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2018.11.07 [イベントレポート]
「不器用だということが、登場人物たちの愛らしさにもなっている」10/28(日):Q&A『愛がなんだ』

愛がなんだ

©2018 TIFF
オープニングイベント・レッドカーペットに登壇した今泉力哉監督、岸井ゆきのさん、深川麻衣さん、若葉竜也さん、福嶋更一郎さん、成宏基、前原美野里さん、服部保彦さん

 
10/28(日)、コンペティション『愛がなんだ』上映後、今泉力哉監督をお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
今泉力哉監督:すぐ隣の方とかみんなのリアクションが感じられる空間で一緒に観て、感慨深いものもありましたし、逆にスピーカーとか良すぎて、パーティーのシーンの音とかドスドス来すぎてた感じがしたんですけど(苦笑)。やっと初めてお客さんに観ていただけて、特に何か所か、試写では伝わらなかったちょっとしたニュアンスでも笑いが起きたりとか感じられて、凄くよかったです。
 
矢田部PD(司会):監督なりに片想いとは何なのかを突き詰めて作られたと思いますが、監督にとって片想いって何なんでしょう。
 
今泉力哉監督:まず、人の言葉を借りて言うと、ウッディ・アレン監督が昔インタビューか何かで、「片想いのうちは相手の全てを知らないでいられるので一番強い愛でいられる」。両想いになると相手のマイナスも見えてくるけど、片想いのうちはそこまで相手を知れないのでそのままでいられる、と言うのを聞いたことがあります。
付き合った以降の関係も面白いんですけど、知る前だからこそ理想化されていたりというのはあると思います。でもこの作品においては、テルコが相手のマイナスの部分を知ってしまってもまだ好きと言い続けるという状況になるので、それは原作者の言葉を借りるなら、相手の悪い部分を知っても好きっていう状態は裏切りようがないからどこまでもいつまでも好きでい続けてしまう、ということについての作品だったので、それはすごく面白い視点だし、面白い決断をしていく主人公だなと思いました。
 
矢田部PD:確かに、片思いしてる時のワクワク感の方が、振り返ってみると付き合ってからよりも幸せだったりしたことは皆さん経験があるんじゃないかと思うんですが(笑い)
そういった面もありつつ、監督がおっしゃったマイナス面を見ても好きであり続けるっていうのは、どこか残酷なことでもあるかもしれないとは思われませんでしょうか。

 
今泉力哉監督:途中ですみれが「だからホントはテルちゃんみたいな人とマモルちゃんは付き合えばいいんだよね」って話が劇中で旅行の夜に出てきます。普通に付き合ってる恋人とか結婚してる夫婦とか、長くうまくやっていってる人たちは、相手の悪い部分を知っても一緒にいたりするのが普通の恋愛の形で、悪い部分というか、自分が知らなかった部分だったり知ってマイナスな部分はどうしてもわかるわけで、だから実はあの二人が何かきっかけがあったり何かずれがあって、結ばれてたらとても理想になる可能性はあったっていうことはとても残酷だなとは思いました。仲原とテルコは対比のように出てきますけど、仲原はある種気づけたというか、諦めて別に向かったりとかできる機会は得ているけど、それを自分がする前にされてるのでどんどんどんどん追い込まれて行っていたとは思います。脚本を作っていく中で、テルコをなるべく一人にしてこうという意識はありました。
 
Q:とても不思議な魅力にあふれた作品で、とても楽しませてもらいました。
 
今泉力哉監督:ありがとうございます。
 
Q:テルコとマモルの関係性って言うのはもしかしたら監督がモチーフとして周辺を描くことの方に力点を置いてたりしたのかなとも思ったんですけども。例えば原作からどのような部分をエッセンスとして抜き出したそうと図られたのか、あるいはどの辺に力点を置かれたのか、その辺を教えていただければと思います。
 
今泉力哉監督:まず、マモルという人物についてですけど、彼がテルコの気持ちにどのくらい気づいているのか気づいていないのかとか、その辺が多分人物としてある種曖昧でもあり、人物としてどのくらい立つかっていうのはひとつあったと思うんですけど、周辺を描いていくってのは確かにある関係性を描くときに、仲原と葉子の関係もそうですけど、いろんな部分を使って出る気持ちを見せていくっていうのは確かにしていたことだとは思います。
原作を読んだときに、マモルじゃなきゃだめな部分もテルコにとってはあるんだと思ってたんですけど、読む人によってはこれはたまたまマモルだっただけで、別に愛せる相手がいたら誰でもよかったのかもしれないっていう読み方をしたりする方がいたりする原作であって、その辺が今のマモルのある種の実像のなさだったりっていうことと関係しているのかなとは思いました。
実際、小説から映画にする際の場所としてはマモルという人を人物として描くわけで、テルコはマモルとの距離感とかは、もちろん原作にもあるけどより気を付けていったり、原作の方がもっとよりマモルがひどい行動をとっている部分もあったりとか、その辺は逆に省略していったりしました。あと、それはマモルとはちょっと離れるかもですけど、原作は旅行に三人でいってるんですけども、そこに仲原を連れて行くことで仲原とすみれの会話がマモルとテルコの会話になっているようにしたりとか、そのあたりはまさに最初におっしゃった通り、周りとの関係性から二人の関係性を描くということに尽力しました。
 
Q:食べるシーンがとても多い映画だなと思ったのですが。テルコは落ち込んでいても食べていて、それを見て葉子が「あんたは~」というシーンがあり、食べるシーンについて監督が思うところがありましたら、お聞かせていただけますか。
 
今泉力哉監督:食べることはある種、生きることと繋がっていて。テルコは暗く重くなっていかない、それは食べているから。大福だけは食べずに去っていきますがね。「あ、食べなかったな」って思ったりしながら作ってたんですけど、意識的に食べることができているうちは元気だし。テルコには自殺するという発想はない人だし、そういう部分はテルコのひとつの魅力にもなってると思います。撮影の面からいうと、パスタにはいろいろな意見があるかもしれませんが、料理は基本的に美味しそうに見せようと意識的にスタッフと協力しました。失恋で辛くて食べられないというのは普通にあると思いますが、そこはテルコの強さでもあり魅力でもあり。葉子のお母さんの料理が出てきたりして、葉子の人柄が見えたり。テルコの料理って冒頭の不味そうなあれしかなくて。あれ以外テルコは自分で作ってないかもしれないですよね。基本的に外食の人なのかもしれないですよね(笑)。
 
Q:観てるうちに自分の中に当てはめてみたら、あの人もこの人も性格が似ているなと思うところがありました。そのキャラクターの性格を抽出するために、何か意識的にしていたことがありましたか?
 
今泉力哉監督:たくさん人物が登場する群像劇をいつも作っているのですが、結局コミュニティといいますか、近くに生きている人同士は似ている部分がありますよね。5人をわかりやすくするために、あの人はこう、この人はこうとキャラクター付けすることはやりません。でも役者さんと話していくうちに、大げさになるところを抑えたりしているので、ひとりの人間に見えるかもしれないですが、自分としてはいい事だと思っています。
あと、キャラクターの付け方というところで、さっきの片思いの話に戻るかもしれないですけど、自分が興味がある人、自分が好きな相手とかには灰皿を取り替えたりとか、気を使えたり、その人の言葉はすごく聴こえるけど、自分のことを好いている人には、利用しているではないですけど、その人の言葉があまり耳に入ってこなかったり、鈍感になったり。その辺の演技は、意識的に自分が指示しましたし、役者さんがやっててくれたこともあったと思います。
あと5人に共通しているのは不器用だということだと思っていて、そこが登場人物たちの愛らしさにもなっていると思います。
 
 
 
※※※以下、あるシーンについての詳細な言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
 
矢田部PD:この映画のハイライトの一つが駐車場のシーンで、皆さんも仲原っちの魅力にメロメロになっているのではないかと思うのですが、フォトセッションであまり笑えないくらいの若葉さんのあの素晴らしさ、あの駐車場のシーンを巡る撮影時のエピソードあるいは監督の演出された方法など、もしエピソードがありましたら知らせていただけるでしょうか。
 
今泉力哉監督:現場では細かい指示は2人共にもそんなにしていなくて、ほぼお任せでやっているんですけど、現場であったことで覚えていることが2つあって。1つは仲原を演じた若葉さんが「本当に好きなんですよね」と言った時にちょっと涙目にはなるけど涙は流さずにあのシーンを終えた時、カットかけてOK出して近づいたとき「本当によく涙を流さないでくれたね」という話はしました。あれは涙を流すと結構台無しになってしまうというか、それは1つの心の解決になってしまうので、目は潤んだけど(涙は)流さないでくれたことの感謝を伝えたのが1つと、もう1つは段取りといって、本番に入る前にテストをしている時に仲原がすごくいい人のままこの物語が終わってしまうと思ったので、唾を吐くというのは台本にはなくて、現場でやっている時にちょっと仲原さんに「唾吐こうか」っていう話はしました。それは、テルコに対しての当てつけでもなく、ただなんとなく、それこそビールを飲んでいて口が気持ち悪いでもいいし、とりあえず去り際に「うるせぇ」って言われた時にテルコに対してにならないように唾を吐いて去ってほしいという話をして、それは仲原を人間っぽく、ただのいい人というキャラクターにしないための演技として入れてもらいました。それは現場の思いつきで言ったけど若葉さんは何も疑問がなかったとこの間、言っていました。
 
矢田部PD:ありがとうございます。申し訳ございません、時間が来てしまいました。この作品ですけれども2019年の春からテアトル新宿にて公開となりますのでまたぜひこの登場人物たちに会いにお出かけいただければと思います。監督、最後に一言お願いできますか。
 
今泉力哉監督:はい。本日はご来場ありがとうございました。あと1回映画祭でも(上映が)行われますし、公開の時にまた観に来ていただければと思います。本当にご来場ありがとうございました。

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