10/27(土)Japan Now 映画俳優 役所広司『うなぎ』上映前、役所広司さんをお迎えし、トークショーが行われました。
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役所広司さん:ありがとうございます。たくさんある映画の中で『うなぎ』を選んで来てくださって、ありがとうございます。今村監督はもう亡くなりましたが、本当にスタッフとキャストにものすごく愛された愛おしい方でした。かなり面白いおじさんでした。監督として、こんなにスタッフを大事にする監督というのはなかなかいない、素晴らしい方でした。
安藤紘平プログラミング・アドバイザー(以下:安藤PA):今村監督の話を続けましょう。どんな監督でしたか。
役所広司さん:まず台本は最初『うなぎ』というタイトルでいただいて、お金が集まらないので一回中止になった。それで、やっぱりやるとなって、その時にはその台本のタイトルが原作の吉村昭さんの「闇にひらめく」に決定したんです。
製作発表があって、大きく「闇にひらめく」というタイトルだったのですが、僕と監督とが記者の人たちの前に登場する前に、今村監督がプロデューサーの奥山さんに「僕は『うなぎ』っていうタイトルが好きなんだけどね。どうしても『うなぎ』じゃダメかね?」と言いました。すると奥山さんが「どうしても「闇にひらめく」じゃだめですか?」と(笑)。「僕はね、『うなぎ』というタイトルが好きなんだ」と。
それで「わかりました」ということで、会場にプロデューサーの奥山さんと出て、奥山さんがまず、「タイトルは「闇にひらめく」と書いてありますけれども、監督が『うなぎ』がいいっていうので『うなぎ』に訂正します」って(笑)。それがこの映画の始まりでした。
安藤PA:それは製作発表ですよね。
役所広司さん:製作発表です。
安藤PA:そうすると、いろんな印刷物やメディアの方に配るものも全部直さなきゃいけなくなったと。
役所広司さん:そうです。もっと監督も早く言えばいいのに(笑)。
安藤PA:ただ、『うなぎ』というタイトルは、監督の今村さんの真意はどうだったかわからないけれども、なかなかいいタイトルだと思うのですが、いかがですか?
役所広司さん:いいと思います。「僕はうなぎが好きなんだ」とおっしゃっていました(笑)。監督と初めてお食事をした時もうなぎでした。
安藤PA:役所さんはまっすぐで、うなぎはくねくねしていて。うなぎというのは生殖と無縁なんですね。南の海に行ってメスは産卵して、オスはそこに精子をばらまく。だから、子供はどの親の子かわからないようになっていると。だから素晴らしい。見ていただくとわかると思うのですが…。
役所広司さん:僕も知らなかったんですけどね。そうやって帰ってくるなんてこと。
安藤PA:赤道までぐらいまで行って帰ってくると。今村さんは、本当に人間が好きな方ですよね?
役所広司さん:そうですね。今村さんは人間が大好きで。人間の愚かなところが大好きなんですよね。
安藤PA:決してコメディと思えないようなものも、ご自分では「重喜劇」と言って。今村さんの造語らしいですけれども。今村さんのそんな感じのところはどうでしたか。ご本人は結構コミカルな方ですよね。シャイだし、優しいし。
役所広司さん:冗談を言っているのか、まじめなことを言っているのか、よくわかりにくい方でした。でも、ここでは言えないような面白い話はいっぱいあるのです。僕はそのネタで、いろんな現場で今村さんのお話をしていますけれど、こういう場所では本当に言えない話なんです(笑)
安藤PA:『うなぎ』を選んだのは、一つは今年日本映画として、是枝監督の作品がカンヌでパルムドールを20年ぶりにとったからです。その20年前にカンヌをとった作品だと。
役所広司さん:あの時はもう今村監督は先に帰っていたんですよね。
何なんでしょうね、嫌なんですかね。ああいうところで授賞式とか。言い訳として、俺が帰らないと賞をもらえないということをおっしゃっていました。それで、先に日本へ帰ったんです。僕が初めてのフランス旅行で、パリに帰りに一泊したいなと思って、パリのホテルをとっていたんです。「もしも何か賞をいただけるようだったら、カンヌに帰ってきてよ」とプロデューサーに言われていて。「わかりました」と言って、パリのホテルにチェックインしていました。そしたら電話がかかってきて、「何かがあるらしい、戻ってきてくれ」と言われたんですよ。しかし切符が取れないんですよ、飛行機のチケットが。
結局僕の初めてのパリは、ほとんどホテルの中で電話の応対だけで終わってしまいました(笑)。次の日の朝、ホテルのすぐそばのカフェに行ってクロワッサンを食べたのが初めての外出でした。そして、何とか切符が取れて、カンヌに帰って授賞式に参加しました。
安藤PA:まだパルムドールとはわからなかったんですね?
役所広司さん:わからなかったです。ちょうどその時は50周年だったんです。カンヌ映画祭で今村昌平さんというのはすばらしく尊敬されていて。ちょうど50周年だったので50周年の特別賞みたいなことかなと思いました。
いろんな受賞者、主演男優賞、いろいろ発表があって。ショーン・ペンさんがその時の主演男優賞でした。カトリーヌ・ドヌーヴさんが受賞のトロフィーを渡して…。ドヌーヴさんがチュッとしてたんです。
僕はなかなか呼ばれないので、ないんじゃないの?と思っていて…。でも、最後のパルムドールの発表になって呼ばれたとき、僕は壇上で言ったんです。「どうも僕のことを皆さんが今村昌平だと誤解しているんじゃないか」と(笑)。うちの家内が隣にいたんですけど、「私は今村昌平じゃありません」って言ったほうがいいよって(笑)。まず第一声が「私は今村昌平じゃありません」って。何の話したか、本当に覚えていないんですけれども。
あと覚えているのはカトリーヌ・ドヌーヴさんがトロフィーを渡してくれて、僕もちょっとチュッてしたほうがいいのかなって(笑)。すごく迷ったんですよ。直前まで迷ったんですけど、とうとうできなかったです。
安藤PA:これが本当に最後の役所広司さんのトークになりますので、皆様からのいろんな質問を受けてくださります。なんでも聞いていいですよ。
Q:数年前に多分東京国際映画祭でかかった『神風タクシー』寒竹さんの役、『Shall we ダンス?』の杉山さん、先ほどの『CURE』の高部さん。全部、「ああそうですか」っていうセリフがあります。
役所さんがご自分の映画は見返さないとおっしゃっていたんですけれど、すごく「ああそうですか」を言っていることを覚えていらっしゃるでしょうか。
役所広司さん:「ああそうですか」。
それはですね、『神風タクシー』の寒竹さんがよく言っていました。ブラジルから日本まで移住してきた日本語がへたくそな役でした。なので、ブラジルの移民の方で日本に出稼ぎに来ている人たちのお話をたくさん聞きました。
そうすると、「ああそうですか」。よく理解しないで「ああそうですか」と言っている感じがすごくあったんですよね。例えば僕が映画の人としゃべるときによく理解していなくても“Yes, Yes”と言うみたいなもんです。そのへん似ているなと思って、「そうですか」「そうですか」というのはたくさん言いましたね。
安藤PA:でも今回のQAなんかでも多かったって書いてありましたね。
役所広司さん:あ、そうですか、そうですか(笑)。
安藤PA:寒竹さんが入っちゃってんですよ(笑)。
Q:この作品の中で、役作りで一番心がけられたことは何ですか。
役所広司さん:刑務所の中にいて床屋さんをやっていた人なので、クランクインの前に、床屋さんに修行に行きました。床屋で何となく上手くはさみを使えるようになって。それで撮影に挑みました。しかし、そのシーンになると、監督が 「そんなに丁寧な床屋じゃなくていい。もっと雑な床屋になってくれ」って言われたんですよ。
まあせっかく上手く出来るようになったんですけど、それはもうまったく役に立たなくて(笑)。
Q:この作品の、役所さんにとっての見どころをお伺いしたいです。
役所広司さん:見どころっていうのはね、本当に難しいんですけど。やっぱり今村昌平さんってのは本当に人間が好きな監督です。それには登場人物1人1人に物語の中でドラマがあって、それぞれのドラマが絡みあっていくところが本当この『うなぎ』というのは 面白い。全体で言うと、そうですね、やっぱり希望があるんですよね。最後はやっぱり何か希望を感じる映画に出来上がっていると思います。
Q:『オー・ルーシー!』や『バベル』を見たのですが、日本とアメリカの撮影現場の違いを教えてください。
役所広司さん:そうですね。ハリウッド映画は本当にケータリングが豪華ですし(笑)。もう、常にいろんなお菓子が並んでいます。多分その予算で日本映画1本撮れるかと(笑)。
でもまあ、世界中から素晴らしい才能が集まっているところですから。それに加えて、ハリウッド映画ってのは、やっぱりスタッフが多いですよね。セットにしろ、すごく大がかりだと思います。
俳優としては、カメラの前に行けばメル・ギブソンでも、誰だって同じだと思います。ただキャメラがあって、キャメラがないつもりでお芝居をするだけですから、それは全く、俳優として行く場合は全く関係ないような気がしました。
Q:良い作品に出会うにはどうすればいいですか?
役所広司さん:あー、難しい質問ですね(笑)。良い作品に出会う…。うん、やっぱり願い続けることじゃないですかね。
自分がどういう作品が好きで選んでいくかって、俳優自身の個性になってきますから。作品を選ぶことも個性になってくるし、台本の解釈も、セリフの解釈も、全て人それぞれ違いますからね。それをやっぱり、より深く語れるように頑張ることしかないんじゃないですかね。
僕もいつもそれを、「あー、うまくなりたいなぁ」と思って、もう40年も経ちますけど(笑)。
安藤PA:もうお話していると尽きないんですけれども、本当に今回が最後の上映になり、役所さんとのお話もこれが最後になりました。とても素敵なお話をたくさんありがとうございました。
素晴らしい5本の作品、そして今これから『うなぎ』がこれからかかりますけれども、本当にありがとうございました。
役所広司さん:ありがとうございました。