10/28(日)、日本映画スプラッシュ『月極オトコトモダチ』上映後、穐山茉由監督をお迎えし、Q&A が行われました。
⇒作品詳細
矢田部PD(司会):監督はお客様と一緒にご覧になっていましたけれども、どんなお気持ちでいらっしゃいますか。
穐山茉由監督:やっぱりこの大きいスクリーンで観れたっていうのがまず嬉しくって、ほんとに私も、観客の気持ちで観ていました。場内の雰囲気とか予想通りといいますか。昨日ちょうどプレス向けの上映があったときに結構海外の方にも観てもらって、ちょっと雰囲気が違ったんですけど、なんとなく緊張感のあるシーンは割とそういう感じで観ていただけたかなと思いながら。
矢田部PD:具体的にこの物語を書こうと思われた背景をちょっとお伺いできますか。
穐山茉由監督:実は一番最初にこれを作るきっかけとなったのが「MOOSIC LAB」という音楽と映画のコラボレーションをする祭典があるんですが、そこに向けて作った企画で。音楽を中に取り入れてっていうことで、どういう企画をやろうかなってことを考えたときに、ネットニュースでレンタルフレンドの記事を見ました。SNSで友達がたくさんいるよっていうふうに演出するための友達を雇うっていう記事を見たんです。
矢田部PD:本当にあるんですね。
穐山茉由監督:本当にあるんですよ。
それにすごく興味をもって、何かできないかなって思っていたんですが、どうしても、友達がいない人が雇うってなるとかなり湿っぽくなっちゃうかなって思って。もうちょっと、建前は社会的にも普通に働いていてコミュニケーションもある程度出来るんだけど、色々背景には抱えているものがあるじゃないですけど。そういう人がそういう人と出会ってっていう方が色々と開けた感じになるかなって思って考えたのと、同性の友達ってなるとまたそれはそれでよくある感じかもしれないので、男女の友情っていうのを、気になっているテーマではあるので、それも組み合わせたら化学反応が起きそうな予感がしたというところから進めていきました。
矢田部PD:監督の実体験も混ざってたりするんでしょうか。
穐山茉由監督:実体験はですね、結構私色んな人にあの徳永さんとかも含めて「那沙は監督でしょ」って言われるんですけど、「私じゃない」ってずっと言い張ってます。ただ確かに、実体験である部分もあって、一つ言うと実際にレンタル友達を雇ってみたんですよ。それはこの企画を考えていたのもあるんですけど。
矢田部PD:それ全く那沙さんと一緒じゃないですか。自分の仕事のために雇ってみるっていうのは。
穐山茉由監督:そうですね。取材のために会ってみるっていうのをやってみて。なんかどういうオペレーションでやるのかなっていうのも気になってたんで、その一連をやってみようっていうのを一人でこそこそやってたんですけども。
矢田部PD:やってたんだ。
穐山茉由監督:ただ、そこですごく気付いたことがあって。それは本当にあのレンタルするまで気付かなかったんですけど。どうしてもレンタル友達って、斜めから見てたんですけど、好奇心もあって雇ってみたんですね。実際同じように柳瀬と同じくらいの年の男性をお願いして、会ってただお話しただけだったんですよ、その時は。こちらは雇っているというか、一応お金を払っているっていう契約上に基づいているので、なんかすごく不思議な安心感があるっていうか。もう私を全て受け入れてくれている前提みたいなことがなかなかやってみないと気付かなかったところで。そういうセリフもちょっとは入ってたりするんですけど、このすごい受け入れられている感じってすごく話しやすいですね、なんか変に気を遣わなくていいっていうか相手が何を考えているのかなとか、そういうの考えなくてもいいって。そしたら相手も「僕もそうなんですよ」って言っていて。
矢田部PD:「そうなんですよ」っていうのは?
穐山茉由監督:自分が契約上の友達ですっていうことで友達でいられるっていうことが何かそういう気持ちになるみたいな。契約上だけど、友達でいられるっていうところに価値を見出しているっていう話を聞いて、それがこの作品にもあるような偽物の中にある本物の気持ちみたいな、本物の感情の部分みたいなのがすごく面白いなって思って、取り入れたいなって思いました。
Q:キャスティングについて教えていただけたらと思います。
穐山茉由監督:一番最初にコラボミュージシャンを誰にしようかっていう話を考えていて、もちろん並行して主役とか他のキャスティングも進めてたんですけど、そこを軸に考えたいというのがありました。芦那すみれさんも以前『ジムノペティで乱れる』という作品で演技を拝見していてすごく印象に残っていたのですが、彼女はBOMIさんという名義でアーティストもやっているんですけどそこがリンクしていなかったんです。調べたらこの人は音楽もやっているってなってすごい偶然というわけじゃないんですけど、ぴったりだなと思って芦那さんにぜひオファーしようと。同時並行で主役の那沙の役はどうしようかなと考えていて。なかなかやりようによってはべたべたになりそうだし…そのバランスがうまく行けそうな人は誰だろうと思った時に、徳永えりさんという候補で考えていたのですけれども、彼女の演技力と社会性みたいな…しっかりした人がこれをやったら面白いんじゃないかと。
あと、まだそこまで設定が細かく決まっていなかった時期に、徳永さんを色々調べていて、すごくインスピレーションが湧いたというか、サッカーとかもやってほしいなとか…サッカーをやらせたいというのも元々あったのですが、彼女の特技の欄とかに書いてあったのですね。これは決まりだ、という感じで。色々うまくはまったなあと。橋本 淳さんは、『At the terrace テラスにて』という映画に出ていらして、すごく気になる人ではいたのですが、実際お会いしてみて、橋本さんはすごくお話も上手だし、立ち振る舞いもスマートなんですけれども、実際この人は何を考えているんだろうと思って、この人の奥も見てみたいと。その飄々とした感じが、柳瀬役とリンクしていて、その辺も凄く合いそうだなというところで配役しました。
矢田部PD:ありがとうございます。音楽は、最初に歌があってから脚本を作っていったのか、脚本づくりに合わせて歌を作ってもらったのか。というのは、歌がとても重要ですのでお伺い出来ますか?
穐山茉由監督:それは完全に同時並行でした。私がシナリオを描いているのと同時に、入江 陽さんという方に音楽をお願いしたのですけれども、入江さんも曲を書いていて、入江さんと私は、同じ時に机に向かっているっていう感じで。それがすごくいい効果を生んでいて、私が書いた本に対するアンサーという風にきて、それに対して摺り合わせができていたのが、すごくよかったなと思いました。本当にタイトな撮影期間で、準備期間も凄くタイトだったので、その中でできる限りのやりとりという感じで作りましたね。
矢田部PD:入江さんが作ってきた曲に対して、そういうことか、じゃあ脚本の方も影響を受けるということもあったんですか?
穐山茉由監督:曲、お芝居も。曲を聞きながら演じてもらったりとかもしたので、その辺はもうここで生まれたものに対してどうリアクションするか、ってな感じで作っていきました。
Q:途中で巨大建造物を巡るのが趣味っていうのが出て来るんですけれども、その辺はどうして取り入れようと思ったのか、教えていただけますか?
穐山茉由監督:そうですね、あれは元々プロットの段階にはなくて、男友達をレンタルするときにじゃあどこに行こうっていうのを考えたときに別のことを最初考えたんですよね。もうちょっと女性だけではあまり行かないような、例えば雀荘とか釣りとか、そういうのを行ってみようかな、みたいなかんじで考えたんですけど、それはそれで面白いと思うんですけど、なんかありきたりというか、割と人が考える固定概念に囚われてるんじゃないかと思って、もうちょっとパーソナルな方がいいなと思ったので、私がたまたま巨大建造物が好きっていうのもあるんですけど。給水塔とかも好きで、最初はそれで軽い気持ちで給水塔って書いたら、スタッフが結構反応してくれて、面白いね、みたいなかんじで。じゃあこっちの方向性にしようってなって、給水塔にしてたんですけど、給水塔だけだと何か味気ないね、ってことになって、キャメラマンの中瀬 慧さんが近所にいいところ知ってるよ、みたいなかんじになって、柳瀬が教えてくれるものに関してはもう他人から教わったもので、那沙が行きたいのも全部って感じにしてやりました。
Q:もし男女が逆のパターンだったら、脚本とかストーリーの内容が違ったものになっていましたか?
穐山茉由監督:そうですね。そのバージョンはあまり考えていなかったです。単純に男女の友情はないとか言われてるけど、でもあるよ、っていう人が結構女性の方が多かったりもするのかな、って。結構思ってたより男性も多いんですけど、その辺の気持ちを投影したかったっていうのもあって、私も女性なので女性目線の方が書きやすかったっていうのもあるんですけど、この本の根底にある那沙の欲望というか目的というかその男女の友情を追求したいっていう気持ちって私も結構子供のころは割と男の子と普通に一緒に遊んでいたっていうわけじゃないんですけど、同じ目線だったので。で、私は中学生から女子高なんですね。ずっと女子高、女子大で、働き先もほぼ女ばかりで、女だらけで育ってて、どうしてもやっぱりジェンダーみたいなのを意識するところにいて。なんかこう普段女性の中だけで完結してたことが、意外と外に出てみたらちょっと違和感を感じたりとか、なんかそういう皆さんどこかできっとそういうのを考えてるタイミングがあるんじゃないかなと思って、それを本当に自分の目線からっていう形でちょっとやってみたいな、と思ったのがきっかけというか。確かに男性がお金を払って女性を友達としてレンタルするっていうとなるとちょっとまた違うストーリーになりますね。
なのでそれはそれで面白く描けそうな予感は、ベタにやらずに違うものをもちこんだりしたらもしかしたら化けるかもしれないんですけど、そっちの方はあまりないかな、というのもあって、やってみたいな、と単純に興味を持ったパターンを映像にした感じです。
矢田部PD:続編で『月極オンナトモダチ』っていうのは…。
穐山茉由監督:『月極オンナトモダチ』?はい(笑)
矢田部PD:ぜひ続編お願いします。
Q.那沙が柳瀬をレンタルするたびにおしゃれになっている気がしました。特に印象に残っているのが、海辺でサッカーをした後に部屋でペディキュアを塗っているシーンです。だんだんおしゃれになっていくのは、演出なのでしょうか。
矢田部PD:今、面白かったのが、質問を聞きながら女性のお客さんがうんと頷いているのに対し、男性のお客さんはうん?と全然気づいていない感じなのが面白いですね。
穐山茉由監督:はい。ありがとうございます。そこを観ていただけて嬉しいです。ペディキュアもそうですが、その直前の柳瀬と裸足でサッカーをしているシーンの流れに気を遣って、そこで繊細な乙女心を投影しました。ファッションについては、おしゃれになっていくというふうに観ていただけたのならありがたいんですけれど。衣装にも色々意味合いを持たせていて、一番最初に那沙が柳瀬と会う時には、那沙は黄色い服を着ています。私の設定で、柳瀬は「赤」を与える人にしようと思って、一番最初に出会ったときにチェリーを貰うんですけど。もう一回観ていただくと、どういう感じに変わっていくか、など気づいていただければ。
矢田部PD:赤は、愛ですか。
穐山茉由監督:照明さんとも色々話をして、赤は愛というか「恋心」といったことも話をしました。
矢田部PD:衣装以外でも仕掛けたようなことってありますか。
穐山茉由監督:私が仕込んだことが答えではないんですが・・・。給水塔は結構誤解されるんですが、あれは柳瀬に似てるっていうんでちょっとしたメタファーになっているんですが、単純に好きなものとしての対象物になっていて。柳瀬っていうものに向き合ってるときは見晴らしのいい場所になってよかったな、と。
Q:那沙と珠希の関係性も不思議だったんですが、いろいろ考えられてつくったんでしょうか。
穐山茉由監督:女性同士の友情って描くのが難しいと思っていて、仲良しって感じで描くのは分かりやすいんですが、もうちょっと違うもので繋がった人たちであってほしくて、二人とも創作をしたりとか、過去に恋愛で失敗したりとかしたもやもやを抱えていたり、悩みを抱えていたりして。二人とも29歳という設定で、30歳手前って数字が気になってしまう。これから自分たちどうするんだろう、っていうところを共有できている二人の不思議な距離感がいいかな、と思って。メインの三人の中では徳永さんと芦那さんはもともと知り合いだったので準備期間の少ない中でも密に話していてくれて、べたべたしすぎない感じをうまく出してもらえたと思ってます。
矢田部PD:映画祭で見逃した方は、2018年11月18日から上映されますので足を運んでいただけたらと思います。
穐山茉由監督:このテーマは不変ですし、それぞれ意見をもっているので。那沙なりの答えは出したんですけど、それぞれの人に答えがあると思うので、納得いった、納得いかないなど、みなさんで話し合っていただけたらいいな、というそこまでも含めて映画の楽しみかなと思うので、ぜひ楽しんでいただけたら、と思います。初お披露目のこの場を目撃してくださってありがとうございます。