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2018.10.30 [イベントレポート]
「この作品に出演後、チョウ・ユンファさんが俳優引退を撤回しました」 10/26(金):Q&A『 プロジェクト・グーテンベルク 』

プロジェクト・グーテンベルク

©2018 TIFF

 
10/26(金)、ワールド・フォーカス『プロジェクト・グーテンベルク』上映後、フェリックス・チョン監督をお迎えし、Q&A が行われました。
⇒作品詳細
 
フェリックス・チョン監督(以下:監督):この映画を日本で上映して皆さんに観ていただけたことを嬉しく思います。幼いころから横溝正史さん、松本清張さんといった日本の推理小説に非常に大きな影響を受けていました。今回作品を観てもらえれば、これまで日本の推理小説にどんな影響を受けてきたかをご覧いただけると思います。
 
コトブキツカサ(司会):監督もやりつつ脚本家としてのキャリアを積んできたうえで、今作では監督と脚本の両方を担当していらっしゃいますが、それぞれ心持ちは違いますか?
 
監督:もちろん毎回違いますけれども、まず作品を作るときにたくさんの自分と会話をするんですね。これまでの人生の中で、本当にたくさんの自分と向き合い生きてきたと思うんです。それはおそらく皆さんも同じで、たくさんの自分と一緒に生活していると思います。例えばインスタグラムであったり、あるいはフェイスブックであったり、そういう自分と実際に今いる自分と、それぞれが違う自分だと思います。それが、いろんな自分と生活をしているということだと思っています。
 
コトブキツカサ:非常に心に残る台詞が多くありましたが、あらかじめ用意していたものでしょうか。それとも書いているうちに湧き出てくるものなんでしょうか?
 
監督:自分の脚本の書き方というのは、あらかじめいろんなものを組み上げて作るのではなくて、まず人物を設定する、それから事件を考える、その事件の中に人物を組み込んでいく、という書き方をしています。その中で人物が自然とどういう台詞を喋るかっていうのを、自分に教えてくれます。
最近、村上春樹さんのインタビューを読みましたが、自分と同じやり方でやっているとおっしゃっていました。
 
Q:ラストシーンについて。
 
監督:もちろん脚本は自分が書いているんですけれども、キャラクターが自分でどういう風に動いていくっていうことがあるのです。もう一つ、自分としては、人生には8割9割は楽しくない嬉しくないことが起こるものだ、と思っているのですね。自分の周りにも、不幸に見舞われた友達もいるので、影響があったかもしれません。他の終わり方というのは考えていなかったです。
 
Q:チョウ・ユンファやアーロン・クォックを、念頭に置いて物語を書かれたんですか?
 
監督:これは2008年に書いた脚本で、そのときは考えていませんでした。
最初書いたときはチョウ・ユンファっぽい役柄を他の人に演じさせようと思っていたんです。アーロン・クォックさんがレイ役を引き受けてくれて、脚本読んだ時に「どうしてユンファさんにオファーをしないの?」と言われたんです。ユンファさんは沢山の作品に出るような方ではないので「どうやって連絡したらいいかわからない」と言ったところ、アーロンさんが連絡をしてくれました。そして、チョウ・ユンファさんに脚本を読んでもらったら、逆に「この役、誰にやらせるつもりだったの?」と言われてしまいました。
 
コトブキツカサ:「俺しかいないだろ」ってことですよね(笑)
 
監督:皆さんにはよい知らせなのですが、半ば引退状態だったチョウ・ユンファさんが、この作品に出た後、引退を撤回しました。今後も映画に出演するということなりました。
 
コトブキツカサ:これは監督のおかげです!
 
監督:確かにそうかもしれないですね。ユンファさんは62歳になりますが、この映画(のアクションシーン)で吹き替えを使ったのは1か所だけです。あるシーンで転ぶところです。
 
Q:先ほどキャラクターが自分で動いていく、とおっしゃっていましたが、キャラクターの動きを最終的にジャッジするのは監督ですか、キャラクターですか
 
監督:キャラクターは最終的に何も言ってはくれないんですけども、でも、見せてくれるんです。こういうエンディングだったらこうなる、こういうエンディングだったらこうなる、といくつも見せてもらって、その中から自分が一番感動した結果を使います。
これは大学の時に先生が教えてくれたやりかたで、メソッドライティングと言います。
 
Q:ホー刑事はこの映画の中ではどういう役割になっているのでしょうか?
 
監督:ホー刑事は重要な役です。彼女は起こっていない自分の恋愛―疑似恋愛―に対して一生を捧げる、その男性を愛し続けるという選択をした女性です。これと対比的なのがアーロン・クォックと女性が演じた恋愛で、あの二人にはいろんなことが起こってしまいました。起こったけれども、実際あの二人には愛は無かった。これは香港に居たときに学んだ道徳観念から取ってます。
中国の内地とか香港のファンの方々の間では結構議論されているんですが、一人を愛しているけれども、その人とは何も起こらないという。自分にもそういうことがありました。
 
コトブキツカサ:監督の実体験が投影されているんですか?
 
監督:どんな作家も、自分の作品に対して正直に作っていれば、必ず自分の人生で起こったこと、考え方が作品に投影されているはずです。
 
Q:主人公の背景の映像がはっきり映っていたりボケていたりしましたが、どのような意図でしょうか?
 
監督:この作品では、あくまでキャラクターの心情に沿った撮影方法を取っています。カメラマンが後ろを暗くして、そこにライトを当てるっていう撮り方をよくやりました。最終的にポストプロダクションのときに、心情に合わせて少し加工したというのはありますが、意図的にした部分だけではないです。
非常に悲しい話になりますが、昔、フィルムで撮っているときは、意図的にバックをぼかしたり、っていうことも効果的でしたが、今はもうデジタルになってしまったので、出来なくなりました。
 
コトブキツカサ:最後に監督から一言お願いします。
 
監督:この作品は、撮り終えてからすでに1年経っていますし、脚本自体は10年前に書いた作品なので、皆さんからの質問のおかげで、昔考えていたこととか、いろんなことが蘇って来ました。この作品を撮り終えたときから、随分変わったんだな、という風に感じました。
皆さん本日はありがとうございました。

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