたいな感じで始まって、ずっといつどの瞬間に、どのように紘が亡くなるのかなと思ってみていたのですが、何も予告せずに、3か月前から普通に始めるやり方もあったと思うのですが、冒頭にちょっとわかるシーンを入れたのは、いつ頃にそれがいいとお考えだったのでしょうか。
 
阪本順治監督:そんな予感として受け止められる人と、受け止められない人がいると思うのですが、これを時間軸通りに、回想のように始めないと、あそこの突然すぎるものが、ただ意表を突いただけのものになると思ったのかもしれないですね。脚本の最初の段階から、冒頭のつくりはそのままです。
 
矢田部PD:(質問された)お客様が「わかりますよね」とおっしゃったときに、こちらから見ていて三分の一ぐらいのお客様がうんうんとうなずいていました。私が先ほどのお客様のように、全く予想していなかったので、ものすごくビックリしました。ですから、2つに分かれているようで面白いです。これは、先ほどのお客様もおっしゃっておられましたが、ネタばれ禁止ですかね。
 
阪本順治監督:みなさんは、言わなくてもちゃんとしてくれますよね(笑)。
 
矢田部PD:この作品は2019年2月公開が予定されています。公開されましたら、また出かけていただけたらと思います。最後に一言頂戴できますでしょうか。
 
阪本順治監督:コンペティション部門ということで、映画が勝負事になってしまうのはどうかな?って、選ばれたのにこんな無謀なことを言っていますが。かたや、過去に、僕の好きな相米(慎二)監督が『台風クラブ』で、根岸(吉太郎)監督が『雪に願うこと』で、このコンペティションのグランプリをいただいているので、いただけなくても、同じ立場にまでなれたのは本当に嬉しいです。よくアスリートが表彰台で、「これからも応援よろしくお願いします」と言いますが、僕はファンに向かってそういうことを言うのは好きじゃないんです。ファンの皆さんは自分のためにファンをやっているので、そうやってお願いしなくていいって、そう思うんですけれど、よろしくお願いいたします(笑)。

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