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2018.11.04 [インタビュー]
「今のミャンマーを「青」から「赤」に変わる、つまり青年から大人になる過程と捉えました」ーー『アジア三面鏡2018:Journey』公式インタビュー

アジア三面鏡2018:Journey

©2018 TIFF

 
東京国際映画祭公式インタビュー 2018年10月26日
アジア三面鏡2018:Journey』公式インタビュー
松永大司(監督)
 


 
国際交流基金アジアセンターと東京国際映画祭は、2014年にCROSSCUT ASIA部門を設立し、東南アジアの映画上映に尽力してきた。また、日本の映画祭がかつて着手したことのない、国際共同製作によるオムニバス映画を製作。第1弾『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』(監督=ブリランテ・メンドーサ、行定勲、ソト・クォーリーカー)に続いて、『アジア三面鏡2018: Journey』(監督=デグナー、松永大司、エドウィン)を完成させ、近日公開される予定だ。この第2弾のなかの一篇、「碧朱(へきしゅ)」を手がけた松永大司監督に、さる26日、映画祭ワールドプレミア前に心境をうかがった。
 
——東京国際映画祭では『トイレのピエタ』(15)と『オトトキ』(17)が上映されていて、今回が3回目の参加になりますね。
松永大司監督(以下、松永監督):監督同士の交流ができるところに、この映画祭のよさがあります。映画祭が盛り上がるぶん映画界も盛り上がれるんじゃないかと思います。
 
——行定勲監督に続いて、第2弾『Journey』の依頼を受けたときの心境は?
松永監督:実は、行定さんが第1弾の『リフレクションズ』で「鳩 Pigeon」を撮る前に、このオムニバスに参加すると教えてくれて「第2弾はぜひ僕に」と自己推薦したんです。
 
——志願して自らこのプロジェクトに飛び込んだ?
松永監督:正式に決まったときには、『ハナレイ・ベイ』(18)のハワイ・ロケも決定していて、2作続けて海外ロケで映画が撮れることになって凄くワクワクしました。
 
——3人の監督で1本の映画を作るというのは、互いの作品を比較されるから、ナーバスな側面もあると思いますが。
松永監督:自分にできることをやればいいだけで、それはなかったです。ほかの監督がどういうアイデアで作品を生み出すのか、楽しみでしたし。
 
——第1弾を観た感想は?
松永監督:1本目の印象を2本目や3本目は引きずってしまうので、オムニバスは難しいものだな、と。それで「3本まとめて見たときに、化学反応が生まれる映画にしよう」と、エドウィン(「第三の変数」の監督)やデグナー(「海」の監督)と話し合いました。
 
——いちばん最初に決まった物語は?
松永監督:デグナーの「海」です。彼女にはもともと練っていた母娘の話があって、それを撮りたいと思っていた。僕とエドウィンはほぼ白紙でした。
 
——じゃあ、デグナー監督の台本を読んで何を撮ろうか考えた?
松永監督:でも、あまり深くは読み込んでいません。それ以上に、自分がどこの国で撮影したいかを重視しました。カンボジア、ラオス、ベナトム、ミャンマーの4か国に興味があって、現地に住む日本人とスカイプ・ミーティングをさせてもらいました。各国の状況や生活上の面白味、今後どんな進化を遂げていくのかを訊いて、ミャンマーに特に惹かれてリサーチに行ったら、いろんなものがドンピシャと自分に響いてきたんです。
アジア三面鏡2018:Journey
 
——ミャンマーも日本のように、生活のペースを速めることで、豊かになろうとしているんですね?
松永監督:日本からの派遣社員の方々には、ミャンマー人のために速度を速めて、時間的なゆとりを作ってあげるという大義がありますが、果たしてそれが本当の豊かさなのか。答えはありませんが、事実を客観的に描くことは考えるきっかけになります。欧米流の豊かさを追求することで、本来持っていた豊かさを失ってしまうなら残念です。
 
——「碧朱」は30分程度の中編ですが、鉄道のほかにもフェリーやサイカー(ミャンマーの風物詩的な三輪人力車)を登場させて、旅の風趣を盛り立てていますね。
松永監督:リサーチに行った1週間ほどの間に、いろんな乗り物に乗って都会や村を周り、そこで感じたことをシナリオにしました。
 
——環状線のロケでは、乗客がエキストラのように自然に乗り降りし、線路を歩いていましたね。
松永監督:あれはゲリラ撮影に近いです(笑)。映っている乗降客の大半はヤンゴンの一般市民で、自分でもよくぞ撮れたと思います。
 
——そんななか、鈴木役の長谷川博己さんと観光客役のニコラス・サプットゥラさんが自然に演技を始めるところが、本作の見所のひとつになっています。
松永監督:長谷川さんとは初めて組みましたが楽しかったです。今回はドキュメンタリー風に撮りたかったので、あまり役作りをせず、自然に演じてほしいとお願いしました。普通の人と見間違うほどの存在感でありながらも、必要なシーンではうまさがほしいと。高度な注文でバランス的に難しかったはずですが、絶妙なさじ加減で演じてくれました。ニコラスはミャンマーに入ってから、長谷川さんと一緒にリハーサルしましたが凄くいい俳優で味がありました。
 
——お針子さんを演じたミャンマーの新人女優、ナンダーミャッアウンさんもよかったですね。
松永監督:現地の大学に協力してもらい、素人の女性を20〜30人ほど選んで、オーディションをさせてもらいました。
 
——『ハナレイ・ベイ』のハワイ・ロケの経験があったことも役立ちましたか?
松永監督:それはもう大いに。海外での映画撮影は日本とまるで違います。日本は作品単位の雇用契約で時間の制約がないから、朝から晩まで撮影してますが、アメリカは12時間半の間に食事を採って、次の撮影まで8時間空けないといけない。ミャンマーも12時間を超えると、スタッフの人件費と機材のレンタル費用で、2日目の料金が発生する規定があります。映画産業としてはまだこれからでも、労働環境はかなりちゃんとしているんです。
 
——『トイレのピエタ』も『ハナレイ・ベイ』も、精神的な重圧を抱える主人公の映画でしたが、本作は一服の清涼剤のような仕上がりですね。
松永監督:テーマ的には、『トイレのピエタ』の続編が『ハナレイ・ベイ』だと思っています。人が死んだところから始まるのが『ハナレイ・ベイ』で、あの作品で生死の循環みたいなものが、自分の中で一区切りついた感覚があります。これから先、違うスタイルとテーマを見つけようと思っていた矢先に監督に決まり、「碧朱」ではそういう要素を一切なくして、妖艶さ──どこかなまめかしい映像を思い描こうとしました。これは、ノスタルジックな感触や艶っぽさを表現したかった作品です。
 
——では今後は、色っぽい映画も手がけたい?
松永監督:ぜひ挑戦してみたいです。大人のラブストーリーで、色使いのきれいな作品を撮ってみたい。あと、サスペンス物もやりたいです。
 
——「碧朱」は辞書にない言葉ですね。ナンダーさんの着ている民族衣装風なワンピースに朱色の刺繍が縫ってあり、長谷川さんが買い求める服に碧色の刺繍があることから、ふたりの縁を結ぶ刺繍のことを指すのかと考えましたが。
松永監督:「碧朱」は僕が作った造語です(笑)。人間の一生は春夏秋冬に例えることができて、それぞれ色にも例えられます。春は青春の「青」、夏は成熟を表す「赤」という風に。僕は今のミャンマーを青年から大人になる過程、「青」から「赤」に変わる時期と捉えてますが、常用漢字の「青」と「赤」だとニュアンスが出ないし、色気もない。それで紺碧の「碧」と朱肉の「朱」を選んで、「碧朱」と付けたんです。衣装もそうですが、映像の色調もこのタイトルを意識し、青と赤を基調にしています。
 
取材・構成 赤塚成人 (四月社・「CROSSCUT ASIA」冊子編集)

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