10/29(月)、ワールド・フォーカス イスラエル映画の現在 2018『ワーキング・ウーマン』上映後、脚本のシャロン・エヤールさんをお迎えし、Q&A が行われました。
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シャロン・エヤールさん(プロデューサー):こうやって多くのみなさんに映画をご覧いただいたということで、今、とてもエキサイトした気分です。この映画はとても重要な目的、テーマを持っていますので、ご覧いただけたことを嬉しく思います。
石坂PD(司会):共同脚本という風に伺いましたけども、これは何人ぐらいで、そして、結構前からお書きなってたっていう風にお伺いしたんですが、どういうプロセスで出来上がったかを教えてください。
シャロン・エヤールさん:まず、監督のミハル・アヴィアドがセクシャルハラスメントをテーマにした映画を撮りたいということで、大筋のアイディアを持っていたんですね。私にアプローチして、一緒に脚本を手掛けてくれないかと依頼があり、2年間かけ二人で書き上げました。その後別の脚本家さんが入って3人の経験、考え、そういったものも盛り込んで脚本を書きました。4年経ったとき、資金を調達することができ映画を撮るという運びになりました。
石坂PD:#MeToo運動は、製作中というようなタイミングだったんですか?
シャロン・エヤールさん:そうですね、よく「#MeTooのムーブメントが起きたことをきっかけに、この作品に取り組まれたんですか」と聞かれるんですが、今お話ししたように、もう6年前に着手していました。ちょうど撮影中ですね、#MeTooの色々なことが表沙汰になったのは。その時は撮影中であまりに忙しかったので、実はそちらの方で何が起きているのか追えなかったんですが。追い風になったことは確かです。
※※※以下、ラストを含めた内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
Q:ことがどのように発展するのかということが見て取れましたし、非常に内面的に主人公が壊れていくという点もよく描かれていたと思います。ただ、一点気になったのは、推薦状を彼女がボスからサインをもらって、それで安堵したという風に終わりますが、おっしゃった通り、これは#MeTooのそういったムーブメントの前とはいえ、下手をすると間違ったメッセージを送ることになりかねないのではないでしょうか。つまりここで、彼女に起きたことは外部で誰も知らない、ということは、次なる被害者を生みかねないという可能性があるとはお考えになりませんか?
シャロン・エヤールさん:おっしゃる通り、残念ながら、彼はまた誰かを犠牲にすることと思います。彼だけじゃないです、多くの男性が一度あればまた何度も繰り返す人が多いと思います。
確かにおっしゃっているように、こういう終わり方でない方がいいです。ただ、これは非常に現実味を持って作った作品です。なぜこういうことになるか、やはり女性にそういった力が十分にない、お金がない、勇気がない、それをサポートしてくれる環境がない。つまり、あったことをどけて、とりあえず、推薦状の書面を取りつけたという、彼女にとっては小さな勝利なわけです。なぜそれが必要だったか。彼女は子供たちのために食事をもたらす、つまり、彼女が稼ぎ手なわけですね。それが当面の、当座の目的だったわけです。こういったことをする男性が誰もいなければいいと願います。そして、もし、そういうことをする人がいるなら、全員が警察に捕まるべきだと私は思います。ただ、残念ながらそうではないんです。
Q:観て非常に怒りを感じました。多くの女性がそう感じることと思います。そして、この作品は、世界中どこでも起きている、起こり得る、普遍性があるという風に感じました。夫が彼女を助けようとしなかったですよね。ある種、わかるのですが、なぜ彼は彼女を支えなかったのか、その部分を教えてください。
シャロン・エヤールさん:彼が支えなかったのは、彼の方が裏切られたと思ったからというのが大きいと思います。何でも話す夫婦だったのに、まず、オルナは上司からキスをされましたよね。それがもう6ヶ月ぐらい前のことなんですが、彼女はそれに関して彼に何も相談というか、言わなかった。彼はその怒りに満ちてしまって、その後はもう自分のことが中心になってしまって、彼女の身になって自分を置くことができなかった。残念ながら、多くの男性が同じ反応をするのではないかと思います。ありがちなのは、こういったセクシャル・ハラスメントにおいて、女性に非があるという見方がされがちですね。そして、この裏切られたという夫の感情をあまりに彼が、彼女の気持ちを優先するより、自分がまるで被害にあったもののような。そういった気持ちをまず彼の中で超えることができなかった。この後、この二人はもう一緒にいないかもしれません。後々彼が理解することがあっても、もう遅すぎるかもしれない。つまり、こうした被害にあった女性は、彼女の人生すべてに影響を及ぼすわけです。家族、子供たち、仕事も。何もなかった以前と同じように続くということはできないわけです。
Q:不動産業界の内情というのが非常にリアルに描かれていたんですけども、これはかなり綿密に取材したんでしょうか。また、主人公と雇い主の関係も過去のことは流してビジネスパートナーとしては一見上手くいっていくような感じも、心が通ったりしたようにも見えたりしたんですけども、こういった部分については実際の事例だとか取材しながら書いていったのでしょうか、教えてください。
シャロン・エヤールさん:私は弁護士でもあります。そして長年脚本を手掛けるまでは様々な案件を使って不動産業界のこともあったので、そういった部分と加えてですね建築業界の色々下見というか、色んな人に会って視察をしたりして聞き出したということがあります。そして、二人の関係ですが、オルナにとっては仕事として、ベニーは上司、仕事仲間というふうに見ていたわけです。ベニーはオルナのことを信頼して任せてくれましたよね、大きな仕事も。それに対してもちろん感謝は感じている。ただベニーはやっぱり読み間違った。そして仕事だけじゃないと彼は思ってしまったというか思いたかった。また、昇進させてあげたりしたから何かご褒美というかですね、もっと何か期待できるんじゃないかという下心があったということですね。ですからそこの大きなすれ違いがあった。彼がちょっと推しが強く進んでしまったということですよね。
石坂PD:ありがとうございます。
Q:映画を観て怒りはすごく感じたし、彼女が何か小さな希望を持って次を歩んでいくっていうのも感じたんですけど、それを脚本家としてどういったことを皆さんに伝えたかったのかをもう一度教えてください。
シャロン・エヤールさん:まず、最初の目的としては映画として質の高いものにしたかった。これは別に大学の講義の材料ではないのでその点は大事ですね。あと、やはり女性の立場、女性の気持ちを極力リアルに描くということを念頭に置いていました。そして、あのある意味ステップごとに、なぜこういうふうに事が事態がなったかということを丁寧に描いています。まあ最初、小さいことかもしれないけども髪の毛を下したほうがいいよとボスに言いましたよね。そういったひとつのサインというかそういったこと。たとえば、部屋の電気を消すとかから。そういったことが起きていて、彼女は別の場所で働くとか、自分としては最悪の事態を避けようと行動はとった。というのは、やはり彼女はこの仕事を辞めることはできない。子供もいる、お金を稼ぐ必要があるということがあったわけですね。ただ、なぜ彼女がこういう行動にでたか、あるいは出なかったか。そういう状況をなるべくリアルに、そして女性の目線で描いたということです。そして彼女の頭の中をですね。私たちが見て分かるような、そうしてなぜそういうことがありながら未遂には終わったけれどもレイプになりかけるところまでいったのか。つまり彼女はもうこれ以上耐えられないというところまで結局長引かせてしまったわけです。それを描いています。