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2018.11.06 [イベントレポート]
「一生懸命時間をかけてこの人物について議論した」10/28(日):シンポジウム『三人の夫』

三人の夫

©2018 TIFF

 
10/28(日)、コンペティション『三人の夫』上映後、フルーツ・チャン監督、女優のクロエ・マーヤンさん、脚本のラム・キートーさんをお迎えし、シンポジウムが行われました。
作品詳細
 
ラム・キートーさん:皆さんにお会いできて本当に嬉しく思います。皆さん、この映画をご覧になっていかがでしたか?喜んでいただけましたか?
 
石坂PD(司会):この作品は、脚本を二人で書かれたということですが、どのような作り方、分担をされたのですか?どういう過程を経てこのお話が出来上がったのでしょうか?
 
フルーツ・チャン監督:ラムさんとは長年の友人でいつも一緒にいて、映画についても色々な話をします。実はこの映画の物語自体は、だいぶ前からすでにあったものなんです。通常、脚本を作るときは、物語について話し合った後に、私がまず書きます。それで、彼に見てもらいます。彼自身は、脚本家でありながら映画評論家でもあるので、彼の視点から彼のやり方で意見を言ってもらい、また一部書き直していきます。
 
ラム・キートーさん:私は今まで、香港映画で言うと、五十数本の脚本を書いたことがあります。フルーツ・チャン監督と仕事をするときには、香港で言うメジャー系の映画のやり方は一切しないことにしています。ご存知の通り、この作品は、監督の娼婦三部作の最後の作品です。監督の心の中にはすでにこの映画に対する様々なアイデアがありました。先ほど言っていたように、最初はシノプシスを書き、それを私が見て、この物語の構造が出来上がっていきます。それを見て、二人ともやる気が出て、どんどん前に進んでいくわけなんです。基本的には、この文字による脚本が完成して、キャスティングも決まり、映画撮影に入ります。私は、本格的な映画活動はここから始まると思っています。なぜかというと、文字で書かれている脚本そのものは、映画を撮るときに表現したくても表現しきれないものだからです。したがって、この映画はメジャー映画とは全く違うので、ビジュアル的に、あるいは音響音楽に、実験的な要素がたくさん含まれています。我々はそのようにして、脚本を作りました。
 
石坂PD:クロエさんは、この脚本をはじめにお読みになったときに、どのような感じを受けましたか?映画になったものを見ると、水の中にもぐったり、縛られたり、かなり過酷な描写がありますが、どんな印象を受けましたか?
 
クロエ・マーヤンさん:私が脚本を初めて見た日は、実は撮影の初日でした。それまで、監督は部屋に閉じこもって脚本を書いていたそうなんです。私は、脚本をもらって直ちにこの役柄を気に入りました。一番気に入ったのは、この映画の冒頭、中国の文学者が言った言葉です。「世の中、美しいものは大抵真実ではない。」この言葉は、女性として、私を非常に柔らかくしました。監督は、この映画を通してある種の「美」を作り上げようとしていると思いますので、その辺がすごくよかったです。
 
石坂PD:この映画は、全体が海、陸、空の三つのパートでできていますね。内容も、海で暮らしていたヒロインが陸に上がり、再び海に漂うという、三つの部分による流れだったと思います。
 
クロエ・マーヤンさん:私は、いろいろな撮影現場を経験してきましたが、今回の撮影現場では、監督は中国の伝統的な陰陽五行の思想、つまり風、木、水、火、土の五つの要素を見事に映画の中に取り入れていると思います。特に、水と木と風の三要素を非常によく取り入れています。それに役者一人一人のエネルギーも合わさり、監督の力によって、主役の女性のイメージを非常に神的なものを帯びたような存在に仕上げることができたのです。この辺もとてもよかったと思っています。
 
石坂PD:監督、今お話にあった三つの部分や五つの要素について、いかがでしょうか?
 
フルーツ・チャン監督:実はこの三つのパートに分かれた形は、撮影が終わり編集の段階で、この方が色々なメリットがあると気が付きました。なぜかというと、三つのパートに分けて描くことで、女性の人格の変化の過程が観客にとって、よりはっきりと浮かび上がるのではないかと思ったからです。現場の撮影は非常にハイスピードで進められていて、とにかくあれこれ全部撮りました。そして、編集の段階で私が思いついたのが、この海、陸、空です。中国語では、「空(クウ)」は“sky”という意味だけでなく、“empty(何もない)”という意味もあります。この「空(クウ)」の持つ意味は深く、結局最後の最後まで何もないというところに表れています。脚本上でも、映像においても、色がだんだんなくなっていくように、すべこの「空(クウ)」の一文字から派生しました。
 
石坂PD:映画の構成自体を最終的にあのような形にしたのは、ラムさんもその方が良いと納得されたからなのでしょうか。
 
クロエ・マーヤンさん:脚本はですね、実は海、陸、空という三つの部分は書かれていませんでした。どちらかというと、物語そのものなんですけれども、監督が先ほど言いましたように、編集の時にいろんなアイデアがあってそういうふうになりました。実は完成した作品を観たのは私も一昨日始めてでした。その時、監督の隣に座って一緒に映画を観たんですけれども、感無量でございました。正直私はこの「空」というのは大好きなんですね。色即是空ですから、「空」も色なんですね。いわゆる四季。監督がこれはお坊さんの考え方ですよ、と。
 
フルーツ・チャン監督:もう少し補足しておきたいと思います。みなさんもし映画をご覧になってこの作品を気に入ったとすれば、ぜび監督の娼婦三部作の前の二作をご覧になってください。なぜかといいますと、実はこの三部作はどれも娼婦を使って語っているわけですよね。何を語ろうとしているのかって言いますと、この娼婦を使って女性のある種の本能的な部分を、そこから出発して語ろうと思います。つまりこの映画の中には三人の俳優がいるんですけれども、それぞれ重要でございまして、それぞれ世界がありますのでどれも色即是空の「空」に触れているわけなんですね。三作を全部ご覧になれば、たぶん何を描こうと、何を考えているのかっていうのが非常によくわかると思います。
 
ラム・キートーさん:私も少し補足しておきます。そんな深い意味はありません。単にこの映画の中である女の人、三人の夫と一緒に「動」を生きていく、生存していく、それだけの話ですので、それ以上深い意味は全くありません。というのはね、また二作見るとまた映画を観るためにお金を払わないといけないですよね。その分節約した方がいいと思います。
 
石坂PD:スタッフ、キャストの間でも意見が分かれているようなんですけれども。娼婦三部作、二本作られた後にだいぶ間があきましてですね、これは何かこの『三人の夫』に至るまで、構想は昔からあったとお聞きしましたけど、この空白は何か理由があったんでしょうか。
 
ラム・キートーさん:実はこの間にずいぶん時間が経ったというのは一つ理由があると思います。私が思うには、世の中がどんどん進んでいって変わってきているわけですね。前の二作の時に作り方としては非常に伝統的なやり方で、人物を描写して撮影したんですけれども、その当時も、もしもこの三作目を撮るときは、この登場する女性をどう描くのかっていうのは非常に明確な方法は持っていなかったんですね。そこで結局は撮らなかったわけなんです。そうするとこの作品を書くときにはだいぶ時間が経ちまして、私としてはこの登場人物の女性は今の時代に合った形で何らかの変化、成長があった方がいいと思いました。この脚本を書く時もこの女性は今までの女性とは全く違うような女性で、彼女は中国の伝統的な考え方、価値観を突破しなければならないと、そういったものを持った方がいいんじゃないかっていうことで、このような女性の人物像を書いたわけなんです。この役は非常に難しい、それだけではなくて、これを演じ切る素晴らしい女優さんがいないとなかなか実現できないわけでした。彼女の素晴らしい演技のおかげでこの役は輝いているわけですよね。だからそういう意味ではこの十何年間は無駄ではなかったと思います。
 
石坂PD:クロエさんにお聞きしたいんですけれども、フルーツ・チャン監督の過去の作品をご覧になっていたと思いますけれども、監督にどのような印象を持たれていたか、そのあたりを教えてください。
 
クロエ・マーヤンさん:監督に対する印象は、本当にしっかりした監督だと思っております。というのは、私の周りの人はみなさん監督の作品を観て啓蒙されて、いろんな演技、映画、スクリーンに携わりました。私も実際に現場に行って、最初は監督からいろんなことを学ぼうという気持ちで映画撮影にのぞみました。ところがですね、撮影が進むにつれまして、それだけじゃだめだと、むしろ私も一生懸命力を出して監督と一緒にこの戦いに勝たなければいけないと、そういう気持ちになりました。正直撮影もとっても大変でした。小さい船の上で皆それぞれの困難に直面していたわけですので、そういう意味で戦いに監督と一緒にのぞんだような気がします。
 
石坂PD:ありがとうございます。この娼婦三部作の前に中国返還三部作、三部作が監督はお好きですけれども、ご覧になった皆さんはわかると思いますけれども、特に真ん中のパートですね、集合住宅は『メイド・イン・ホンコン』を思い出しますし、もう一回海の上から花火の場面がありますけどこれは日本のタイトル『花火降る夏』ですか、私なんかあれを思い出しましたけど、ちなみにあの集合住宅は同じ場所で撮られたんですかね。
 
ラム・キートーさん:同じ場所ではなかったです。似たような団地で撮影しました。香港にはいろんなタイプの団地があるわけですけれども、ご存知のように我々の映画っていうのはお金があまりないんですね。ここでのロケ地もみんなで色々探して、撮影の現場は私の友人の家でした。
 
Q:女優さんにお聞きしたいと思います。脚本を撮影の前日にいただいたということで、役作りまでの期間はそれ以前に設定をもらっていたのかということと、映画の撮影期間の間にどのようなキャラクターをとらまえていたのかということをお聞きしたいと思います。
 
クロエ・マーヤンさん:撮影の時は正直役作りについて研究する時間は全くありませんでした。監督の撮影のスピードはとっても早いんです。どんどん撮っていく。そうすると今までの演技の経験ではこのようなやり方はなかったんですね。だから今回この映画に出て、私にとってはすごくいい勉強になりました。正直この短い撮影期間中に役作りについて研究するというのはないんですけれども、どういうふうにしたらいいのか、結局はこの役作りについて監督の言うとおりにやるということで、とにかく私がやったことは二つです。ひとつは体重を増やす。13.5kg増やしました。もうひとつは今まで役作りに関して、あるいは役に対するいろんな考え方をすべて捨ててしまうこと、この二つです。
 
フルーツ・チャン監督:この種の演技につきましてはやっぱり撮影する前にあらかじめきちっと話しておかなければならないと思います。現場に行って、彼女にこれやって、あれやってとなると困るんですよね。これは事前にこういった準備もしたということで撮影自体はとっても順調でした。我々はむしろ時間をかけてこの人物について話し合いました。つまり、この人物の演技は非常に難しくてですね、こういうふうにやればオーバーになってしまうんじゃないか。あるいは、こういうふうにやればなんか中途半端で物足りないんじゃないか。まあ色んなことを話し合ったんですね。で、結局この人物を演じるにあたって、参考になる資料は全くありません。また、比較できるようなキャラクターもないわけなんですね。はっきり言ってこの女性は仮想の人物かっていうとそうでもない。じゃあもう、彼女は本当に知恵遅れですかっていうとそうでもないんですよね。まあ、だからむしろ一生懸命時間をかけてこの人物について議論をしました。
 
Q:二つあるんですけども、監督に対して。この女性と男たちの物語というのは、どのように発想して思いついてシノプシスを書かれたんでしょうか。それともう一つ、監督は長いキャリアですが、その目で香港を捉えたときと今との香港での監督の映画製作に関して環境とか製作の仕方とか変わったことがあればお聞かせ願えればと思います。
 
フルーツ・チャン監督:まず最初の質問にお答えします。実はラムさんと私は共にこの映画産業の中で成長したわけなんですね。彼は特に、いわゆるメジャーな商業映画の脚本をたくさん手掛けました。僕は監督になる前は映画の現場で長年一生懸命働いていたわけなんです。したがって我々二人は共に、こういった香港映画産業の中で本当にたっぷり仕えて、色んな現場で学んだわけなんですね。たとえば、いかに早いスピードで撮るとかですね。いかに早くこの状態に入ってまあ良い映画を作る、早く作るというそういった技術的なことを現場で学んだわけです。この映画を撮る前にですね、私も考えました。どのように撮りましょうかと。つまり、20年前の『メイド・イン・ホンコン』と同じように非常に低予算で撮るのかと。そうすると、これはもう不可能なんですよね。なんといっても今の香港は何をやっても映画撮影に関しては非常に高くなってきているんですね。とにかく出来ることは、いかにこの少ない人数でこの映画を完成させようということでした。
 
Q:非常に美しい表情がたくさんあったんですけれども、どのようなことを頭に思い浮かべながら、あの美しい声と表情が生まれたのでしょうか。
 
クロエ・マーヤンさん:監督は脚本の中で、実はこの物語を語ると同時に、香港部分もありまして、ここはすべて監督の指導でございます。私の理解は、この映画の中でこの女にあった古い伝説の話も少し紹介していたわけなんですね。すなわち、私のこの演じた人物というのは半分は人間、半分は魚。動物ですよね。したがって、私はこの演技をする時に一生懸命、この魚はどういう風に目を開けて見せているのか。私の演技の多くは非常に魚に似ているような感じで演じたわけなんです。なんとなくこのちょっと気が狂ったみたいな性をある種、「神獣」、つまり、想像上の、中国の伝説の中ではいろいろな想像上のこういった動物、キャラクターがあるわけですね、つまり、人間と動物が合体して、何かを表現すると。私のこの役柄が単に人間、あるいは単に動物のセックスを表現しているとなりますと、私にとってはこのセックスはつまらなく、高級な感じはしないと思います。そうするとむしろ、一般の人々が考えている人間、動物のセックスというよりも、この人間と動物が合体した、このような想像上のこのキャラクターがやっているセックスというようなものは、ある種の解脱になるわけですよね。彼女は結局、自分はこのセックスを通して、一生懸命生きていくために、自分は解放されたと、そういう部分を、私の表情、私の声を通して演じたわけです。もうひとつ付け加えておきたいことがひとつありまして、イルカの鳴き声ですね。実は私が子供の時にイルカの鳴き声を真似するのが超得意でした。私がワーと鳴くとですね、建物全体の電気が点いてついてしまうぐらいに。一番得意な部分を監督の映画の中で活かされたわけです。やってみせますね(イルカの鳴き真似)。
 
石坂PD:大サービスありがとうございます。
 
Q:今回は全編通してフィルム撮影なのか、それともデジタルなのでしょうか?
 
フルーツ・チャン監督:実はデジタルで撮影でした。このメインのキャメラは4Kのカメラで、主にこれを使いました。私自身はCANONのキャメラを使っていました。こう言っちゃ失礼かもしれませんけれども、若い映画人は時々かっこつけたいんですよね。映画撮る時にはでっかいキャメラで、有名なキャメラマンに撮って欲しい、美術監督もなんか有名な人、素晴らしい人を、そうするといい映画が撮れると思っているんですけれども、これは間違いですね。撮影現場ではみんなプロがいるわけなんですよ。我々のやり方もそうではありませんので、だから私の現場に行きますと、実は監督は要らないんです。みんな自分は何をやるべきか、みんなわかってるわけですので、ですから、映画を作るにあたってはここがとても大事だと思っています。
 
石坂PD:夜遅くまでお付き合いいただいて、ありがとうございます。この映画、日本の公開に向けてね、もし配給会社の方いらっしゃいましたら、ぜひお考えいただき、あるいはまた、外国のプレスの方いらっしゃいましたら、どんどんそれぞれの国で広げていただければと思います。みなさんもまたつぶやいていただければと思います。よろしくお願いいたします。監督、最後に締めの言葉をいただいて、締めたいと思います。
 
フルーツ・チャン監督:今まで私が語ったことは、全部正しいことですよ! だから、賞をひとつください! お願いします!(笑)
 
石坂PD:お三方にもう一度大きな拍手を。ありがとうございました。
 
フルーツ・チャン監督:アリガトー! ありがとうございます。
 
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