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2018.11.07 [イベントレポート]
「もがいていたり、つらい状況は誰も知らない」10/28(日):Q&A『ジェリーフィッシュ』

ジェリーフィッシュ

©2018 TIFF

 
10/28(日)、ユースTIFFティーンズ『ジェリーフィッシュ』上映後、ジェームズ・ガードナー監督をお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
ジェームズ・ガードナー監督:東京国際映画祭にお招きいただき本当にありがとうございます。ジェリーフィッシュのスタッフやキャストに代わってお礼を申し上げたいと思います。これがアジアン・プレミアになりますけれども、本当にここでご覧いただけることは重要で意義のあることだと思いますので嬉しく思っています。
 
矢田部PD(司会):ジェームズさんにお伺いしたいのですけれども、この作品を作ろうと思われた着想の背景を教えていただけますでしょうか?
 
ジェームズ・ガードナー監督:この質問は皆さまによく聞かれることで、今でも考えている部分があるのですけれども、今回の映画の脚本も私が書きました。オリジナルのアイディアは自分から出たものです。自分は何者なのかというのを自分に問いかけて書きました。もちろん、全体的にフィクションなのですが、ただ、その中で扱われている問題はリアルで、自分も経験したことです。ですから全部自分の中から、内側から出てきたものを脚本に仕立てたという形です。
 
矢田部PD:舞台となる町がとても特徴的なのですけれども、この町、この地域についてどういう場所なのか少し解説していただきたいのと、実際の監督のご出身地なのかどうかということをお聞かせいただけますか?
 
ジェームズ・ガードナー監督:マーゲイトという映画に出て来る町は、英国の典型的な海沿いの町なんですね。社会的、政治的に非常に困難な状況になっている町です。昔はとても景気が良かったのですが、今は景気が悪くなって、町の人たちが取り残されている状況になっています。私はマーゲイトの出身ではないのですが、友達もいますし、15年くらい前からマーゲイトに行っていて、映画の舞台はあそこにすると最初からそう思っていました。というのはストーリーを決める際に、あの町であることが重要でした。とっても興味深い場所で、ロンドンに近くて。ロンドンのリッチな人々がどんどん移ってきて土地の値段が上がってしまい、元々住んでいた人がその場所に住めなくなるという状況が起こっています。映画の中で開発業者の男の人が出てきますが、本当にああいう人が居てビルが買われてしまって元々住んでいた人が住めなくなる、サラのように自分の家を無くす人が居れば、家を無くす人々のおかげで金儲けをしている人がいるという、本当の問題がある場所です。
 
矢田部PD:監督はとてもパーソナルな内側から出て来る物語であるとおっしゃいましたけれども、そこで少年ではなく少女の目線で語ろうと考えたのはどのような背景だったのでしょうか?
 
ジェームズ・ガードナー監督:僕自身、15歳の少女になったことはもちろんありませんが、この映画は少女の目線から語られていて、少年がああいう経験を辿るということは少ないと思うのですね。ただ、主人公を少女にすると言うのは決して計算してそうしたわけではなく、主人公は少女にするべきだ、少女の目からこの物語を語るべきだと自分の中から自然とそういう気持ちが湧いてきました。
 
 
 
※※※以下、内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
 
Q:ジェリーフィッシュという題名にした理由と、主人公の少女がレイプをされている時に、カメラが引いて行って交差点の景色が長く映されているシーンがありますが、そのシーンの意図がありましたら教えてください。
 
ジェームズ・ガードナー監督:みんながする質問ですね。タイトルは相当考えました。2つ理由がありまして、1つはこのジェリーフィッシュ(日本語ではクラゲ)は、映画に全く関係ない名前だからそうしたのですけれども、ただ1つ言わせてもらえば海沿いの話なのでジェリーフィッシュにしました。もう1つはサラが傷つきやすそうな、柔らかそうな少女でありながら、近づくと刺してくる、攻撃を見せてくるような、そういう少女だからジェリーフィッシュというタイトルにしました。
ふたつめの質問についてもかなり聞かれています。この件に関しては一日中話せることでもあるんですけど、もちろん演出上の判断でもありますし、物語上の判断でもありました。サラがレイプされてる場面は、その現場は見せたくないと思ったんですね。これは共同脚本の方とも話し合いました。カメラがどんどん引いていって、ゲームセンターの外に出ていくわけですけれども、この意味としましては、密室、ドアの向こうでそういう問題が起きていて、問題は隠れていて、サラの闘いですとか、普段もがいていたりする、そういうつらい状況は誰も知らないということがわかるように、それを意図としたカメラの動きにしました。サラみたいな人生を送ってる子はいっぱいいると思うんですね、他にも。実際にいます。でもその救いがない状況にいて、そういうことをお見せするためにああいう風にしました。サラのどうにもできない、その人生を受け入れるしかないという、諦めに似たようなそういう気持ちと、色々なそういう意味合いがあのカメラの動きには込められています。
 
矢田部PD:ユース・セクションで高校生に見せたいと思った時に、あのシーンが、やはり私も迷ったんですが。反対に、あのシーンをみて、これは上映しようと思った面もありまして。それはレイプを映さなかった単純な理由はないとは言いませんけども、その後のカメラワークで、これが映画なんだという瞬間だと思うんですよね、そういうところを見てもらいたいなと思ったということをちょっと補足しておきます。
 
Q:私の国(フィリピン)と、先進国との違いを感じました。サラは兄弟の面倒を見ているわけなんですけれども、たぶんああいう状況になったのは産業革命の遺産じゃないかなと思っています。その結果、核家族化が起こり、何か大変なことがあったら、困ったことがあったら福祉に頼るということになっているんだと思います。
 
ジェームズ・ガードナー監督:そうですね、家族とかコミュニティというものに関しては、子供たちはすごく肯定的な感覚を持っていると思うんですね。この映画の中で出てこないのがお父さんですが、どこにいるかもわからない。父親がいればすべて完璧になるということでもないんですけれど、やっぱり、父親がいないことで埋められない穴があるということがあると思います。サラのような家庭環境はよくあることで、そして同時に、広がっていってるような気がします。家族やコミュニティの大切さ、そういうのも考えさせられました。
 
矢田部PD:今、ご質問なさったのは、フィリピンのキドラット・タヒミック監督(『それぞれの道のり』監督)でいらっしゃいます。誰もが絶対訊く質問をまだしていないので、あえてお伺いしたいと思います。主人公役のサラの女優さんの圧倒的な素晴らしさにまず驚かされましたが、サラ役の女優さんについて、どうやってキャスティングされたのか教えてください。
 
ジェームズ・ガードナー監督:サラは6か月探していました。ある時期で、もうすぐ撮らなければ、10月に撮影を始めなければ、もう撮影のチャンスを失ってしまうという時期が来たんですね。その時にまだサラが決まっていなかったのですが、ヘイル先生のエージェントからその時連絡がありまして、どうなっているか、この映画は撮るのかという話で。ただ、サラが見つかっていないから撮れないし、という話をしていたんですね。そうしましたら、そのヘイル先生のエージェントが脚本を送ってください、ちょっともう一回確認しますからということで、すぐその日のうちに脚本をお送りして、そしたら脚本をもう一度読んでくださって、次の日にテレビのドラマのテープを送ってきてくださいました。そのビデオを観たらサラ役にぴったりだという子が出ていて、サラに決まったということです。この映画を撮った時には16歳で、今もう18歳になりましたが、この映画を撮った時にはテレビのドラマに出てたぐらいだったんですね。この『ジェリーフィッシュ』を撮影後、BAFTAにノミネートされて、その才能でどんどん伸びていっている女優さんです。
 
矢田部PD:BAFTAとはイギリスのアカデミー賞のようなものですね。ですから、彼女これからもう大女優になっていくと思います。ぜひ、注目し続けていただきたいと思います。
 
ジェームズ・ガードナー監督:本当にいらっしゃってくださってありがとうございます。ここでみなさんにご覧いただけて本当に感謝しております。

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