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2018.11.07 [イベントレポート]
「良い人生を与えるために犠牲にするものがある」10/29(月):Q&A『氷の季節』

氷の季節

©2018 TIFF

 
10/29(月)、コンペティション『氷の季節』上映後、マイケル・ノアー監督、プロデューサーのルネ・エズラさん、プロデューサーのマティルダ・アッぺリンさんをお迎えし、Q&Aが行われました。
作品詳細
 
矢田部PD(司会):最初にご挨拶を一言いただけますでしょうか。
 
マイケル・ノアー監督:ホテルのハイアットの上の階で、『ロスト・イン・トランスレーション』のようにバーにいたのです(笑)。私にはココという名前の4歳の娘がいますが、この映画は娘がいなかったらできませんでした。娘とは毎日どの洋服にするかで喧嘩をするんです。他にも色々リサーチはしますが、それがこの映画のインスピレーションのひとつになりました。父親として私は娘のことを一番よくわかっていて、何が一番いいかわかっているというところから始まりました。ある意味娘へのラブレターであり、同時に過去、未来へのラブレターにもなっています。
 
矢田部PD:ルネ・エズラさんは、以前、東京国際映画祭のコンペティション部門で『シージャック』という作品を上映しましたけども、その作品のプロデューサーさんでもいらっしゃいます。ルネさんからこのプロジェクトはどのようにスタートして、監督とのご関係もお聞かせいただきますでしょうか。
 
ルネ・エズラさん:この作品はマイケル監督と私の10年に渡る協力体制を象徴する特別なものです。私は監督と出会って、色んな映画を作ってきましたが、今回はマティルダさんも一緒に、はじめて長編映画を作りました。色んな協力体制、色んな方々と一緒に作りあげてきた、それを記念すべきものになっています。
 
矢田部PD:マティルダさんも自己紹介をいただけますでしょうか。そしてこのプロジェクトにどのように参加されたか、今ルネさんがお話しされていたことを少しお話いただけますでしょうか。
 
マティルダ・アッぺリンさん:私はルネさんの会社の、プロデューサーのアシスタントとしててスタートし、ステップアップして行きました。私にとっても今回初めての長編になります。そして、ルネさんと一緒にプロデューサーを務めたわけですが、非常に嬉しく、またラッキーだと思っています。今回はこの映画をプロデュースさせていただけて、マイケルさんと一緒に仕事をさせていただけて、すごくありがたいことだと思っています。また、東京国際映画祭にお招きいただき、とても光栄に思っていますし、こんなにたくさんの皆さんに観に来ていただいて本当にありがとうございます。映画を楽しんでいただければと思います。
 
矢田部PD:私はマイケルさんの作品を前から拝見しているんですけども、本当に厳しい、かなり厳格な作品撮られる方なのでとても怖い方を想像していました。まだ会って2分くらいしか経っていないんですけども、こんなに親しみやすい愉快な方でいらっしゃったことにとても感動しています。
 
マイケル・ノアー監督:確かに私が作る映画は、非常にダークでバイオレントなものが多いです。だからオープンで愛情溢れる態度の方がいいのかなと思います。非常に暗い抑圧された人がコメディを作って、反対にフレンドリーでオープンな人が、私のような暗くてダークでバイオレントな映画をつくるような気がしているんです。精神科医が何を言うかわかりませんが、そういう傾向にあるような気がします。
 
矢田部PD:先ほどお嬢様との話を教えていただきましたが、時代を過去に設定したという動機、理由について教えてください。
 
マイケル・ノアー監督:ちょっと私、先ほど言ったことを訂正したほうがいいかもしれませんが。娘との関係がインスピレーションというよりは、作り続けようというエネルギーの素になってくれました。
いろいろなリサーチをしたことがこの映画を作るインスピレーションのもとになったと訂正します。そして、父親であるということで、このテーマに興味を持ってリサーチをし、いろいろなインスピレーションが沸いたということなのです。
いろいろなアーカイブを見ていますと、今と昔とでは、結婚するということの意味合いが違っていると思います。日本についてはわからないのですが、デンマークとかヨーロッパでは愛するということを今の人はとても大切にしています。でも昔は愛する人を守るためにまず結婚するということもあったわけです。心が満たされていても、お腹は空いていると言うか。娘がいますので娘との関係を少し振り返ってみたいということと、父との関係も振り返ってみたい考えたからです。
 
Q:印象的だったのが音楽なのですが、音楽のアイディアについて教えていただければと思います。
 
マイケル・ノアー監督:デンマークの四重奏のカルテットの人たちなのですが、彼らは古い儀式的な曲を現代風に再解釈して演奏してくれています。選曲されたものの中には、彼らの故郷のデンマークのものもありますし、その周りの島のものもあります。作者が知られていないものも多いのですが、それを新しく解釈して使っています。プロポーズの歌があったりするのですが、もともとはもっと早いリズムなんです。今回はそれをもっとドラマチックにするために、わざとゆっくりと演奏しているということもあります。こういう昔の音楽を使うことのメリットは、作者が誰かが分からないので印税を払わなくてもいいという特典もあります(笑)。
 
マティルダ・アッぺリンさん:スウェーデンのフォークソングで古いものもあるんです。それもまた新しく解釈しなおして使っています。
 
マイケル・ノアー監督:もし私にFacebookでメッセージをいただきましたらリンクが分かるようにお知らせしますよ(笑)。
 
 
 
※※※以下、ラストシーンを含めた内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
 
Q:父と娘の関係性を経て何か反映されたものがあると思うのですが、最後のシーンにはどのように行き着いたのでしょうか?
 
マイケル・ノアー監督:最後のシーンは、父親が娘のために1番ベストなことを思って、これがいいだろうという選択をしたのですが、それにはかなり代償を払わなければいけなかった、失うものが非常に多かった、全てのものを失ったということを表しています。それは親としてやはり子供に、より良い人生を与えるために犠牲にするものがあるということだと思うんですね。この映画はフィクションで寓話的なものなんですけれども、どの親も共感できると思うのは、親が子供のために犠牲を払うという点です。
娘は最後に父親に感謝するシーンがありますが、彼女は単に今の自分の生活を与えてくれてありがとうと言っているだけなんです。父親が払った犠牲については全く知らない。父親もそうあるべきだと思っています。もしかしたら、親はある部分、あるいは全部を犠牲にしなければいけないことがあると思いますが、それを子供の負担に思わせてはいけないと思うんです。子供は自分が犠牲を払うときがきたら、犠牲を払えるようなエネルギーを保たなければならないという思っています。
 
Q:『Before the Frost』というタイトルは、どういった経緯でそのタイトルにしたのか、いつそのタイトルに決まったのか。「Frost」って色んな解釈があると思うんですけど、監督が思う「Frost」とは何かをお聞きしたいです。
 
マイケル・ノアー監督:「Frost」というのは、食べ物がないこと、つまり「死」に至るということもあるんですね。この映画の中では父親が感じている時間のプレッシャー、あるいは父親が払った犠牲ということがそれにあたると思うのですが。タイトルが決まったのは本当に最後でした。未だに私たちがこの映画について理解しようとしている感じがします。

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