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2018.11.06 [イベントレポート]
「私はこのテーマにずっと興味を持っていた」10/28(日):Q&A『トレイシー』

トレイシー

©2018 TIFF

 
10/28(日)、アジアの未来『トレイシー』上映後、ジュン・リー監督、俳優のフィリップ・キョンさんをお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
ジュン・リー監督:みなさん、観ていただいてありがとうございました。みなさんに喜んでもらえたら嬉しいです。
 
フィリップ・キョンさん:みなさんこんにちは、フィリップ・キョンです。『トレイシー』を好きになってくださったら嬉しいです。
 
石坂PD(司会):ありがとうございます。ちなみに監督は27歳ということでアジアの未来(部門)最年少でございます。フィリップさんにお伺いしたいのですが、いつものハードボイルドな役とはだいぶ違う役でしたけれども、どんな感じでしたか?
 
フィリップ・キョンさん:まず脚本を見せていただいた時に、非常に不安でした。どうやってこの役を演じればいいのか、全然分からなかったんです。次にどんな役をやりたいと聞かれた時に、ラブストーリーか警官かなと言ったんですけど、この役をやれと言われて、えぇ!って。どうやれば良いのかわからなくて、やっても出来るかどうかわからないし、やらなかったら仕事を受けないということになるのでやっぱりまずい。。。どうしようかと思って、それからトランスジェンダーの人の話を聞いてみたり、監督さんと話をしたり、自分の友人たちからも話を聞いて、何とかできるかな、と辿り着くことができました。自分の役者人生三十数年の中でこの作品はとっても重要な役になりました。この役を演じたことを誇りに思います。
 
石坂PD:ありがとうございます。逆に監督は今回デビュー作でそうそうたる俳優さんたちと組まれたわけですけど、思う存分演出できましたか?
 
ジュン・リー監督:まず、出来るだけ役者さんたちとはコミュニケーションを取るようにしていました。一緒に仕事をしていく中で、少しずつ慣れてくるという状況がありましたが、プロダクションの時から非常に緊張しまして、実は今も緊張しています。初めての長編でずっと緊張していました。ただ、緊張と同時ににわくわくもしていました。チーム自体が若いチームで、熱くてエネルギーに満ちたチームなので、そのわくわく感もあったんですかね。自分が怖いなという時は、皆さんに意見を聞いたりしたので、この結果になっていると思います。
 
Q:キャスティングについて?
 
ジュン・リー監督:ぴったりの役者さんをあてたいと思ったんですね。フィリップさんは確かに男っぽいんですけど、感性豊かな方でやわらかい面も温かい面もたくさん持っていらして、それを引き出せばいいんじゃないかなと思いました。性的な面もこの役どころはたくさんありますけれども、そういう意味でもぴったりじゃないかなと思いました。そして、奥さんに関しては、歌を歌わなきゃいけないということ、少し強い人が欲しかったので、カラ・ワイさんが一番いいかなと思って。脚本を見ていただいたら、気に入っていただけたんです。子供さん二人に関しても、キャラクターが求める要素を持っている人ということで、そのキャラクターに似ている人を選んだ結果がこうなりました。
 
フィリップ・キョンさん:今回、このキャスティングはとても良かったと思っています。撮影中に、一度私が本来の役どころからちょっと自分が掴み間違えたというか、違う方向に行きそうになったことがあったんです。その時にも、監督と色々コミュニケーションをとって、どう思う?こうじゃないよね?とかっていう話をしたんです。監督は、はっきりといろんなことを教えてくださって、本来あるべき姿に戻っていけたので。確かに、長編作品としては初の監督なんですけれども、経験豊かな監督に引けをとらない監督ぶりだったと思います。彼と一緒に仕事をすることを楽しめました。
 
石坂PD:監督は若いですけど、経歴を拝見すると大学の専攻がジェンダー論だったりとこのテーマにはかなり昔から関心があったということなんですか?
 
ジュン・リー監督:このテーマにはずっと興味を持っていました。2013年に香港の裁判所でトランスジェンダーの人たちが自分たちにも結婚の権利を与えてくれという話があったんです。その時まだ私は学生で、ニュース学部で勉強している学生だったんですけれど、その時に取材などをして、そこでいろんなトランスジェンダーの人たちと知り合いになりました。取材が終わってからもずっと連絡を取り続けていて、その団体の人たちとは友人みたいな関係になっていたんです。そのあと性別研究哲学というのを留学して専門で勉強して学びました。そして今回プロデューサーからこういうテーマがあるんだけどどうだ?という話があったときにもともと興味がある分野だったので、プロデューサーと話をして「あっ、いいね」ということですぐにこのプロジェクトをやることに決めました。
このストーリーに関しては、もともと興味があったので非常に情熱をもってやりたいなと思っていました。
 
Q:フィリップ・キョンさんは女性、その本質をどういう風に定義づけて演じられましたか?
 
フィリップ・キョンさん:私にとってこの映画で女性を演じる時に、女性の定義というものをきれいな服をきている、だから自分は女性よ?というのは嫌だったんです。それで色んな人の意見を聞いたり自分で女性ってどんなものだろうといろんな妄想したりして考えました。
広東語に女性は水で出来ているという言い伝えがあるのはご存知でしょうか?涙は水ですよね。あとスープも水です。それと香水も水。女性は水で出来ているとよくそう言われているんですよ。強い女性でも、女性らしい女性でもちょっと弱っているときってみんな同じだと思うんですね。同じようにつらいこともあると思うんですよ。トランスジェンダーで女性になったとしても子供は産めない。そうだったとしても自分の愛する人がすぐ近くにいてくれて、何かちょっと困って悲しい時にはその人が慰めてくれたり、楽しい時は一緒に喜んでくれたり。子供が産めなくても養子を迎えて自分が楽しく生活できる。自分らしく生きていける。なんでも話し合うことができるというのが良いのではないかなと思いました。
 
 
 
※※※以下、内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
 
Q:性転換をしてからもフィリップさんの役の声が男性のままだったのはなぜですか?
 
ジュン・リー監督:トランスジェンダーの方についていろいろな資料を調べたんですね。どういう特徴をもって自分の性別を表すのかなどということを考えたり調べたりしました。体の変化というのも人それぞれなんです。女性の特徴を際立たせて自分はトランスジェンダーなんだという人もいれば、あまりそういう風に女性の特徴を際立たせない人もいるんです。トランスジェンダーの方がそうやって最終的に自分を受け入れるようになった時に女性の声が必要なのか必要じゃないのかは人それぞれですし、人によってはトランスジェンダーでもボクシングをしている人もいますし、自動車修理をやっている人もいるんですね。女性の格好で仕事場にきて男性になって着替えて車の修理をして女性の格好でまた帰っていくという人もいます。
ですので、このトレイシーの役どころを考えた時に私たちは体の特徴と話の展開とでどういう組み合わせにするのが一番いいだろうか、というのを考えました。そして最終的にこの組み合わせ。声は変わらないですけれどもトランスジェンダーの今のトレイシーが最も美しく最も素晴らしい状況だと考えたんです。実際トランスジェンダーの方はいろんな方がいらっしゃいますし、いろいろと特徴も違っていると思います。
 
Q:自分が一番泣いてしまったシーンが夫婦での大喧嘩をしたところなんです。そこの大喧嘩をしたところにも何かストーリーがあると思うのでそれをご紹介ください。
 
ジュン・リー監督:ストーリーに何かあったのではなく、二人がプロだったからああいうシーンができました。
 
フィリップ・キョンさん;監督が何かストーリーを裏に持っていてあのシーンを作ったのか自分は知りませんけれど、役者としては抑圧されたものを出すというシーンだと思っています。脚本を読んで、読み込んでそしてあのシーンを撮り終わった後、実は自分にも抑圧があったというか意にそぐわなくて、でもそれを外には出せなくてずっとため込んでいたものがあったんだなと発見がありました。家に帰ってリラックスした時には涙が出てしばらく泣きました。そこでその中にずっと抑えていたものが解き放されたんだなと思っています。
今回のこの映画は、私が女性になってきれいになっただろう?と見てもらいたい訳でも、喧嘩の場面を見ていただきたいものでもなくて、誰にでも生活の中で自分が気に入らないこと、抑圧されていること、思い通りにいかないことが心の中に必ずあると。それをどこかの機会に勇気を出して誰かとシェアするとか、誰かに話すとかっていうことをしないと今回の夫婦仲の場合は数十年間というのがずっと隠したままでいると、この数十年間が無駄になると伝えたいですね。だから今回のこの夫婦は夫も妻も勇気を出して言って自分を取り戻したという風に見ていただければと思います。

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