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コンペティション部門『
アマンダ(原題)』ミカエル・アース監督、ピエール・ガイヤールさん(プロデューサー)インタビュー
前作『この夏の感じ』(2015)が第4回ボルドー国際インディペンデント映画祭のグランプリを受賞したミカエル・アース監督が脚本も手がけた『アマンダ(原題)』。コンペティション部門で最高賞の東京グランプリ、最優秀脚本賞 Presented by WOWOWの2部門を制した今作は、パリで便利屋をしている青年ダビッドと、突然の悲劇で母親を失った彼の姪アマンダの日常を描いたもの。愛する人を突然失った少女と若者。そのふたりに注がれる視線がこの上なく優しくて、静かな感動を誘う。
--ダヴィッドの姉にしてアマンダの母親は、テロの犠牲者という設定ですが、脚本を描くきっかけとなったのは実際に起こった15年のパリ同時多発テロ事件ですか?
ミカエル・アース監督(以下、アース監督):それもひとつの出来事ではありますが、それだけがきっかけとは言えません。テロ事件も含め、僕の周りで起こっているいろいろな出来事や出会いが積み重なって、こういう映画が作りたいと思うようになったのです。いちばん強く思ったのは、パリの現在を描きたいということ。パリの儚さ、脆さ、負った傷、エネルギー、人々の人生……。ありのままのパリを描きたかったのです。そしてもうひとつ描きたかったのは“父性”です。まだ大人になりきれない子ども=ダビッドが少しずつ父性に目覚め、小さな子ども=アマンダと寄り添って成長していく姿を描きたいと思いました。
--ふたりの日常を淡々と描いていますが、その奥には理不尽なテロによって生み出された悲劇がある。静かなる社会的メッセージが、より心に響きます。
アース監督:社会的なメッセージを込めようとは意識していませんでしたが、そういう風に受け取っていただけるのは嬉しいです。今回は、たまたまテロで肉親を失うという悲劇に見舞われたふたりを描いていますが、同時にいまの時代背景、時代のポートレートになっていると思います。そういう観点から作ろうとすると、直接的ではないですが、背景的に現代の社会性や政治的な部分も入れざるをえないですからね。
--プロデューサーとしていちばん大変だったプロセスは?
ピエール・ガイヤール(以下、ガイヤール):もともと僕と監督は、チームとして一緒に仕事をしてきましたから。今回も監督が脚本のファーストバージョンを書いた後は、基本的にすべて一緒にディスカッションを重ねて細かいところまで決めていったので、いつも通りスムーズ。ただし、今回は大変というよりチャレンジングだったと言いたいのは、小さな女の子が主役ということでした。子どもを労働させるのはいろいろな法律規制があって、キャスティングにも6カ月以上かけました。いざ出演が決まってからも、1日の拘束時間は3~4時間時間しかない。そうなると撮影のペースもスローになり、当然ながら製作費も多く必要になるから、資金集めもちょっと大変だったのです(笑)。でも、考えてみればゆっくり時間をかけて撮ったことによって、実際にひとりの女の子がどういう感情を経験しながら生きているかを、じっくり自然に撮影できたので、結果的には良かったと思っています。
--7歳の少女アマンダを演じたイゾール・ミュルトゥリエのけなげな表情や、涙目には泣かされます。どのように演出を?
アース監督:彼女にとっては、今回が初めての映画出演でした。撮影が始まってから最後のシーン撮影まで、彼女は実際に様々なことを体験し、文字通りアマンダと同じように毎日を生き抜いてきたのだと思います。最初は「ここはこういう風に感情を出して欲しい」などとその都度、指導していましたが、そのうちに彼女自身が自分の中で経験や言われたことを消化していって、自然にアマンダになっていました。
--ラスト近くで見せる彼女の涙の表情が強烈な印象で、忘れられません。
アース監督:あのシーンが彼女にとって最後の撮影だったのです。やはり、彼女自身の胸に去来するたくさんの思いがあったのだと思います。「ここまでやり切ってきた」「今日で、みんなとお別れだ」「ちゃんと、できたのかしら?」などなど、ものすごくたくさんの感情が押し寄せてきて、ああいう表情をしてくれたのだと思います。そして、あのシーンはこの映画にとって最も重要なシーンだったので、私としてもああいう表情をしてくれた彼女に感謝です。素晴らしい女優さんです!
--ちょっと頼りないけど、限りなく優しい叔父ダビッドを演じたバンサン・ラコストのキャスティングの経緯は?
アース監督:脚本の中では、若者というざっくりした設定でした。で、20代前半がおもしろいかなとプロデューサーたちと話していろいろな俳優を調べていた時に、バンサンの写真やインタビューを見て、どこかピンとくるものがあったのです。彼には複雑な魅力がある。深みもあるけど軽やかさもあって、美しくもあるけれど特に雑誌の表紙を飾るほどのイケメンというわけでもない。不器用でもあるけれど、細やかな面も持ち合わせている。今回のストーリーは、重く苦しい部分もあるのですが、彼が演じることによって親しみや軽やかさをもたらしてくれるから見る人が受け入れやすいと思ったのです。
--ダビッドがパリの街を自転車で走るシーンが数多く登場し、映画を軽快に爽快にしていると感じました。路上撮影はどのように?
アース監督:自転車のシーンは、映画にリズムや空気感を与えるためになるべく多く撮りました。とはいえ、パリでああいうシーン撮るのは楽なことではありません。残念ながら通行をストップさせて撮ることができなかったので、実際に自転車で走っているシーンを許可なく撮ったり、自転車を台車やカートに乗せて撮ったり。いろいろな方法を駆使して撮りました。
--トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル フォールアウト』では、シャンゼリゼ通りを封鎖してアクションを撮っていたのにねえ(笑)。
ガイヤール:次回作では、ぜひ、そうしたいと思ってますよ(笑)。
アース監督:それには、日本のみなさんがこの作品を気に入ってくださって、たくさんの人が見てくれないと(笑)。
--ラストにクレジットされる<シャンタル・アースに捧ぐ>の意味は?
アース監督:シャンタル・アースは僕の母です。実は、この映画の撮影前に亡くなったのです。この映画は奇しくもお母さんを亡くす少女の物語でしたが、僕自身も母を亡くしたばかりだったので、彼女と同じような気持ちになっていて。父性を語っている映画だけど、自分は母のことに触れようかなと思い「母に捧ぐ」としました。誰でも、大切な人を失う経験はするものですね。
(取材/構成 金子裕子 日本映画ペンクラブ)