10/29(月)、コンペティション『アマンダ(原題)』上映後、ミカエル・アース監督、プロデューサーのピエール・ガイヤールさんをお迎えし、Q&A が行われました。
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Q:キャスティングをどのように選ばれたのか質問をしたいです。
ミカエル・アース監督:今回の女の子のキャスティングはいわゆるワイルドキャスティングと言うことをやりました。もちろん演劇や映画の経験のある子役たちにも会ったのですが、親にやらされているのか本人の希望でやっているのかわからないため、引っ掛かるものがありまして。それで私はワイルドキャスティングと言って、学校から出て来るところを待ち伏せたり、スポーツの習い事から出て来るところを待ち伏せたり、それでいろんな人たちに声をかけて、オーディションを受けてもらいました。今回の役で必要だったのは7歳という設定でしたので、ちょっと幼い子供っぽさもありながら、シングルマザーに育てられているという環境でしっかりしている子なんだろうなということから、自分の考えとか気持ちの表現とかが成熟した子が良いなと思っていろんな子に会いました。カメラテストをしたら今回の彼女が非常に自然な演技が出来て、ヴァンサンにも会わせたら非常に良い相乗効果がありましたので彼女に決めました。
矢田部PD(司会):ヴァンサン・ラコストさんは今年も主演作が4本ぐらいフランスで公開される売れっ子ですけれども、監督から見てヴァンサン・ラコストの優れた俳優として良い点はどういう点にあると思われてますでしょうか?
ミカエル・アース監督:ヴァンサンが今まで演じてきたのは結構コミカルな役が多く、こういうメロドラマティックな役は今回が初めてだったと思います。彼の素晴らしいところは、非常にドラマティックで深みのある演技をしつつも、軽やかさというのも持ち合わせていたり、複雑な気持ちを持ちつつも、軽い部分もあったり。顔も整っているけれど、そこまで超イケメンでは無いし、エレガントだけれど不器用なところもある。両面的で誰にでも親しみやすく、共感を持ってもらえるところが非常に良いと思いました。
とても重いテーマも扱っていながら彼のようなエレガンスさと軽やかさで演じてもらえれば、非常に誰でも親しみやすい受け入れやすい映画になるかと思ってキャスティングしました。決して重苦しい映画ではなく輝かしい明るい映画にしたいと思いましたので、絶妙なキャスティングだったと思います。
矢田部PD:ありがとうございます。
Q:とても自然な演技でしたが、どのような演出で彼女の自然な演技を引き出すことが出来たのでしょうか?
ミカエル・アース監督:子供を出演させる場合、1日3~4時間までしか労働させてはいけないという法律の基準がありますので、限られた時間内で普段とは違うペースで作業することになりました。大人でも一緒ですが、まずは信頼関係をしっかり築き上げるというのが非常に重要だと思っております。ですので、直接関わることのない部分でも、何でも全部しっかり話して、映画にとってこのシーンがどういう意味があるのかなどを全部理解してもらいました。リハーサルをするというのではなく、本当にその役を自分に近づけて、自ら内面から感じるものを演じてもらう。アマンダを忘れて自分の中から湧き出て来る感情を演じてほしいということを伝え、悲しいシーンであれば彼女が自分の中から引き出して泣いたりしてくれました。もちろん彼女はシナリオをしっかり読んで理解をした上で、アマンダであるということを忘れて自分として感じるものを表現してくれました。
Q:この映画の中ではステイシー・マーティンとグレタ・スカッキといういわゆる世代の異なるバイリンガルのイギリス人女優を起用されていますが、その起用について教えてください。あと、エンドロールでかかる曲について教えてください。
ミカエル・アース監督:今ご質問いただいたキャスティングについてですが、ステイシー・マーティンは、日本ではどういう捉え方をされているかわからないんですが、フランス人の間では、彼女はちょっと特殊な話し方をして、ちょっとミュージカルというか、音楽性を感じさせる役者さんでいらっしゃいます。彼女は役柄をしっかり作り上げていくタイプの人なんです。ヴァンサン・ラコストは直感的に、自然に演技をするという感じで、タイプが全く異なりますので、この二人を一緒にカップルとして描いたらとても面白いんじゃないかなという思いから、あのような組み合わせにいたしました。グレタ・スカッキさんも、彼女の役柄はイギリス人の母親という設定でしたが、私にとっても思春期の憧れの女優さんでもありましたので、キャスティングディレクターと相談して、彼女にぜひオファーしたいということで、今回キャスティングさせていただきました。
エンドロールにかかる曲「Elvis Has Left the Building」は、Pulpというバンドのフロントマンであるジャーヴィス・コッカーさんの曲です。私自身、幼い頃からファンでしたので、今回シナリオを送ってみたら、非常に気に入ってくれて。“Elvis Has Left the Building”というフレーズで彼がインスピレーションを受けて、あのように作曲してくれました。
Q:すごく素晴らしい映画を観させていただきました。ワイルドキャスティングって言うんですか、キャスティングされた女の子の自然体の演技ですね、あれがやっぱり映画を成功するのに大きな要因になっているように思いました。この映画はラストシーンがすべてを表している。それが素晴らしいと思いました。監督どうですか?
ミカエル・アース監督:ありがとう。私以上によく映画を理解されているようですね。もう全部、芯まで理解されていて、私は完全に同意いたします。
Q:肉親を亡くして、その悲しみから再生して行く、というストーリーの映画はたくさんあると思うんですけれども、今回テロで亡くなったっていう亡くなり方をあえて使われた理由を教えていただけますか?
ミカエル・アース監督:今回自分がこの映画を作るにあたって意図していたことの一つでもあるんですが、自分が普段生活しているパリをそのまま描きたいという気持ちがありました。ご存知の通り、パリは今、テロを経たという状況にあります。今回は社会的、政治的な意味を込めるということではなくて、あくまでも人間、一個人のレベル、今回は女の子ですけれども、突然肉親を失った、その子の周辺で起こった背景として描いています。決して社会的、政治的な意味を込めているわけではないんですが、普通に生活している一個人がそういったことを経験したということで、いつ何が起こるかわからないという我々の置かれている脆い部分を描きました。個人の身の上に起こったこととして描いておりますけれど、パリの今の姿を描きたいということで、あのようになっています。
Q:主人公の男の子がパリの街中で、昔の女の友達と会って、お姉さんどうしてるの、という話をしてるところに、亡くなったという事実を言いに戻るシーンがあると思います。観ていてあのシーンだけカメラが主人公から距離を取っているのが印象的だったのですが、何か込めた意味がありますでしょうか。
ミカエル・アース監督:撮影した距離なんですけれども、自分自身、あの距離が適切だなと。あのように描いている理由はなぜかと言いますと、あそこで何が行われているかというのは誰もがわかることですし、あえて何をという言葉を使っているのか聞く必要がありません。あえて遠いからこそ、感情的に我々も理解して感じるっていうことも出来ますし、実際そうやって感じていただいたっていうのもわかります。あの場面では言葉を聞く必要がないと思いまして、適切な距離で、あえて感情的に訴える距離があれだなと思って撮影しました
矢田部PD:とても嬉しいことに、『アマンダ』は来年2019年の公開が決まっております。ビターズ・エンドさんの配給によりまして、来年の初夏ですね、2019年の初夏に銀座のシネスイッチ他にて公開になりますので、そちらの方もぜひお楽しみにしていただきたいと思います。