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2018.11.06 [イベントレポート]
「大きな変革を遂げる主人公を描きたかった」10/28(日):Q&A『世界はリズムで満ちている』

世界はリズムで満ちている

©2018 TIFF

 
10/28(日)、ワールド・フォーカス『世界はリズムで満ちている』上映後、ラージーヴ・メーナン監督、プロデューサーのラターさんをお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
石坂PD(司会):実はこの作品、今の上映がワールドプレミア公演です。みなさんが世界で最初にこの映画をご覧になっているわけです。インドの公開がTIFFの前だというお話でしたので、それでもいいからやらせてくださいとお話していました。一番大きいこのスクリーン7でやりたいということで交渉していましたら、インドの公開が遅くなり、結果として東京が世界初上映になったということです。ありがとうございます。
 
ラージーヴ・メーナン監督:このように映画祭にお呼びいただけて光栄です。作品を選んでいただいてありがとうございます。本当にオフィス以外の方はまだこの映画を観ていないという状況ですね。
本作は、私がムリダンガムの巨匠のドキュメンタリーを制作した際にいろいろと見聞きしたこと、そこから発展させて何か伝統芸術に絡めた面白い作品が撮れるのではないかなというところから着想しました。
 
ラターさん(プロデューサー):ご招待いただけたことをとても嬉しく思います。このような素敵な劇場で素敵な観客のみなさんにご覧いただいたことも嬉しいです。というのも、私たちは日本の映画の巨匠に大きな影響を受けてきました。黒澤 明監督、そして、是枝監督といった現代の映画作家の方々です。私たちは『万引き家族』も観ましたし、役所広司さんがとても好きです。
 
ラージーヴ・メーナン監督:伝統芸術は年老いた人のものようになっていて、なかなかそれを題材にした作品が若い人に届くのは困難であると、みなさんが疑問を呈しています。その中で、私の妻が「じゃあ私がプロデューサーをやります」と言って、後押しをして、共にこのプロジェクトを進めてくれた。彼女の勇気に負うところが大きいですね。
 
石坂PD:俳優の皆さんは、映画では大変な楽器の使い手と見えます。実際に音楽をやっているのか、あるいは映画のために訓練したのか、そのあたりを教えてください。
 
ラージーヴ・メーナン監督:ナンドゥという一緒に競う相手がいますね。ナンドゥ役のスメーシュは、実際にムリダンガムの奏者として活動している人です。
主演のピーターを演じたG・V・プラカーシュ・クマールは、実はA・R・ラフマーン氏の甥っ子です。ただ、作曲家でありピアニストでもあるんですね。しかし、ムリダンガムは左右の手の動きが異なるんです。演奏するのが不可能に思われるような非常に難しい楽器なので、そんな彼であっても一年間かけて特訓してもらいました。先生役のネドゥムディ・ヴェーヌさんはこういった伝統芸能のご一家で、幼い頃から演奏をしていらっしゃる方です。
そして、才能発掘番組の審査員をした方々、シンガーの方は実際にこういった番組に出ている方を起用いたしました。ですから本職の方ですね。
 
石坂PD:そうですね、リアリティが違いますね。
 
Q:ピーターは不可触民とガイドに書いてありましたが、ピーターはクリスチャンなので関係ないんじゃないでしょうか。インドの人はみんなどこかのカーストに属しているものでしょうか。そして、太鼓づくりが不可触民と呼ばれる人たちの仕事と決まっているのでしょうか。
 
ラージーヴ・メーナン監督:非常に重要な点ご指摘ありがとうございます。
ちなみに、この楽器は皮を使います。それは牛、ヤギ、水牛の皮を用いるんですが、いずれも出産後の雌の皮です。出産後は皮が伸びますので、柔らかくなって音がいいということですね。かつ、放し飼いであることが大事です。それが条件になります。そして、ダリットというカーストの人たちがこの職業に就くことになっています。彼らは、楽器を作るだけで、演奏はしないんですね。
キリスト教という話が出ましたが、1930年代に、不可触民の中で改宗をしてキリスト教になった人たちがいますが、カーストから逃れられたわけではなく、やはり作り手は作り手なのです。いまだに作り手の中から演奏者になった方はいません。
でも、私はそれが変わってほしいという願いも込めています。そういったものを破って、ピーターに象徴される作り手の方にも進出してほしいという思いも込めて、この作品を作っています。
 
Q:監督は撮影監督だった経験から、シンプルな感じの撮影スタイルであると思います。その意図とご自身のスタイルをどう思われますか。
 
ラージーヴ・メーナン監督:撮影のスタイルというのはストーリーありきだと思うんですね。ストーリー次第でスタイルも変わってきます。
この作品は本当に普通の青年が希望をもって、そこに向かっていくのです。そして、私はリアルな状況を描きたかった。とても美化した、人工的な感じにはしたくありませんでした。それは、私が手掛けたドキュメンタリーをまだ引きずっているのだと思うんですね。ですから、ストーリー次第ですが、私が以前撮った二作は様式にのっとったものでしたが、今作に関してはシンプルにしました。
 
ラターさん:もう一点是非加えたいことがあります。
ロケをした場所は全部本当の場所です。例えば、太鼓を作る工房は非常に限られた二部屋しかないところでしたから、クルーは5人しか入るスペースがなかったです。そして、生演奏のシーンも実際にコンサートを行えるところで撮影し、それを実際に見に来たお客さんなので、仕掛けは一切ないです。
 
Q:実際にムリダンガムの世界でも伝統を破るような動きは起きているんでしょうか。
 
ラージーヴ・メーナン監督:音楽に関して言うと、もちろん階級を超えている人もいます。不可触民のカーストから出て、音楽のディレクターとして成功しているミュージックディレクターもいますね。あと、ケララ出身のシンガーの方で本当にトップまで上り詰めた人がいます。
ですから、ブラーマン以外のカーストから成功している場合もあるのですが、重要なのは単に楽器なりを弾ける技術だけではないんですね。それを超えて、知識など、いろいろと知っている必要がある。ずっと伝統的に家庭内でそういったものに触れていることはやはり背景として非常に強い、必要だという部分がありますね。やはり文化としていろいろ理解する部分が非常に大きいわけです。
 
Q:この映画を作るにあたって、インスパイアを受けた作品があれば教えてください。
 
ラージーヴ・メーナン監督:私がインスピレーションを得たのは、ナンダナアという聖人の叙事詩が、ずっと伝統的にオペラであるんですね。このタミル語で演じているオペラを見ました。これはダリットの人が神殿の外でシヴァ神に会うために待っているという聖人の逸話をモチーフにしています。そこからインスピレーションを受けています。
 
Q:主役のピーターやナンドゥは非常にステレオタイプですが、その意図は何でしょうか。
 
ラージーヴ・メーナン監督:主役のG・V・プラカーシュ・クマールは、実際に演奏ができるようなミュージシャンとして認められたから演奏している、その場所にいるという設定になっています。ある意味、映画のストーリーはちょっと極端な人を描くことがあると思います。要は、今までずっと控えでベンチを温めていた人がレギュラーになるようなものを描きたかったんですね。
特にこれは、ハーバード大出身でなくても、そういった家庭環境があって、ムリダンガムにすでに馴染みのある人だと話に面白みがないのです。ムリダンガムに全く興味を示さなかった、自分の父親の職業にも興味を示さなかった彼が目覚めるという展開です。
彼はすごく映画が好きなわけですよね。映画の世界にあこがれて喧嘩をしたりとか、そういった仲間とつるんでいたという、違う興味とライフスタイルの人が全く違うのもに惹かれたことを劇的に表してたかった。だから、そういった意味で、これはストーリーで変わって、大きな変革を遂げる主人公を描きたかったがための設定です。
 
ラターさん:あと示唆している点は、ピーターはビジョン(劇中に出てくる映画スター)の大ファンで、ファンクラブでいつも景気づけの音楽をやっているわけです。そこで非常に打楽器的なセンスがあり、練習をしてきました。急に何もないところから始めたのではないことをちゃんと押さえています。

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