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2018.11.01 [イベントレポート]
「色々なことが集まって、作品を作る決め手になった」10/26(金):Q&A『 彼が愛したケーキ職人 』

彼が愛したケーキ職人

©2018 TIFF

 
10/26(金)、ワールド・フォーカス イスラエル映画の現在 2018『彼が愛したケーキ職人』上映後、プロデューサーのイタイ・タミールさんをお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
イタイ・タミールさん:本日皆さま、この作品を見に来てくださいまして本当にありがとうございます。残念ながら私は監督ではなくプロデューサーです。監督はとても忙しくて本日来ることができません。出来るかぎり彼の代わりとして、みなさんの質問に答えていきたいと思います。よろしくお願いします。
 
司会:実はイタイさんは通常フランスにお住まいで、監督ご自身もイスラエル出身ながらベルリンとエルサレムを行き来されているそうです。加えて監督はイスラエル・パレスチナ両家庭料理レシピ本を出版されているシェフだということで、(この作品の)インスピレーションがどこから来たのか、何かリアルなことに基づいた話なのか、そしてお二人の出会いを伺いたいと思います。
 
イタイ・タミールさん:まず私がどういう機会があってオフィルと出会ったかというところからお話します。私たちが今よりずっと若かった8年前に初めてオフィルと会いました。イスラエルで行われていた映画祭の時だったと思います。彼はとても恥ずかし気な感じで「私の書いた脚本を読んでくれないか」と私の所に来ました。3か月くらい経ったある夜に電話がかかってきました。「読んだか?」と聞かれ、私は「もちろん読んだし、面白かった」と答えました。
次にインスピレーションについてです。実際に彼はシェフであり、食べ物に関してとても熱意を持った方で、本も出版していますし、今でも料理を教えています。
実はとても個人的な話なのですが、ここにきていただいたみなさんにも共有したいと思います。オフィルが学生だった頃、ショートフィルムなどを作っていた時に彼はイタリア人の男性に出会いました。彼との間に特別な気持ちが通い、このイタリア人の男性がトスカーナにある自分の家に来ないかと誘ってくれました。そしてトスカーナの家を訪ねて行くと、そこに女性がいるのを見て彼はその男性のことを忘れようと思っていたら、2~3年経った頃、その女性が二人の間で交わされた手紙かEメールかを発見して彼の所に訪ねてきて、そしてその男性が亡くなったということを伝えてくれた、という出来事が実際にありました。
 
 
※※※以下、ラストシーンを含めた内容についての言及があります。お読みの際はご注意ください。※※※
 
 
Q:最後、なぜ声を掛けないで、そのまま行き過ぎるのを見ていたのか疑問でした
 
イタイ・タミールさん:そのときは声を掛けませんでした。でも、もしかしたら声を掛けるか、連絡をするかもしれません。どういう風に感じられましたか?
 
Q:彼女は最後に空を眺めることで、ご主人が愛した人と、そしてこのドイツの空を眺めながら想いを馳せるというかなと思いました。
 
イタイ・タミールさん:愛が何なのかなってことを彼女はもしかしたらそのときに理解されたんではないかな、という風に私は感じました。
 
Q:彼のお母さまが、オーバスが来たときに色々話されてるときに、何か彼女は二人の関係を知ってるんじゃないかな、ってすごく思ったんですけど、その辺の描き方はどういう風にされたんでしょうか?
 
イタイ・タミールさん:私もそういう風に思いました。おそらく彼女は唯一自分の息子のことをよく理解していたんではないでしょうか。
 
Q:食べ物の好き嫌いと人の好き嫌いは関係あると思いますでしょうか?
 
イタイ・タミールさん:ちょっと考えさせてください。答えは一週間後(笑)。食べ物っていうのは何かこうオーガニック系のそういうものですか?
 
関係があると私も思います。あとパン生地を練ってるところのシーンがあったんですけれども、映画の中でのこのパンの生地を練る、生地そのものはすごく意味があるものなんですね。トーマスは生地を練ってるときって本当に心情というか心のようになっています。彼女はやっぱり上手く生地が練れない…最初の頃ですね。上手く生地がまとめられないっていう状況でした。最後に上手く出来るようになりました。そしてそれが成功したんですよね。
 
Q:監督はシェフで、設定がベーカリーなのでクッキングするときやパン焼いているシーンにはこだわりはありましたか?
 
イタイ・タミールさん:もちろんです。すごくやはりこだわりがある方で、すべてに関してやはり細かく、頭の中でもすべてわかってらっしゃいますし、細かくそれを書き留められたということもありますし、トーマス、それからチームの方、2か月ベーカリーのほうで修業されて、学んできちんと手の動かし方、こね方や切り方をきちんとマスターして演技に臨んだということになる。
実際に本の中にこういうレシピ、ケーキももちろんですがお母さんの作る食事も含めてこの中に全部出版された本の中にレシピが載っています。今、残念ながらこの本はドイツ語版しかありませんけれども、これは何とかしようと、他の言語で出版できるように今頑張っています。
 
Q:プロデューサーは監督から脚本をいただいたときに、何に魅せられてこれを映画化しようと決めたのでしょうか。
 
イタイ・タミールさん:一つの何か要素が決め手というわけではなくて、これは色々なものが組み合わさって作品を作りたいという私の決意に至りました。これは脚本もそうですし、監督もその中ですし、それは人生においてすべてそういうことだと思うんですね。色々なことが集まってそれが最終的に決め手になるということです。実際に会った後、14くらい別のバージョンを書きました。
 
Q:劇中にもユダヤ教の原理主義とは行かないまでも、その教義にすごくこだわっているお兄さんが登場していますように、やはりユダヤ教の教えの中でもゲイといった問題はタブー視されていますか。ゲイ、同性愛の表現を映画で取り上げていますが、イスラエルの映画界における同性愛表現についての現状をお教えください。
 
イタイ・タミールさん:様々な質問が1つの質問の中に入っていたと思いますが。まず、宗教のことがこのストーリーの中に出てきたことは、同性愛に対して批判をするということで、お兄さんとかを登場させた訳ではありません。やはり映画の中で主張したいと思っていることを更に宗教というものを1つ加えることにより、もう少し幅広い見方、また映画そのものの幅を持たせるということがありましたから、決して批判するために宗教という要素をこの中に入れた訳ではありません。
2つ目、映画の中に描かれている同性愛のことに関してのコメントです。イスラエルはとてもオープンな国です。毎月のようにパレードが行われてますし、自分を解放する、あるいは自由な気持ちでいるというところにおきましては、テルアビブというその場所は自由な都市です。1つこの映画の中で難しかったことは資金の調達というところです。ドイツの方からそういった意味で支援が得られるということはわかっていました。資金調達の申請を私たちのプロデューサーの1名が行いました。同性愛なのだけれども、女性のものは駄目だといわれました。
 
司会:女性とゲイの男性と女性とがいけないということですか。
 
イタイ・タミールさん:あり得ないということですね。嘘っぽいと言われました。
結局はドイツの方の資金を受けることなく、製作することになりました。
 
司会:逆に深い方の理由でファンドが下りなかったのですね。イスラエルはLGBTの名作というか、作品が多いので機会があったらいろいろとご覧になっていただきたいと思います。
 
Q:お兄さんのようにイスラエルではいまだにドイツ人に対する差別というか、憎悪とか、レストランで資格がなくなってしまったりということがあるのでしょうか。
 
イタイ・タミールさん:お兄さんが「なんでドイツ人なんだ」という台詞を彼女に向けて言いますよね、歴史にホロコーストという悲しいことがあります、そういう歴史があったということをまだ私たちは忘れないでいるということもあります。でも別にベルリンに住んでいるのはフィルだけではありません。テルアビブだけでなくて、いまたくさんの方がイスラエルからいらして、ドイツに住んでいる方はひとりではなく、たくさんいます。それほど深刻に過去の歴史を常に、頭のなかで固執しているということではないが、やはりそれは歴史にあったこと、ということで頭のなかにはあるということなんでしょうかね。

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