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2018.11.13 [イベントレポート]
「喜劇と悲劇が紙一重」11/1(木)トークショー『黄金狂時代』

黄金狂時代

©2018 TIFF

 
11/1(木)、トリビュート・トゥ・コメディ『黄金狂時代』上映前、無声映画活動弁士の澤登 翠さんをお迎えし、トークショーが行われました。
作品詳細
 
田中文人(司会):よろしくお願いします。本来ですと、澤登さんの活弁付き上映といきたいところだったんですけれども、現在の『黄金狂時代』の公式の形は、このサウンド版となっています。それでもチャップリンの映画の話をするんだったら、これは澤登さんに登壇いただくのがぴったりだろうとお呼びいたしました。
 
澤登 翠さん:光栄です。
 
田中文人:『黄金狂時代』もちろんご覧になっていると思いますけども、いかがですか。
 
澤登 翠さん:大好きな作品です。なんていうんでしょう、笑いとそれから怖さっていうか、残酷さみたいなのを含めた面も出てくるし、喜劇と悲劇が紙一重みたいなところもあって、すごく惹かれる作品、大好きな作品です。
 
田中文人:澤登さんが活動弁士としてデビューしたときの作品がチャップリンの作品なんですよね。
 
澤登 翠さん:そうですね。チャップリンの1916年の短編『スケート』という作品でした。
 
田中文人:その時はいかがでしたか。
 
澤登 翠さん:弁士は台本を自分で書くんですね。今思うと非常に…(笑)。
ギャグを書いていて、例えば、主人公が偽の名称、貴族の名称を差し出すと、お嬢さんが「あら素敵!あなた、まあ伯爵様なの?うちの父は癇癪持ちなの」って。ゾッとするようなギャグがあるんですよ。シーンとなっちゃいますよね(笑)。本当にシーンとなっちゃう(笑)。そういうことを考えていて、でも初めて語らせていただいたって非常に印象深いし、もうすごいものがありますね。それもすごく感じました。
 
田中文人:チャップリンも長編、短編、中編。もう、すごい数の作品がありますけども、もしかして全部ご覧になっていますか。
 
澤登 翠さん:いえ、そんなことありませんよ。観ていないのもありますから、これからみようと思います。
 
田中文人:何本ぐらい今までチャップリンの作品、担当されたのでしょうか。
 
澤登 翠さん:短編がたくさんと、それから『黄金狂時代』とか、『街の灯』とか、そういう作品も以前は担当させていただきました。
 
田中文人:無声映画の上映会で、弁士付きの上映というのを、定期的に公演をやってらっしゃると思うんですけども、チャップリンって他の同時代の方と何が違うんでしょうか。
 
澤登 翠さん:そうですね。チャップリンはやはり、人間が生きてく上の色んなことにすごく敏感だったと思うんです。喜び、悲しみ、色んなものに。そういうものに自分の作品に投影させていった。そして自分で脚本も書いてって、物語を作った。ハロルド・クレイトン・ロイド・シニアの場合は、ちょうど第一次大戦後の上昇していくアメリカの20年代のあの上昇気分、それにやはり、彼のその明るくめげずにいざとなったら、スーっと勇気を発揮するっていうその青年像が、アメリカの上昇気分にすごく合ったんですよね。アメリカは上昇し、彼もビルをのぼるという、そういう用心棒といいますか。キートンは本当に色んな外界、自分を取り巻く周りの物に対して「これは何?不思議。」っていう少年の心というのをずーっと持ち続けていた人なんですね。だからすごく彼のギャグにはシュールなものがありますよね。
 
田中文人:今お話しいただいたのは、つまりチャールズ・チャップリンとバスター・キートン、ハロルド・ロイドというのはサイレント時代の三大名人ですね。自分で監督し自分で主演し、チャップリンが喜劇であり悲劇であり人情ものを撮るとは反対にキートンとロイドっていうのはアクション映画の元祖みたいな。
 
澤登 翠さん:そうですね、活劇というか
 
田中文人:確実にビルから落ちたら死ぬようなところで。
 
澤登 翠さん:本当に「もうこんなことしたら絶対持たない」みたいなギャグが次から次へと展開するのがロイドとキートンですよね。チャップリンの場合は何といっても表情や体の全てを使った身体演技。それがすごく繊細なんですよね。人間って顔で笑って、心で泣いてとか、例えば右手と左足とかそういうものが自分の感情の複雑さを体が表しちゃっていることあるじゃないですか。頷きながらも手は反発してるみたいな。チャップリンの映画はそういうのをすごく細やかに表現する方なのですごく驚きます。
 
田中文人:会場に伺いたいのですが、『黄金狂時代』をすでにご覧になっている方はどのくらいいらっしゃいますか。ということは今日初めてご覧になる方は何人ぐらい?
ありがとうございます。やっぱりやってよかったこの作品。今日初めて観られる方が多いですね。じゃあ、チャップリンの他の作品でもいいんですけど、チャップリンを初めて観るという方いらっしゃいますか。
やっぱりやるべきですねこれは。やっていかなきゃということですね。ありがとうございます。最近なかなか劇場で、大きなスクリーンで無声映画時代の作品をやるというのはないですからね。大事ですよね、こういうことやっていくというのはね。

 
澤登 翠さん:ええ、いろいろ知っていただけるのは嬉しいことですよね。
 
田中文人:この作品の時代背景というのは何年に作られたという話はしましたけれども、大体20年代の作品というのはリュミエール兄弟が最初にパリでシネマトグラフの上映をしてからたった30年程度で飛躍的に演出の内容が向上し、技術的にも向上していくわけですよね。20年代の映画というのはいかに豊かであるかということ、これはぜひ皆さん知っておいていただきたいなと思います。
 
澤登 翠さん:同感です(笑)。『黄金狂時代』を作られた経緯とはちょうどユナイテッド・アーティスツという会社が出来まして、グリフィスとチャップリンとメアリー・ピックフォードとダグラス・フェアバンクス夫妻のこの4人が作った作品で、会社の第一作目がチャップリンの『キッド』だったんです。そして二作品目がこの『黄金狂時代』なんです。ある日のことダグラス・フェアバンクス、メアリー・ピックフォードの豪邸に行って、そこで黄金を求めたというか、人々が長蛇の列を作って金を求めてアラスカへ行くというスライドを見て非常にインスピレーションが湧いた。こんなにみんなが金を求めてものすごい数の人がずーっといくというのにすごくインスパイアされました。
あとは他の本か何かでとてもみんなで何か隊列で行ったんですけれど途中で食料が尽きて皆さんすごく大変だった。飢えて本当に大変な思いをしたという。普段食べられないものも食べざるを得なかった。そういう二つのことが一緒になって『黄金狂時代』を作るということに至りました。でもそういう所から物語を編み出していくというチャップリンの想像力ってすごいと思いました。芸術家としてのその力に。
 
田中文人:そうですね。金鉱堀。金鉱を探して世界中から人間が集まってきて、その写真を見てなるほどこれでドラマを作れるってチャップリンは思ったと。
これ結構実際はものすごく金鉱堀の人たちは非常に過酷な状況に直面して、お互いの仲間の肉を食べたりして、ひどい話も残っているのですが、そこから冒険があり、恋愛があり。空腹がいかに人間を狂わせるかというテーマもありますよね。

 
澤登 翠さん:そうなんですよね。それでチャップリンすごいのは空腹な極限の状況の中でも、空腹は今だって大変なんだけど、彼はその状況の中でチャーリーのとる行動によってなんかすごいあっけにとられるような笑いを生み出すんです。悲劇と喜劇っていうのは本当に表裏一体というか。言ってしまうとあれなんですけど、ある男の人が錯覚してしまうんです。そのときのチャーリーの繊細で微妙なあの動きというのはすごいし、そこで子供達なんか「ぎゃーー」って感じで笑いころげていて、そういった人間の置かれた状況での悲劇性とあり得ないような状況になった時に惹きつけみたいな笑いが起きちゃうっていう観ている方の体がそういう風に反応してしまうっていう。それなんかもうチャップリンって人間というのを分かっている人だなと思います。
 
田中文人:言っちゃってもいいとは思うのですが、鳥ですよね。すごい巨大な着ぐるみの鳥が出てくるんですけれど、非常にリアルな鳥が出てくるんです。
 
澤登 翠さん:グロテスクなんですけれどなんかちょっと可愛い鳥。
 
田中文人:鳥を俳優さんに演じさせていたならば、どうしても納得がいかないということで、鳥までチャップリン自身、自分でやると。
 
澤登 翠さん:そうそうそう。そこが彼の動きにご注目をいただきたいです。
 
田中文人:70数分の映画ではございますが、撮影期間は一年以上かけて撮っているんですね。本当に珍しいちゃんとした模型を使った特殊撮影もやってますし、撮り直しも何回もしているそうで、それだけ自信のある作品だったと思うんですよね。
 
澤登 翠さん:すごく本人も気に入っていて好きな作品とおっしゃっていましたよね。
 
田中文人:チャップリンの他の作品で澤登さんがお好きな作品はあります?
 
澤登 翠さん:第二次大戦後の『殺人狂時代』ですね。あれはフランスに実際にあったお話の内容なんですけれど、それを見事にね。すごくちっちゃな虫の命を愛しむような主人公が、お金のために女性を殺めていくという。すごい皮肉というか、すごいんですけど。最後にチャップリンの処刑される寸前の見慣れないアピールというのはまたとてもいいんですよね。
 
田中文人:サイレント時代に活躍したチャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド。彼らは、音のついた映画のトーキー時代になって以降、キートンやロイドが仕事を失くしていくのとは反対にチャップリンは自分のスタイルを変えていくことで、極めて政治的になっていきますよね。独裁者であったり、今おっしゃった『殺人狂時代』だったり。トーキー以降もチャップリンは良い作品を作り続けていくんですよね。
それが先ほど澤登さんがおっしゃったように悲劇と喜劇は一体であるという演出、それはもう初期のころから完結し続けている。人はなぜ泣くのか。そして人は何に笑うのかということに対する研究っていうのは常軌を逸したような所もあるぐらいなところですよね。

 
澤登 翠さん:あの人はすごく人間、および人間社会を分かっていた人じゃないでしょうかね。小さい頃から震災を経験していて。まあ、それだけじゃないですしイコールでもないんですけど。本当に微細なところまで人間を分かっていた人なんだなぁってすごく思いますよね。
 
田中文人:やっぱりサイレント時代は言葉よりも体。言葉ではない表現の仕方を徹底して研究してきたからこそっていうのはありますよね。
 
澤登 翠さん:あと舞台出身じゃないですか。12歳くらいから舞台にたって、もっと大きいフレッド・カーノーの劇団に入って、アメリカ巡業に行って2回目にスカウトされて、アメリカ映画界に入ったんですよね。もともと舞台の人で、生のお客さんの反応を直に感じながら、色んな小道具を駆使していたわけですよね。そういう面ではすごく鍛えられていて、どういうことをしたらお客さんが笑うのか、すごくわかっていますよね。『黄金狂時代』でも小道具、彼は帽子とステッキと靴でしょう。その中の1つを徹底的に面白くしています。しかもそれをいとも優雅に扱うという、飢餓っていうのもあるはずなのに、それを優雅に扱っていますよね。
この『黄金狂時代』に本当にそういうところがよくでているなと思いますし、小道具、中には花もあるし花の使い方も上手なんですよ。あともう一つ私達がよく食べる、パンを使って、躍らせるんですよね。それは彼からしたら寂しい状況なんですよね。本当に寂しい状況で、来てくれない、来てくれないと思ってパンを躍らせているんですよね。その時の彼の表情は寂しさと同時に、だんだん陶酔感というか、演出家のような不思議な表情になっていくんですよ。そういう表情がチャップリンってすごくうまいし、見ていると寂しさだけじゃないものを感じることができます。
チャップリンは、社会が30年代40年代になっても、時代が変化しても、19世紀の終わりのような紳士の格好をしていますよね。時代がそうなっても。彼は属するところがないんです。お金持ちの人のところにも属さず、社会のどこにも属さないで、絶対的な孤独者なんですよね。それは寂しくもありますが、限りなく自由なんですよね。だから彼の表情には寂しさの中にもそうじゃない自由であるという何かがありますね。ずっとパンを躍らせていると、陶酔的なものになるのかもしれませんが、そういうチャップリンの複雑さがすごく好きで、この映画にもよく表れています。
 
田中文人:映画を観たことがなくても誰もがわかりますよね。山高帽をかぶって、ひげで、ぺたぺたした歩き方をしていてっていうようなところは(笑)。
 
澤登 翠さん:日本でも和製チャップリンがいたんですよ。小倉繁さん、中島洋行さんだとか、すごい影響を与えていましたね。
 
田中文人:その人達は何をしている人なんですか。
 
澤登 翠さん:喜劇俳優さんです。斎藤寅次郎さんの『子宝騒動』とか、国立映画アーカイブ『成金』という映画ですね。日本映画でもアメリカに通用するように作ったと言われています。本当にチャップリンそっくりで、そのような方々を生み出したくらいすごい方です。
 
田中文人:アメリカ公開と同時にも大正時代に公開してありましたもんね。すぐ影響受けていたということですね。
 
澤登 翠さん:1916年前後だったと思いますが、チャップリンは子供を含めたすごい人気ですから、25年て言ったら、すごいですよね。チャップリン人気が完全に定着していますし。淀川長治先生も絶賛されていましたし、色々な方がやっぱりオマージュを捧げていますよね。
 
田中文人:チャップリンの秘書って日本人だったんですか。
 
澤登 翠さん:高野虎市さんという方で、すごくよくチャップリンに仕えていた方です。ただ結婚したポーレット・ゴダードのことで対立して辞めてしまわれたんですけどね。
 
田中文人:チャップリンの結婚相手のすごく若い美人女優ポーレット・ゴダードともめたんでしょうか。
 
澤登 翠さん:彼女がお金使いすぎてしまったようで、高野さんが注意してしまったのかなと思います。ただ有能な秘書の方だったみたいで、チャップリンは日本が大好きで、庭師さんやコックさんも日本人のようです。戦前戦後4回も来ていて、淀川先生もお迎えに行かれたことがあるということです。1932年に来日したときは、五・一五事件に巻き込まれそうになったそうです。あと天ぷらが好きで、日本に来たときに、エビの天ぷらを33尾食べたそうです(笑)。
 
田中文人:チャップリンの映画はもちろん素晴らしいんですけど、モテますよね(笑)。片っ端から主演女優を自分のものにされていますよね。天才は許されますかね。
 
澤登 翠さん:ちょっと許せないところもあります(笑)。
 
田中文人:『黄金狂時代』も主演は別の女優さんだったんですけど、妊娠しちゃったんですよね。監督の子供を妊娠するからって降板して、もう一回オーディションしてジョージア・ヘイルになったみたいですね。
 
澤登 翠さん:やっぱりそれは許せないと思います(笑)。でも一番、最後に結婚されたウーナ・オニールさんが賢くて素敵な方で、やっと彼も落ち着きましたね。
 
田中文人:67年の『伯爵夫人』は、チャップリンって出演していたんでしょうか。
 
澤登 翠さん:わからないです。出ていたとしてもちょっとだと思います。
 
田中文人:あれを最後にチャップリンは映画を撮らなくなっているわけですけども、考えてみたら、1910年代から作品を作り続けてきて、60年代の末まで現役だったというのは、唯一無二の人ですよね。
 
澤登 翠さん:今もチャップリンという名前は皆さんどなたでも知っていますよね。その影響力って改めてすごいなと思ってしまいます。あと旺盛な制作意欲ですね。
 
田中文人:それでは、論より証拠ということで、作品を観ていただくのが一番と思いますので、どうぞご覧ください。

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