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2018.11.08 [イベントレポート]
「私たちは子供たちのために戦います」10/30(火):Q&A『ピート・テオ特集』

ピート・テオ特集

©2018 TIFF
10/28(日)のQ&Aに登壇された際のピート・テオさん

 
10/30(火)、CROSSCUT ASIA #05 ラララ 東南アジア『ピート・テオ特集』上映後、ピート・テオさんをお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
石坂PD(司会):ご来場ありがとうございます。CROSSCUT ASIA部門でございまして、今年は“映画と音楽の関係を探る”というテーマです。ピート・テオさんには「アジアの未来」部門の審査員を務めていただいています。今回は“ピート・テオ特集”の上映でした。
 
ピート・テオさん:こんにちは。泣けましたか?
 
石坂PD:9年前にも、ヤスミン・アフマド監督の追悼としてご登壇いただき、追悼ライブという風にミニライブを予定していたんですけれども、この歌は歌えない、ということになって、急遽取り止めになった曲がありました。お聞きしたらその後もやっぱりあまり歌っていないということで…あの曲はやっぱり歌うのは難しいですか?
 
ピート・テオさん:最後まで歌い切ることが出来ないので、ライブでは歌っていません。
 
石坂PD:その曲の映像がありましたので。貴重なんですよね。
 
ピート・テオさん:そうですね、ありがとうございます。
 
石坂PD:いろんな活動されていますけれども、今ご覧いただいた映像作品ですね、これの背景をちょっと教えていただいてから進めたいと思います。
 
ピート・テオさん:『15Malaysia』に関しては、15編の、マレーシアの政治状況に関して何らかのメッセージのある作品を各監督に作ってもらいました。その背景としては、皆さんに今、『Here in My Home』をご覧いただきましたが、これはマレーシアにおける人種主義に対しての一つの提言です。一つの私たちからのリアクションなわけなんですが、当時マレーシアは政権として非常に右翼的な、人種差別的な政策が敷かれていたので、それに抗いたいという気持ちで作りました。せっかくだったら何か国に対してちょっと物申すような作品を15名の監督を集めて作るのはどうだろうと思ったわけです。もう若くない人もいますが、当時まだそんなに成功していなかった、唯一国際的に知られているのはヤスミン・アフマド監督ぐらいだったでしょうか、彼らに、監督たちに、自分で国において大事だと思う課題を取り上げてもらいました。当時マレーシアではまだ様々な問題、公に取り上げられるということがないトピックもありました。ですから、取り上げたものとしては「腐敗」であったり「人種差別」、そして「幼児性愛」といったものですね。やはりこういったことを公的に、公に出すものとして取り上げたというのはこの作品が初めてだと思います。そして何かちょっと面白いことをやろうと思って、現役の政治家に俳優として出てもらいました。そういったことがとても話題になりまして『15Malaysia』はとても成功しました。2009年になりますけれども、インターネットで配信しました。もしこれを劇場でかける、テレビでかける、といった場合には、検閲にかかってどれも上映、放送出来ないんじゃないかと思います。どうしたかと言うと、15編ありますので、1日おきに新しいものをリリースして、ひと月かけて上映というか配信しました。インターネット上では検閲が入らないので、好きにアップロード出来るわけです。ちょっと画素が粗いので、インターネット鑑賞に堪え得れば、というクオリティで作っているので、ちょっと大きな画面で見ると目につくかもしれません。予算はとっても少なかったですよ。観終わった後で、インターネットの観た回数を確認すると、マレーシアは国民総人口が3,000万人ぐらいですが、そのうち1,800万の人が観ているんじゃないかという結果が出ています。この『15Malaysia』がきっかけとなって、ここで取り上げられたような課題が公の場で議論される場を設けられたり、あと野党の政治家の声をより発する、発言をする機会が増えた、ということに繋がりました。私自身もここから多くの政治家との仕事が増えるようになりました。『Vote!』という作品をご覧いただきましたね。あと『Malaysia Day』こちらなどに繋がったわけです。
 
石坂PD:補足しますと、本当にピートさんの人脈はすごいです。クアラルンプールから4~50分行ったところの、大農園の農夫もされていて、本当にトマトを育てて、曲を書いて、ギターを弾いて、みたいな生活をされています。私がお邪魔しているときも、“ちょっとこれからインタビューっていうか撮影があるんだ”と言って、政治家の方が来て、何か対談をされていました。
 
ピート・テオさん:日常から農民、農園に逃げてるんです。こういう逃避する場所があるっていうのはいいですよね。私たちは、野菜を育てています、野菜は嘘をつかないですよ。でも政治家は嘘をつく…正直者の野菜と過ごしています。
 
Q:ピート・テオさんがミュージシャンとして、最初に映画に関わりを持ったいきさつを教えていただきたいです。
 
ピート・テオさん:マレーシアで映画を作っているここ2年、『15Malaysia』 で声をかけたような友達はたくさんいます。スタートした時は私たちみんな貧しく、怒れる若者だったのですが、僕が少しだけ名前が売れるようになったんです。ナンバーワンヒットがあったものですから。映画を作っている友達は、「ヤツは顔が知られているから、映画に出てくれると(お客さんが)足を運んで映画を観に来てくれるのではないかな」という目論見があったようなのですが、それは全く外れて、僕を目当てに来てくれる人はあまりいませんでした。
 
石坂PD:でも、今やハリウッド映画にも出ておられますね。かなり極端な役柄を演じていらっしゃる。『ゴースト・イン・ザ・シェル』では本当に極悪非道な役でしたね。その一方で、来月(2018年11月)東京フィルメックスで上映されるインリャン監督の映画にも出ておられ、そこではこんな良い人はいないんじゃないかというようなお父さん役をやっておられて、役者も楽しいですか?
 
ピート・テオさん:あまり大変な仕事ではないので、俳優は好きですね(笑)。セットにいる人たちを見わたすと、俳優って一番楽ですよ。他のクルーの人たちは長時間働いていますからね。プロデューサーだったら最初に現場に入って、最後に出るとか。映画の撮影に入る前はプリプロダクションで3~4カ月、映画が終わったらポストプロダクションで3~4カ月と、ずっと携わっているわけです。ですから、全体で1~2年は映画にかかりっきりになるわけですね。俳優は、撮影の日に現場に入って、みんなによくしてもらって、終わったら家に帰ればいいから。2~3週間だけいて、公開になったら映画祭でレッドカーペット歩いて。いい仕事ですよね(笑)。
 
石坂PD:ということでございます(笑)。
 
Q:マレーシアを批判するような表現をするというのは、検閲に引っかかったら上映できないということなんですが、そういう作品を作ることはご自身の安全に危険が及ぶのではないかと怖いのですが、それについてはどのようにお考えでしょうか。
 
ピート・テオさん:怖かったです。ヤスミン監督の『Chocolate』は『15Malaysia』の1編ですが、3バージョン撮りました。3回目のテイクでしたが、30秒長かったんですね。でもそこは彼女に言って切ってもらいました。それを実際に投稿したら問題になったと思います。最後にベールを被った女性が、チョコレートをカウンターに置いたまま去っていきますよね。そのあと、何らかの政党をサポートをしているということが色でわかるような人が来て、誰もいないな、と思ってチョコが入っている入れ物を開けて出ていく、というのを撮ったんです。これは本当に大きな問題に発展してしまうので、ここは切ってもらいました。元々のスポンサーも、この映像をリリースする3日前にロゴを外したい、と申し出てきました。そして私自身ももちろん怖かったです。というのも、マレーシアでは裁判の手続きを経ずに無期限で刑務所に入れられてしまうことが法律で可能です。実際にスチールに白黒で写っている男性は裁判を経ずに召喚されたんですね。ただ、与党の人全員が悪いというわけではないです。実際に、この撮影の完成を可能にしてくださったのは多くの与党の政治家が協力してくださったからです。大手の新聞のジャーナリストに聞かれました。「怖くないか?」と。もちろん怖いですよね。刑務所に行きたくないですし。ただ、国をダメにしている、そういう人たちが実際にいるわけで、私たちには子供たちがいるわけですから、次世代の子供のために、私たちは子供たちのために戦います。「私のために怖がってくれるんですか?」と聞くと、ジャーナリストが「そうです」と。「じゃあ、私を助けてくれますか?このプロジェクトについていっぱい書いてください」と頼みました。みんなが観れば観るほど、私の身の安全になりますから。知られていないというのが逆に怖いわけです。誰がやっているかということが分かっていないと。みんなが観てくれるとより安全になります。ですから、そのジャーナリストは30日間ずっと書き続けてくれたんですよ。日によっては、「今日、書くことがないんだけど、なんかネタない?」って聞かれましたよ。マレーシアでは、みんながあまりに大きい、政府に対する怒りを抱えていて、もちろんレポーター、プレス、メディアの人たちもそれを感じています。私のプロジェクトについて書いたり協力してくれたがゆえに8~9人くらいの人が職を失いました。ですから、この人たちに会う度にこの人たちにお酒をおごってあげないといけないんです。
 
石坂PD:この『15Malaysia』ではいろんな反響が続いていまして、一番新しいところでいうと初日にレッドカーペットを歩いておられた『21世紀の女の子』ですが、プロデューサーに聞くと『15Malaysia』からインパクトを受けて企画を作ったと。やはり女性監督はまだ少数なので、ある種のメッセージにしたいという思いがあったみたいです。
 
ピート・テオさん:そういうことを聞くのはとっても嬉しいですね。
ポップカルチャーだけでなくエンタメだけにしておくのはもったいないですね。実は『15Malaysia』は若い世代にも影響があって、このあと多くの人たちが自分のバージョンのマレーシアを作ろうと。私たちも何かアップロードしたら『15Malaysia』とハッシュタグをつけてくださいとお願いしているのですが、投稿数が207マレーシアまで達成しています。
 
石坂PD:日本でライブツアーなどのご予定はありますか?
 
ピート・テオさん:僕はちょっと怠けものなので。
2004年から毎年のように日本に戻ってきて、今日ここにいらっしゃる観客の方の中にもライブに来てくださった方もいますが。ここ数年は演技の方が忙しいのです。でも、日本のお客さんの前で演奏するのは好きなので、またそういう機会があればいいと思います。

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