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2018.11.05 [イベントレポート]
長谷川博己、ミャンマーでの撮影に思い馳せる「太陽がでかかった」
映画コムニュース
©2018 TIFF
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ひとつのテーマのもとに、アジアの気鋭監督たちがオムニバス映画を共同製作するプロジェクト『アジア三面鏡』。隔年で製作され、今年はその第2弾となる。今回の共通テーマは「旅」で、日本から参加の松永大司監督作のタイトルは、『碧朱(へきしゅ)』。その主演を任された長谷川博己に、撮影現場での体験や作品について話を聞いた。今、超が付くほど忙しい長谷川だが、たおやかで凛とした姿は疲れを感じさせなかった。

--ミャンマーに行かれたのは、今回の『アジア三面鏡2018:Journey』の撮影が初めてとうかがっています。ミャンマーの印象はいかがでしたか?

長谷川博己(以下、長谷川):とにかく太陽がでかかったですね。ヤンゴンについた時には、舗装された道路もありつつ、建築中のビルの間にまだ手付かずの土の道があったり。そこの間から見える大きな夕陽がまるで砂漠の中にあるようで、何かアンバランスな感じがしたのを覚えています。

--監督は日本人、カメラマンは中国人と様々な国の混合チームだったと思いますが、やりにくさはありましたか?

長谷川:やりにくさというものはありませんでしたが、いろいろな言語が飛び交う撮影現場ですし、信心深い方たちもいらっしゃるわけですから、どこまで考慮すべきなのかは、僕だけではなく皆さんもお互いに思っていたところではないでしょうか。映画を一緒に作っていくという点では、なぜか言葉の壁を感じるという感覚はなくて、あうんの呼吸でできるのだろうということが理解できる不思議な現場でした。

--ミャンマー語を覚えるのは大変でしたか?

長谷川:僕が演じた鈴木は、流暢にミャンマー語が話せるという役ではなく、日常生活の会話ができるくらいですので、出演が決まったのが阪本順治監督の『半世界』(今回コンペティション部門に出品)の撮影中だったので、その合間に覚えている感じでしたね。

--長谷川さんが駅から登場するときの服装が印象的です。黒っぽい上下、それにサンダルも黒。衣装合わせで決まったのでしょうか?

長谷川:衣装合わせは何回かしました。僕も自前のものを持っていったりもしました。松永監督とはどれを選ぶかが一致していましたね。松永さんは昔バックパッカーだったそうで、僕もそうだったので根本的にその雰囲気を投影している部分があったのではないでしょうか。けれど、鈴木は商社マンですから、鉄道整備事業という自分の仕事を全うする彼にしてみれば、その投影ではダメなのかもしれないと。そう思いながらも、自分のなかでは、バックパッカーの原風景を懐かしく思う気持ちを残しておきたいというのがある。その辺りが松永監督と実は同じで、だから服装に関しても一致したのかもしれないですね。
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--鈴木は、ヤンゴンの環状鉄道の速度が倍になることを良しと思っていましたが、速くなるのがいいことなのか、という現地の人間の素朴な疑問に対し、自信が揺らぎます。その辺りの鈴木の気持ちをどう演じようと思いました?

長谷川:どっちかハッキリしないやつだなと思いましたね(笑)。でも、どちらを選ぶのか? と言われたら僕も選べないですね。

--バックパッカーのことも含めて、やはり原風景は残っていてほしい。

長谷川:いまの僕の気持ちなら、先進国になっていく方が、例えば、医療だったり、他にもいろいろな面でも良いということもあると思います。そういう意味では鈴木を演じる上で、彼の仕事が現地の人たちの生活を良くしていくことになるのだというつもりで演じましたが、スースーたちとの出会いの中で変化していく彼の心の機微を感じ取っていただけたらと思います。

--監督のほうから「鈴木の心情はこうだ」など、具体的な説明はあったのでしょうか?

長谷川:松永監督は、自分で感じたことをやって下さいという感じでしたので、特にはなかったですね。

--松永監督との仕事も初だと思います。

長谷川:たしか2年位前に釜山の映画祭でお会いして、その時にいつか何かやれたらいいですねという話をしました。釜山での僕の感じが、今回の役に合うだろうと思ってくださったという事は、再びお会いした時に仰ってくださったのを覚えています。

--ミャンマーの女優さん(スースー役のナンダーミャッアウン)との共演ですが、彼女は大学生で素人だそうですね。そういう女優さんと絡むのはどうでしたか?

長谷川:やりづらいと思う俳優さんはいませんし、基本的にその人の才覚を持って、芝居を合わせたり、合わせなかったりすることが楽しいですね。彼女にとっては初めての経験なわけですから、僕で補える部分がもしあるならサポートしてあげたいと今回は思いましたし。彼女には、何か不思議なフワっとした感じがありましたね。

--極端ですけれど、ある意味ヤンゴンの象徴というか。

長谷川:発展していく象徴というか、存在がちょっとかげろうのような、特にミャンマーの暑い中に出てきて、またフワッと消えてしまうような。そういう雰囲気がありますよね。多分、鈴木はそんな感じで見ているのではないかと思っていました。

--ところで『半世界』は今回、コンペティション部門に出品しています。長谷川さんは、炭焼き職人の稲垣吾郎さんの友人であり、元自衛官という役で出演しています。阪本監督とも初と聞いています。

長谷川:どうして、瑛介という役を僕にと思ってくださったのかなと思いました。なかなか、瑛介のような役を僕にとキャスティングしてくださる方はいないのではと思っていたので。自衛官だからといって、マッチョなタイプの人を選びたいわけではないと、監督は仰っていました。映画は分かりやすいと思いますが、僕が演じる役は表現が難しいところがあるので、これも駆け引きのようなところが、自分としては良かったと思います。

取材・構成 小出幸子(TIFFオフィシャル)
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