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2018.10.31 [イベントレポート]
フィリピンの人気女優、鬼才ラブ・ディアス作品出演は「美しき挑戦」
映画コムニュース
©2018 TIFF
映画.com

フィリピンの鬼才ラブ・ディアスの約4時間にわたる実験的超大作『悪魔の季節』が10月30日、第31回東京国際映画祭で上映され、メインキャストのひとりを演じたフィリピンの人気女優シャイーナ・マグダヤオが舞台挨拶に登壇した。

上映時間の長さと海外の映画祭での受賞歴、そして政治的なテーマ性で知られるディアス監督の作品の中でも実験的と称され、登場人物が約4時間、アカペラで歌唱し続ける“ロックオペラ”。1970年代後半のマルコス独裁政権下の時代を舞台に貧しい村で医院を開業した女医の失踪と彼女を捜索しようとする夫の姿を描く。

6歳でデビューし、フィリピンで人気のテレビシリーズに出演するなど長いキャリアを誇るマグダヤオだが、そんな彼女にとっても「ラブ・ディアスの作品に出るというのは特別なこと。冗談で「エキストラで立っているだけでもいい」と言ったくらいです(笑)」と語る。

政治的にセンシティブな内容であることから、撮影はフィリピン国内ではなくマレーシアで行われたが「何もないジャングルでの撮影でした。私は月水金と国内のテレビシリーズの撮影があったので、土日にマレーシアに来て撮影し、またフィリピンに帰るという日々を繰り返しました」と明かす。ディアス監督の撮影は基本的に一発撮りで「テイク2は存在しない」。しかもアカペラによる歌唱でセリフを言うという難易度の高い役どころであり、マグダヤオは「美しき挑戦だった」と振り返る。

ディアス監督は今回、来日は叶わなかったが、マグダヤオは監督から預かったという「真実は人間にとって最も力強い鎧であり、これは独裁への最も力強い武器です。真実があることで、独裁を打破することが出来ます。それがこの映画のひとつのメッセージです」というメッセージを読み上げ「この映画はディアス監督からフィリピンへのラブレターだともいます」とその思いを代弁した。

本作はベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、マニラでも特別上映という形で多くの人々の目に触れたが、その内容、そして上映時間の長さもあって「フィリピンで彼の作品を劇場公開することは非常に難しい」という。だからこそ「こうしてフィリピン以外の国の人々に見てもらえることに感謝しています」と語るマグダヤオ。「私はロレーナという女医を演じましたが、耳を傾けられることが少ない女性の声、海外で働きフィリピンの経済を支えている人々、家族を支えている人々に気持ちを捧げたいという思いで、この役に臨みました」と強い思いを口にし、会場は温かい拍手に包まれた。

第31回東京国際映画祭は、11月3日まで開催される。
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