10/28(日)、トリビュート・トゥ・コメディ『スペースボール』上映前、いとうせいこうさん(作家/クリエイター)をお迎えし、トークショー が行われました。その抜粋版をお送りします。
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田中文人(司会):今日のスペースボールの見どころを
いとうせいこうさん:見どころなんてないですよ(笑)『スペースボール』ですよ、メルブルックスだからどうせふざけてるんだから(笑)もうあそこのパロディだとも思う必要もないですよ(笑)当然のことながら『スター・ウォーズ』のネタバレでも何でもないですよ。そんなものが出てきますけれどもそんなものは当たり前の話で全員やるでしょって、思っていることをやってるだけだから、メル・ブルックス監督は。でもこの監督はこれを永遠やり続けてハリウッドの中で、いろんなひどい目にもあったんでしょうけど、そういう所の中でリスペクトされていった、こういうことをやっている人がリスペクトされる社会って羨ましいなって日本の中で僕は思いましたよ。やっぱり馬鹿な監督だなとかそろそろ対策とったほうがいいんじゃないのって言われるのが日本の傾向でありますから。でもそうじゃない、これにやっぱり僕は北野武さんとかずっと憧れていると思いますよ。メル・ブルックスみたいな方向もあったんだろうなと思っているだろうしね。ひょっとしたらある程度笑いの好きな世界の映画があるところにはみんなメル・ブルックスに憧れていて、あんな風にいつまでたっても真面目にならない爺さんになりたいって思っている人も多いかもしれない。そういう意味では人生にも影響する馬鹿映画ですよね。
田中文人:本当にそうですね、『新サイコ』もそうだし『ヤング・フランケンシュタイン』もそうだしみんな馬鹿映画って言ってしまうと本当にそうですよね。
いとうせいこうさん:本当に。これのいいところは細かい役者までみんなが狙ってるんですよね。よく見るとちゃんと笑い、しかもおさえた笑いをやろうとしていて、もちろん下手だったりもするんですよ、そこがまあかわいいんですけど。だけど一緒にメル・ブルックスと笑いをナンセンスっていうものを作るっていう、作れるんだっていう喜びに満ちていますよ。だからそれが僕は見ているとすごく幸せだなっても思うし、絶対これ現場がすっごい楽しかったんだろうなって、監督、ここはやっぱり歩き方変なほうがいいっすか?とか、当たり前だろ!みたいな。全員がまともに歩いてこないみたいなそういう映画だし、メル・ブルックスも面白ければ当然すぐOK出して、でその活気みたいなものが全部封じ込められている。スタジオでの楽しさが全部封じ込められているみたいなそういうある意味幸福、やっぱり予算がとか興行成績が、とかいうことがとりあえず役者たちには響いてない世界、80年代の幸福なハリウッドの映画なんですよ。
田中文人:リック・モラニス、ジョン・キャンディ、『ポリスアカデミー』のマイケル・ウインスロー、効果音を全部自分でやる人ですね。僕らにとってみれば80年代が全部凝縮されている。
いとうせいこうさん:80年代の馬鹿どもがみんな集まってそうだったら俺だったらああ行くとかこう行くとか、技を出し合うみたいな。それはやっぱり、そうですね、スター目白押し、すばらしい。これが金字塔だっていう僕らコメディ映画を観る者にとってはこういうばかばかしいところを目指したいんだっていう。
別に特に最終的に何も残らないしね。夕飯のこと考えながら今日帰るでしょ多分(笑)あの場面よかったなとかいうことはない。そこがいいから、そこが素晴らしい、なんてそんなこと思わせたくないんだもんメル・ブルックスは。何にも考えないで忘れてもらって、明日また元気でねっていうためにこれをやってるわけだから。是非皆さんにもね、すべてを忘れて、今日帰ってツイッターする人大変ですよ、どんな場面あったか思い出せないんじゃ(笑)馬鹿だったっていうしかないですもんね(笑)それが僕はとても感動的な態度だなと思いますよ。