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東京国際映画祭公式インタビュー 2018年11月1日
アジアの未来部門『はじめての別れ』公式インタビュー
リナ・ワン(監督)
新疆ウイグル自治区の鄙びた村。ムスリムの少年アイサは、父が営む農牧を手伝いながら、重い障害を患う母の面倒を見ている。一緒に羊の世話をしてくれる近所の少女カリビヌールだけが、真の友だちだ。ウイグル族の子供が貧しさを克服するには、中国語の習得が不可欠だが、カリビヌールの成績が悪くて両親は思い悩む。一方、アイサの家も、兄の進学などで母の面倒を見る余裕がなくなり…。
子供を主人公にして少数民族の将来を見つめた本作は、見事アジアの未来部門作品賞を受賞。一念発起して、故郷で本作を手がけた
リナ・ワン監督(以下、ワン監督)にお話をうかがった。
――中国映画というよりは、イラン映画に近い雰囲気の作品です。
ワン監督:アッバス・キアロスタミのことを、詩人、偉大な映画監督として敬愛しています。イランの映画はシンプルだけど、人間をしっかり描いていますよね。それに、太陽の光が故郷の沙雅とよく似ているんです。
――「わが故郷、新疆の沙雅に捧げる」という献辞がありますが?
ワン監督:北京で映画を勉強して、自分なりの美意識を持つようになって、経験したことしか表現できないと悟って沙雅に帰ってきて撮ったんです。最初の1年間はフィールドリサーチのように、羊の放牧やトウモロコシの収穫、綿花摘みの光景を記録していました。子供時代、アイサやカリビヌールのように木登りしたり砂漠に行ったりして、遊んでばかりいたから、思い出が詰まった作品なんです。
――映画のように、砂漠ででんぐり返りして遊んだ?
ワン監督:タリム河とタクラマカン砂漠の近くで育って、小さい頃には蜃気楼も見たことがあります。樹齢千年になる世界最大のポプラ林も周辺にあって、子供たちがポプラの木に登って話す場面がありますが、私も子供の頃、あの木のてっぺんまで登ったものでした。映画なんか観ませんでしたよ(笑)。
――アイサ君とカリビヌールちゃんが主人公で、ふたりとも実名で役を演じています。1年間リサーチする中で彼らに魅かれていったのですか?
ワン監督:実は、アイサとカリビヌールは知り合いではないんです。でもあまりにチャーミングだから、映画として撮影するときに引き合わせたんです。カリビヌールが弟を連れてきたので、姉弟で出てもらうことにしました。
――アイサ君の兄の役も、実のお兄さんが演じているようですが。
ワン監督:アイサの兄も、私が意味を込めた重要な人物です。リサーチしている最中、このお兄さんがアイサに、「新疆大学に合格すれば、輝かしい未来がある」と話すのを聞いてシンパシーを感じました。アイサが崇拝した顔で兄の話を聞いているのを見て、成長して思い描いていた夢と訣別する兄の役柄を思いつきました。
――そのように、人間観察しながら物語を発想されたわけですね?
ワン監督:1年かけて観察し、子供たちの未来に思いを馳せ、ウイグル民族の象徴のようなドラマにしました。
――演じているのも村人ですが演技指導は?
ワン監督:全員素人で、演技を教えることはできないので、リアルな演技を引きだすのには苦労しました。まっすぐにボールを蹴ろうとして、曲がってしまうことがありますよね? 彼らの演技も同じです。いい演技を引きだすために入りやすい環境を作ってあげて、事前の雰囲気づくりを大切にしました。
――母親が「成長するときに人はさよならを言うの」と言う場面の、カリビヌールちゃんの表情は絶品です。
ワン監督:あそこも、実は雰囲気づくりが大変でした。現実であると信じさせるために、引っ越し用の車を家の前に停めて、「あれに乗ってお別れするんだよ」と言い聞かせました。
――ウイグル人にとって中国語が話せないのは、やはり不利なことなのでしょうか?
ワン監督:北京語が中国の標準語であり、方言はどれも地方でしか通じませんから。ウイグル族の子供たちが北京語を覚えれば中国各地の人と交流できるし、どこでも食べていけますから。
――晴れて、東京国際映画祭のワールドプレミアが終了しました。
ワン監督:東京に来ることができて本当にうれしいです。東京国際映画祭は、私が心から好きでいられる映画祭です。映画のセレクションといい、運営のしかたといい、文句のつけようがない。是枝裕和監督、小津安二郎監督、河瀨直美監督のことも大好きで、これからも観続けたいと思っています。
――最後に今後の抱負をひと言。
ワン監督:中国では来年の夏休みにこの作品の公開が決まっています。これは、誰もが子供の頃に経験した物語です。未来の生活、暮らしの心配、親が子供に寄せる期待、子供が持つ夢といった素朴な事柄が描かれています。親子でご覧になっても共感してくださるんじゃないかと思います。いつか日本でも公開できればいいと期待しています。
(取材・構成 赤塚成人 四月社・「CROSSCUT ASIA」冊子編集)