10/30(火)、コンペティション『シレンズ・コール』上映後、ラミン・マタン監督、俳優のデニズ・ジェリオウルさん、女優のエズギ・チェリキさん、プロデューサーのエミネ・ユルドゥルムさんをお迎えし、Q&A が行われました。
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ラミン・マタン監督:本日はお越しいただき、ありがとうございます。本日上映できたことを光栄に思います。作品を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
矢田部PD(司会):デニズさんは1回目の上映にいらっしゃれなかったので、「やっぱり出られなかったか」と思ったんですが、実はイスタンブールから今回東京へ来てくださって嬉しく思っています。
デニズ・ジェニオウルさん:東京に来られなかったら、本当にこの作品のようになってしまうところでした。来られて大変嬉しくまた光栄に思っています。
エズキ・チェリキさん:皆さん、こんにちは。ここに来れたこと、大変嬉しく思っています。この作品を気に入ってもらえたら嬉しいです。
エミネ・ユルデュルムさん(プロデューサー):本日は皆さんお越しいただいて、ありがとうございます。ここに来れて、大変嬉しく思っています。
Q:イスラムの国なので、イスラム色の強い映画だと思っていたのですが、モスクも出てこなかったし、女性のスカーフも出てこなかったです。今のイスタンブールはこんな感じなんでしょうか。
ラミン・マタン監督:はい、イスタンブールはこんな感じです。場所によって若干の違いはあります。モスクも何か所か映っていました。保守的なイスラム教のサインがいっぱい出ているところもあれば、それほど出ていないところもあります。これが本当に今のイスタンブールです。
矢田部PD:再開発の建設が起こりまくっていますが、これは特定の地域なんですか。それとも結構イスタンブール中であんな感じでしょうか。
ラミン・マタン監督:本当にイスタンブール中で建設がされている感じですね。古いビルを解体して、特に価値の高い土地には集中していますが、ほぼ全域で建設ラッシュが起きています。
Q:土地の歴史も含めてこの作品を作った理由をうかがいたいです。また、劇中で使用している楽曲にもメッセージを感じたんですが、その辺りについて教えてください。
ラミン・マタン監督:イスタンブールだと、車で4時間行ってもまだ街から出られないんですよ(笑)。そういう状況を深堀していきたいなと思ったのが、この作品を作ろうと思ったきっかけです。これが私たちが生きている日常で、おかしな建築ブームのようなことが起こっていて、それをどう対処しているのかを深堀りしたかったんです。家から一歩出ると、周りで建築ラッシュが起きていて、何も考えずに「それが普通だ」と受け入れてしまっています。全然それを見ようとしないということが心配になったので、何が起きているのか、ほかの人たちはそれにどう対処しているのかということをこの映画の中で描きたかったんです。この作品のキャラクターはこの地獄を作っている国の一人として世界を生きているので、それを見せたかったのです。
劇中で使用しているトルコ行進曲についてなんですけども、オープニングを編集しているときに思いついたんです。もともとこのトルコ行進曲の原題っていうのが「ロンド・オブ・トルコ」といいまして、つまりグルグル回っているというタイトルだったので、それこそこの作品の主人公がやっていることだなと。一か所に閉じ込められてしまってそこから逃れられるっていうこの作品のテーマにすごく合っているなと思って採用しました。最後調子が崩れているというか、わざと崩しているんですけれども。それは最後で崩したのではなくて作品を通じてちょっとずつ崩していっています。
矢田部PD:この主人公はなかなか複雑なキャラクターなんですけれども、デニズさんは彼をどのような人物だと理解して演じられましたでしょうか。
デニズ・ジェリオウルさん:年齢も同じくらいだったので、彼の考えていることを把握するのはそんなに難しくありませんでした。彼はおそらく現実というのを明確に把握する能力がなくて、全てから逃れようとするわけなんですけれども、頭の中では何から逃げようとしているのか分かっていない。常に自分の頭の考えにとらわれてしまっている。そして、色々なバカげた解決策を試してみるという役柄なので、ある意味この役柄は自分の目を覚ましてくれるような役柄でした。というのも、私も同じような年ごろで、同じような問題を抱えていて、それに対して何か解決策を見つけたいと思っていたので。タフシンという役柄をやることによって、これはやっちゃいけないことなんだなということを教えてくれました。
Q:タイトルについてお伺いします。シレンというのは、ヒロインの女性の名前なんですけれども、これってトルコでは普通の名前なんですか。わざわざタイトルにしているのに何か意味があるのかなと思いました。私の理解ではシレンっていうのは神話からきていると思うんですけど、そこは何か意味を持たせているのでしょうか。
ラミン・マタン監督:「サイレン」というのはトルコ読みすると「シレン」と発音するんですが、同じですね。神話で人魚を指しています。名前としてもトルコでは使われますが、割と稀です。このタイトルをつけたのには意図がありまして、神話の中で人魚が海に引きづりこんでいくという神話があるのですが、この作品でも同じなんですね。この男の人をどんどん引きづりこんでいく…同じような状況なのでその神話からこのタイトルにしています。
矢田部PD:エズギさんがそのシーンを演じられているんですけれども、今おっしゃったように引きづりこんでいく女性としてこの作品作りに工夫されたことはございますでしょうか。
ラミン・マタン監督:今回、シレンという女性は大都市を離れていきます。デニスも離れるのですが、彼はファンタジーと追い求めて離れ、彼女は夢を追い求めて離れた。このキャラクターは客観性があった。そこが彼女の役柄にアプローチする上で一番フォーカスしたところです。
矢田部PD:ファンタジーと夢は違うと。
ラミン・マタン監督:そうです。
Q:キャラクターはどういう学びの経験をしたのか。安全圏に戻って、愛を求めて旅を続けたのでしょうか。
ラミン・マタン監督:それは観客のみなさんの解釈にお任せしたいと思います。作品の中にヒントはいっぱい散りばめられていたと思います。彼が何を学んだのか。何かを学んだとは思うのですが、どのように学んだのかということはさし控えたいと思います。自己中心的なままなのか、自己中心とは別なのか、それは皆さんの解釈にお任せしたいと思います。
デニズ・ジェリオウルさん:監督が観客の方々に解釈の余地を残すのはあり得ると思います。俳優としてはできないです。キャラクターを作り上げるときに、彼を正しい場所に導かないといけないと思います。いつまでもぐるぐる回っているままではいけない。ひとつレベルアップ、ステップアップしてもらいたいと思っているのです。ひとつ上がったステップでどんなループがまっているかわからないので、少なくともこれまでと同じではないという状態にしたいです。
ラミン・マタン監督:この作品の最後で、彼は同じ場所に戻って来ているように見えるんですね。同じバーで女の子から逃げ道を提案されるけれども、彼はそれを受け入れない。ファンタジーに向かう道だったかもしれないけれど拒否して、自分でループを壊す。その後に何が起こるのかはわからないので、皆さんの想像にお任せします。
Q:今、トルコで女性たちが、ヒッピー共同体をやっている動きがあるのか、そのあたりリアリティがどの程度なものなのかお聞かせください。
ラミン・マタン監督:これはリアルです。必ずしも女性だけでというわけではないのですが、多くの方がこうした共同体を作ろうとしています。それはイスタンブールから逃れるために作ろうとして、そのうち多くの方が失敗して戻ってきている現状があります。動きというと大げさですが、一部の人たちが確かにそうした共同体を作ろうとしています。今回のものも実際にあるものです。