10/30(火)、特別招待作品『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。~』上映後、児玉宜久監督、プロデューサーの河合広栄さんをお迎えし、Q&A が行われました。
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児玉宜久監督:本作の監督をさせていただきました児玉宜久と申します。今日はお忙しい中ご鑑賞いただきありがとうございます。今回、この国際映画祭で上映できること、一般公開に先駆けまして上映していただきました。嬉しいことでございます。同時に光栄だという風に考えております。
河合広栄さん(プロデューサー):こんばんは。私、この映画の製作、プロデュースをさせてもらいました河合広栄と申します。私はこの映画の舞台になりました福井県勝山市出身でございます。今日はちょっと遅い時間だったんで、皆さん来ていただけるかな?とちょっと心配したんですけれども、たくさんの方に来ていただいて、本当に嬉しく思います。今日はありがとうございます。
司会:まずは河合プロデューサー、福井県のご出身ということで、この映画を撮るきっかけになったのはどういったところだったんでしょう?
河合広栄さん:私が福井県出身なのですが、色んな方に出身を聞かれたとき、「福井県勝山市です」っていっても、福井県が日本地図のどの位置にあるかわからず、皆さん“へ~”で終わっちゃうんですよね。なので、福井県をもっともっと皆さんに知っていただきたいっていうのがまず大きなひとつのきっかけです。もうひとつは、本当に福井の人はシャイで、控えめで、大人しい人が多いんですね。ですが、今回この映画で観ていただいた通り、廃線になった電車を市民の方々の力だけで、もう一回復活させる。心の中はすごく温かくて、熱いんです。そこを表現したくてこの映画を作らせていただきました。
司会:本作の主演が、お笑い芸人の横澤夏子さんですが、監督はご一緒してみていかがでした?
児玉宜久監督:既成の女優さんではないので、映画を観たときに新鮮さが出るかなと思いました。なぜお願いしたかというと、本編の主人公の、持って生まれた明るさ、人を笑わせる能力ですね、それと同時にその裏側に持っている陰りというか、闇とまではいいませんけども、何か抱えているものを同時に出せる人はどういう人かなっていったときに、横澤さんがいいんじゃないかなという話になりました。芝居としては未知数ですけれども、そこに期待をしてお願いしました。
司会:実際に現場でのお芝居はいかがでしたか?横澤さんの。
児玉宜久監督:とても自然に振舞っていただいて、演技していただきました。端々に出る面白い部分部分がありますので、それを本当に違和感なく演じていただけたかなと思います。
司会:河合プロデューサーからご覧になって、横澤さんはいかがでしたか?
河合広栄さん:そうですね、私は最初から「この役は横澤夏子だ」と思っていました。
司会:そうなんですね。そのポイントは何だったんでしょう?
河合広栄さん:顔ですね。あの北陸に絶対5人に1人はいるっていうあの顔です。
司会:そうなんですね。いわゆるそういう“北陸顔”というものがあるんですか?
河合広栄さん:ええ、そうですね。北陸地方には、5人に1人ぐらいはああいう方がいらっしゃいます。
司会:そうなんですか!そういったところに決め手が…。
児玉宜久監督:実際に彼女は新潟出身ですからね。
司会:劇中のお化粧をダメ出ししていくシーンで、3人について「ちょっと派手なんじゃない?」、「ちょっと地味なんじゃない?」というやり取りがありましたけども。ああいうやり取りも、どこか自然な部分から出て来たのかな、なんていう風に思いました。
児玉宜久監督:そうですね。
司会:福井県でのロケということで、やはり地元の方の協力であったりとか、地元の方々の反応だったり、その辺りも気になるのですが。撮影振り返ってみて、監督いかがでしょう?
児玉宜久監督:地元の方の協力はですね、万全な体制を敷いていただきました。作品全体の予算も潤沢ではなかったですから、僕は河合プロデューサーに、「これは地元の方の協力なしでは有り得ないですよ」って話をしました。そしたら、彼女の根回しというかですね、熱量がもうとてもすごいので、そのおかげで日々のスタッフの食事を作ってくれる方とか、エキストラの方もとても集まっていただきました。あと、もちろんえちてつを運営している方、整備の方、すべてのスタッフがですね、一丸となってやっていただけた結果、出来上がったたと思いますね。
司会:実際に地元の方が出演なさっていたりもするんですか?
河合広栄さん:そうですね。ほとんどそうですね。
本物の消防士の方も、火事がないから来てくれたんですけれども…そんなかんじでございます。
司会:撮影中にどこかで何か“火事だー”とかなっちゃうと。
河合広栄さん:もうないですね。
だからその日はもう「何も起こさないでくれよ」といってから撮影が始まったという…そんなこともありましたね。
司会:そうなんですね。やっぱり撮影には平和が何よりですね。
児玉宜久監督:はい。平和じゃなければ映画は撮れない、ということになりますね。
司会:実際にこの作品は、もう地元の方々にお披露目されたのでしょうか?
河合広栄さん:はい、させていただきました。
司会:反応はいかがでした?
河合広栄さん:本当に控えめな福井の人なので、もうくすりとも笑わないんですよ。ですが、終わった後、拍手が鳴り止まなくて、「すごい感動した」といって帰ってくださりました。
司会:結構笑えるシーンありましたけれど、皆さん真剣にご覧になっていたんですか?
河合広栄さん:福井の方は笑わないです。簡単には(笑)。
児玉宜久監督:いや、そんなことないでしょう(笑)。笑ってましたよ。いやいや、笑ってましたよ。笑うツボは何か所かありますんでね。
司会:ですよね。でも河合プロデューサーも実はちょっと緊張なさってた部分もあったんじゃないですか?地元でのお披露目っていうのは。
河合広栄さん:そうですね。一番近いところの方々に観ていただくっていうのは、一番緊張しますね。
司会:ましてや自分の故郷がこうして映画になるわけですから。
河合広栄さん:本当ですね。
Q:この映画の撮影の時期と日数を教えてください。
児玉宜久監督:撮影期間なんですが、昨年の11月11日から約3週間かかっています。途中何日か横澤さんが東京を行ったり来たりしていたので、その間は別のシーンを撮ったりしていました。その他、劇中のお祭りシーンなのですが、あのお祭りは毎年2月の最終土日に開かれるので、今年の2月末、実際のお祭りに2日ほどお邪魔して撮っています。
車内の撮影に関しましては、この私鉄は1両か2両の車両編成です。我々撮影隊が入りますと、一般の方にご迷惑がかかりますので、撮影用の臨時列車をダイヤの中に組み込んでいただきました。それが延べ4日くらいで、7往復くらい仕込んでいただきました。その列車には表に臨時と書いてあるので一般の方は乗れません。そんな風に、えちてつさんにはいろいろ協力していただきました。電車の中のシーンですが、線路の長さが決まっていて、約一時間で2つの路線を往復するのですが、外の景色がどんどん変わってきますので、実際はこのあたりの駅のシーンなのに、この駅の背景でおかしいじゃないか、ということが映画を観ると生じますよね。それがないように背景を注意しながら、撮影を早くしなければならないというプレッシャーのなかで撮影をしました。実際に車内の撮影をするときは、当日の朝、事前にちょっと練習をして撮っていました。
司会:ストーリーの駅あたりの車窓の景色はさすがに嘘をつけませんものね。
児玉宜久監督:そうなんです。市街地であるとか、左右が田園地帯であるとか、あとすぐ横に山が迫っているとか、場所によって景色が違うんですよね。
司会:えちてつはそれだけ景色の変化が激しいんですね。
児玉宜久監督:実際はよく目を凝らさないと分からないのかもしれませんが、やはり作るうえでの我々の姿勢ということもありますので頑張りました。
司会:ましてや大きなスクリーンで映画を映されるわけですからね。
児玉宜久監督:はい、悔いがないように頑張ったわけです。
Q:監督やプロデューサーが出したいと思ったメッセージが何だったのか、教えていただければありがたいです。
児玉宜久監督:映画を観ていただいて、おそらく故郷に想いを馳せるということがひとつのテーマというか。都会で日々忙しく過ごされている方が、自分自身の故郷に想いを馳せるというものであったらいいな思いました。原案となった「ローカル線ガールズ」という本にあるのですが、2000年の12月と2001年の6月の2回、えちてつが正面衝突の事故を起こしています。事故を起こして一度運行停止になったものが、復活して、市民とともに生きている。運行会社のえちてつにしろ、人生にしろ、苦難というのは必ずどこかにありますよね。そのときにどう乗り越えるのかという思いというか、それが出せたらいいなと思いました。
それをいかに映画を観た方に伝えるかですが、やはり押しつけがましくなってはいけないということが一番注意するところでした。ですから、そういった苦労話とか、苦労から立ち上がった話を、どうすればストーリーに違和感なく組み込んでいけるか。今回は、村川康敏君というライターと一緒に脚本を作っていったんですけど、彼と一緒に苦労したのはそこですね。この作品は5つの市町村の資金から製作費は発生していますので、ともすれば観光映画になってしまうところなんですが、それをいかに観光映画にしない。風光明媚なところがいろいろ出ますけれど、それがストーリー上、違和感なく融合するように作っていきました。これはシナリオ作成時、村川君と共有したことであり、河合さんとも一緒に譲り合ったり、押したりと、駆け引きがありました。
Q:お祭りがあった日のシーンはすごい晴天で、その前のシーンで厳しかった駅長さんと話しているシーンは天気が悪かったのですが、もしかしたらその移り変わりが、心情を表しているのではないかと考えてしまったのですが。
児玉宜久監督:事件が終わった後、停車場の車庫のところで話しているシーンと、直後の祭りのシーンは別の日に撮影しました。お祭りのシーンを撮影する日は天気のよい日だったのですが、彼女の気持ちがポーンと変わったシーンなので、そこは晴れてもいいよねと。むしろ晴れじゃなくちゃいけないよねと、ということがあったので、自然に逆らわずに撮影したというところですね。
司会:日本海側というのは、けっこう天気の移り変わりが激しいですよね。
児玉宜久監督:はい、とくにこの時期、11月というのは福井のあたりは、ほとんど曇りや雨だと聞いてました。撮影に入ったとき、絶望的な気持ちになったのですが、それを逆手にとりました。例えばトップシーンも雨が降っていますけれど、これは主人公の心情を考えたら、雨でいいんじゃないかということになりました。クランクイン初日の最初のシーンだったので、みんなが「これじゃ撮影できないんじゃないの」という空気が蔓延したんですが、僕がちょっと考え方を切り替えまして、「むしろこれでいいと思うよ」と撮影が始まりました。
現実にそうすることによって、あのシーン、あるいはその直後の電車に乗っているシーンで、彼女には何かあるなと。今となっては、これから何か起こるんじゃないか、何か問題を抱えているじゃないかという表現になったかなと思っています。