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2018.11.01 [イベントレポート]
「この作品を観て、自分自身のことを考えていただきたい」10/27(土):Q&A『シレンズ・コール』

シレンズ・コール

©2018 TIFF

 
10/27(土)コンペティション『シレンズ・コール』上映後、ラミン・マタン監督、エズギ・チェリキ(女優)、エミネ・ユルドゥルム(プロデューサー)をお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
ラミン・マタン監督:今回は東京国際映画祭にご招待いただきまして、本当に嬉しく、そして光栄に存じております。皆さんこのように、私たちの作品をご覧にお越しいただきまして本当にありがとうございます。
 
エズギ・チェリキさん:皆さんこんにちは。この作品を喜んでいたければと思います。ありがとうございます。
 
エミネ・ユルドゥルムさん(プロデューサー):本日はお越しいただきましてありがとうございます。今回この作品は、ワールドプレミアということで、私たちにとっても特別な上映となっております。お越しいただきまして本当にありがとうございます。
 
矢田部PD(司会):ラミンさん、今、日本の観客とワールドプレミア上映をご覧になった直後ですけれども、日本の観客とご覧になっていてどのような感想を持たれましたか。
 
ラミン・マタン監督:すごいエキサイティングだったのと同時に、大変緊張する、ストレスの感じるような上映でもありました。と言いますのも、ドラマとは違ってコメディの作品なので、なかなかツボが伝わりづらいと言いますか、日本の観客の方々がどこで笑ってどこで笑わないのか、というのを見るのがすごくおもしろかったです。
 
矢田部PD:東京を上回るくらいの大都会のイスタンブールを舞台にこの不思議な物語を思い付かれた着想、源を教えてください。
 
ラミン・マタン監督:たぶんこの着想というのは、イスタンブールに住んでいて思いついたと言うのがいいと思います。特にこの数年間、イスタンブールはクレイジーというような状況になっていて、あちこちに建設現場が建設を進めていて、街のどこを見ても建設中というような状態なので、しかもその建築というのは何も計画なくそして私たちのクオリティー・オブ・ライフですとか生活ですとか、インフラというものを全く考慮せずに建築が進んでいるので、そういったような地獄のような状況に私たちは住んでいて、そしてそれについて映画を作ったらいいんじゃないかなと思ったのが、まず最初の発想です。こういう日々の生活というものをちょっと色々探求探索してみて、映画を作ったら面白いんじゃないかと思いました。ご覧いただいているシーンというのは、毎日毎日イスタンブールに住んでいる何百人何千人という人たちが実際に体験している生活なんです。もちろん同時に全部起きているわけではなくて、色々なことが色々なところで起きている。そして映っているロケーションというのも実際に存在している場所なので、そういう街に住んでいることを映画で探索して、しかもそれをユーモアを交えながらご覧いただきたかった。こういう変なコメディにはなっていますが、自分たちは日々生活をしていて、これは悲劇だとか、あるいはそういう交通渋滞にはまったりだとか、いろんな人に会って自分は怒りを覚えたりだとかするんだけれども、そのストーリーを伝えることによって、それが面白おかしく伝わっていく、そういう作品が作りたかった。
 
矢田部PD:ありがとうございます。それでは、ご感想あるいはご質問を。
 
Q:モンティ・パイソンなどから影響を受けていたのかなっていうところと、主演されている男性の俳優の方は、イスタンブール、トルコでどのようなお仕事をされていたキャリアの方なのでしょうか。
 
ラミン・マタン監督:モンティ・パイソンについてなんですが、本当に子供のころからずーっとモンティ・パイソンを観ながら育ったので、撮影をしながら、別に意識的にモンティ・パイソンを意識したわけではないですが、ずーっと観ていたのでもしかしたら潜在的に影響を受けていたかもしれません。ただ、どちらかというと意識的に考えていたのは、ジャック・タチですね。俳優さんとのやり取りという意味では、すごく影響を受けていたと思います。
劇中で使用した「トルコ行進曲」についてなんですが、もともとのタイトルが「ロンド(輪舞)」なので、映画の中の彼も街中をぐるぐる回っているので、そういう意味で曲をもうちょっと捻って調子はずれにした方がいいのかなと思ってアレンジしております。主演の俳優についてなんですが、彼は積極的に俳優業をトルコでしている方で、テレビや映画に出ることもあるんですが、劇場に出ることが多く、普段はコメディに出演されることは少ないのですが、今回オーデイションでとても良かったので採用しています。その結果、コメディ的な要素と悲劇的な状況に陥ってしまう部分を良く演じわけていたと思います。93分間もずっと出ずっぱりなので、好意を持てるタイプの役柄ではないにもかかわらず、93分間ずっと皆さんを惹きつけられるように演じてくれたので良かったと思います。
 
矢田部PD:ありがとうございます。ちょうどジャック・タチとロンドと聞くと、映画『プレイタイム』の車がちょうど回転木馬のように大渋滞でぐるぐると回るシーンを思い浮かべますけれども、そういうところからも連想しているということですよね。
 
ラミン・マタン監督:『プレイタイム』で、ビルの乱立するところや渋滞するところを連想させていました。
 
Q:今回の映画で描かれているキャラクターについては、シリアスな部分も考えていたのでしょうか。物理的に居場所を見失っているだけではなくて、この町の中で自分の居場所はどこなんだろうかという精神的な迷いのようなシリアスな要素も考慮されていたのでしょうか。
 
ラミン・マタン監督:まったくご指摘の通りです。この作品の中のキャラクターというのは、人生で自分の道を失ってしまって、社会の中でも何をしたらよいのかわからないという迷いの渦の中に巻き込まれてしまっています。そういう状況になった時に、周りで起きていることにただただ流されてしまう、そういう人たちがイスタンブールにもたくさんいます。彼のような年齢の人、彼のような社会的なクラスの人というのは、ただシステムに押し流されているとか、町の動きに流されてしまっています。そして、それに対して自発的にどう反応したらよいのかよくわからないという感情を抱いていると思うんです。
確かに、この作品の中ではファンタジー的な、現実から逃れるみたいなことが描かれていますが、イスタンブールのバーに行ってみると、6個あるテーブルのうち5つのテーブルで「ここから逃げ出したいよね」みたいな話がされていると思います。それを、今回イスタンブールの街で、メタファーとしてこのキャラクターを使って、皆さんが感じているようなことを表現しようとしたのです。
音楽についても、フリージャズも最後の音楽もそういうことを表現するために使っていま
す。
 
矢田部PD:エズキさん、シレンの役の出番はそう多くはないとはいえ、タイトルに名前が入っていますし、非常に主人公のモチベーションの源になる重要な役です。ですが、非常に複雑な役でもあります。エズキさんは、シレンという女性をどのように分析されて演じられたんでしょうか。
 
エズギ・チェリキさん:シレンは、この作品の中でも一番一貫性を持ったキャラクターだと思います。シレンのように、トルコ、特にイスタンブールから逃れたいと思っている人はたくさんいるのですが、実際に行動を起こしてイスタンブールを離れる人はいないので、そういう意味でシレンは特別な人になっています。
 
ラミン・マタン監督:主演のデニズともすごくディスカッションしたのですが、シレンについて一番私が気に入っている点は彼女がファンタジーではなくて、理想とか夢をすごく追及しているところです。
 
Q:この作品を観ていて一つ気が付いていたことは、自分が逃げようとしているときに近所のカフェに行くと近所の人がすごく手を差し伸べて助けてくれます。文化的に、何か困ったことがあるときに近所の人に助けを求めると、助けてくれるんでしょうか。
 
ラミン・マタン監督:答えは「イエス」であり、「ノー」ですね。
コミュニティ的な感覚は伝統的なトルコの文化としては残っているんですが、なかなかイスタンブールのような都市にはそんなに残っていないと思います。ただ、この作品に出てくる近所はカフェの周りの街並みがどんどん取り壊されているところで、伝わったかわからないのですが、カフェに集まる人たちはちょっと極右っぽい人たちで、昔の伝統的なトルコを残そうというフリをしているんです。なので、あり得ますが、このキャラクター自身もそんなに助けてくれるとは思っていなかったので、びっくりしています。イスタンブールは1700万人も住んでいる大都市なので、なかなかそこを期待するのは難しいかもしれません。
 
エミネ・ユルドゥルムさん:補足しますが、それも文化の一つの特徴だと思います。一瞬親切に手助けしてくれる雰囲気はあるのですが、5分後には殴られているというような複雑な文化があって。見ていることがそのまま起きるわけではないような複雑さはあります。
 
Q:東京から逃げたいと常々思っている自分と重なって、とても胸が痛く、自分を笑うようなところがありました。2003年にトルコに行ったことがあって、東京からトルコに逃げたいと思っている自分に対するブラックコメディーのようにも思えました。
 
ラミン・マタン監督:ありがとうございます。皆さん、自分のことでいろいろ精一杯だともいますので、この作品を観て、自分自身のことを考えていただきたいなと思って作っています。私も今はイスタンブールをあまりお勧めできないので、東京に逃げて来たいなと思って、ここに来ています(笑)。
 
矢田部PD:永く東京に残ってください(笑)。

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