©2018 TIFF
「通常の映画ファンとは違った方々が多く会場に来てくれた印象があります。これまではコアな映画ファンがメインだったのが、誰もが楽しめる状況をつくり出せたことで一般の方に浸透するきっかけになったとは思います」。東京国際映画祭の久松猛朗フェスティバル・ディレクター(FD)は、就任2年目の成果をこう講評する。
その原動力になったのは、特別企画「TIFFプラス」。メイン会場のTOHOシネマズ六本木ヒルズに隣接する六本木ヒルズアリーナでファッションショーやアニソンのコンサート、五輪種目の体験イベントなど他ジャンルとのコラボレーションによって、映画祭への興味を喚起したというのだ。
加えて、東京ミッドタウン日比谷前の日比谷ステップ広場が新会場となり、新旧の話題作を野外上映。「私も何度か足を運びましたがすごく込んでいて、『グレイテスト・ショーマン』の上映には1300人が集まったそうです。『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』も800人くらい。映画祭自体が広がっている感じがするので、日比谷はさらに拡大していきたいですね」という展望も明かした。
一方で本流である映画に関しては予算の削減もあり、上映本数は181本と前年比50本もの減少。メインのコンペティションは16本を維持したものの、その他の部門は軒並み削ることを余儀なくされた。だが、観客動員数は6万2125人と前年比マイナス1500人余に踏みとどまったのは評価できる。
「お客さんの熱は感じましたよ。今は本数で競わないのが世界的な流れになっていると思います。“グローカリズム”の傾向が強くなっているんです。グローバルにやることはできても、それでは規模の大小の違いだけになってカンヌやベネチアなど先行している大きな映画祭にはかなわない。特徴を出すためにその国ならではのことをやる、東京の持っている魅力を見つけて発信する必要はあると思います」
選出した作品に関して求めたのは、アートとエンタテインメントの調和。コンペの審査委員長を務めたブリランテ・メンドーサ監督はその2つの融合はできないとしたが、持論がある。
「アートを目指す人も商業的な成功を求めているし、エンタメを目指している人も賞は欲しいし褒めてもらいたいと思っている。映画はお客さんに見られて初めて成立するものなので、突き詰めれば同じなのではと思っています。例えばアカデミー賞作品賞など、映画史に残る作品はそのバランスが取れているものが多い。東京グランプリの『アマンダ(原題)』もそうだと思うので、その結果はリスペクトしたい」
一方でエンタテインメント色が強い特別招待作品に関しては物足りなさを感じた。特にオープニング作品「アリー スター誕生」に付随したゲストが来日せず、華やかさに欠けた感は否めない。これには忸怩(じくじ)たる思いを隠さない。
「ゲストありきで作品を選んでいるわけではありませんし(公開の)タイミングもありますが、当面はハリウッドのスターを呼ぶことが一義的にあるので対応、検討の余地はあります。むしろマーケットが大きく文化的、地理的にも近い中国、韓国などアジアとコラボしながら東京国際映画祭のプレゼンスを上げていくのもひとつの方向かもしれません」
就任時に「映画を観(み)る喜びの共有」「映画人たちの交流の促進」「映画の未来の開拓」という3つのビジョンを掲げ、今年は「その方向性を固めて定着させ、外に向けて発信した」という久松氏。映画祭として「ユニークでありたい」とし、来年に向けては「何かひとつ、テーマを掲げたい」と意欲を見せた。それが東京ならではの魅力として、確固たる核になることを願いたい。