10/28(日)、ワールド・フォーカス『十年 Ten Years Thailand』上映後、プロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんをお迎えし、Q&A が行われました。
⇒作品詳細
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:みなさん、こんにちは。今回、タイの『十年 Ten Years Thailand』を観にお越しいただき、ありがとうございました。作品の代表として、タイから来ました。
石坂PD(司会):10年プロジェクトは香港で始まって、日本、台湾、タイと4か国ですね。また、このいずれかを観て刺激を受けた国が、独自にその国ならではのオムニバスを作るという現象が起きています。バングラデシュなど、「10年」とは付いていませんが、インスパイアされ、国際的に広がりを見せているようです。今日は、プロデューサーの立場からのご発言ということになります。4人の監督に決めたいきさつや、制作の裏話などをかいつまんでお話し願います。
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:いきさつとしては、もともとFilms For Freeというプロジェクトからスタートしました。そのときタイでは政治的な問題があり、発言の自由、芸術家たちの表現の自由ということに疑問を持った人たちがこのプロジェクトを最初に始めました。
私はインディーズ映画のプロデューサーとして働いているので、ぜひこのプロジェクトをやってみようと始めました。その後にFilms For Freeのプロジェクトから抜け出してリバイスするという形で『Ten Year Thailand』に広がっていったのです。そのとき『Ten Years Hong Kong』が上映されていました。香港だけでなく世界的にも大きな注目を集めるような作品で、政治的な状況を反映していた作品です。私もそこからインスピレーションを受けまして、『Ten Years Thailand』という形でプロジェクトとしてリバイスして作るという経過をたどりました。
他の国の、インターナショナルの「Ten Years」は、監督は主に若い方がやられていると思います。ただ、タイの場合は少し事情が違いまして、私はタイのインディーズ映画の価値観を高めたいという思いでこのプロジェクトを始めましたので、4人の監督はいろいろな年代の方、いろいろな個性を持った方を選出しました。
Q:プロデューサーと4人の監督は、香港版についてどんなご感想をお持ちになり、タイでの翻案の可能性を討論なさったかをお伺いしたいと思います。
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:『Ten Years Hong Kong』はタイでも上映されました。ただ、上映されていたのは、バンコクの限られた映画館で、どちらかというと小さい映画館で上映されました。特に細かい検閲は入らなかったので、自由に上映されています。その時、香港の方が1名タイにいらっしゃってお話しされる企画がありましたが、タイの政治的な事情もありまして、入国できないという事態もありました。
石坂PD:ちなみに日本版は2018年11月3日の公開で、台湾版だけまだ日本で上映されていません。
Q:この映画もタイ国内で上映ができないかもしれないという話がありました。その理由をお聞かせ願いたいと思います。
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:私個人の意見ですが、タイでは絶対上映させなければいけないと思っています。上映できなくなることは考えていません。なぜかというと、制作の過程で、検閲に触れないぎりぎりのリミットを考えて制作したからです。
日本で皆さんに観ていただけているので、もちろんタイの皆さんにも観ていただきたいと思っています。実は、この質問はいろいろな国のマスコミの方にも聞かれた質問です。この作品は12月に上映予定ですが、タイのマスコミの皆さんは、本当に上映できるのだろうかと興味をもってみている状況です。皆さんもタイで無事に上映できるように応援してください。よろしくお願いいたします。
石坂PD:エピソードごとに概要をお話しします。第1話は展覧会に検閲が入るという話、第2話はネコが支配している、第3話は現代美術の方がシンボリックに女性の独裁者のイメージを作っていて、第4話でアピチャッポン監督はいつものアピチャッポン監督ですね。公園の真ん中に銅像がありますが、あの銅像に何か意味があるのでしょうか?
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:公園の銅像について、実はアピチャッポン監督とも「あれはどういう意味なのだったか」という話もしました。アピチャッポン監督から、日本で聞かれたら、このように答えてくださいと言われました。「あれは、10年後のタイの公園の様子です。そこに銅像が建っているのは、意図的です。なぜなら、未来は、現在、過去からつながっているからです。銅像は過去に建てられたもので、それが10年後にもまだ残っているのは、過去から連続して現在、そして未来へのつながりを私は銅像で表したいのです」
Q:先ほど、この映画を公開するのが難しいだろうという話でした。軍事政権によっても検閲はされますが、例えばハリウッドのセクシーな映画は儲かるから公開するが、そうでないものは公開しないという、商業的な意味での事情もありますか。
カッタリーヤー・パオシーチャルーンさん:今回私たちがこの映画を創るのは非常にチャレンジングな試みだったと思っています。もちろん、検閲に触れることが怖くないと言ったら嘘になります。触れる可能性があるところはタイの法律・憲法に照らし合わせながらやっていたのも事実です。また、タイ国内でも映画は社会に何かを訴える一つの方法とみなされていますので、非常に慎重になった部分もあります。
最近タイでの商業規模が大きな映画館のマネージャーから、是非うちの映画館で上映させてほしいというお話もありました。タイは来年に選挙も控えているので、社会的な動向につなげていきたいのかなとも感じました。とても光栄な申し出だと思っています。
石坂PD:国際的な声を大きくして応援するというやり方もあると思いますので、タイの動向にも注目して、是非日本からも応援していきたいと思います。