Close
2018.11.01 [イベントレポート]
「児童虐待の苦痛を受けている多くの子供たちが一人でも救われてほしい」10/27(土):Q&A『ミス・ペク』

ミス・ペク

©2018 TIFF

 
10/27(土)、アジアの未来『ミス・ペク』上映後、イ・ジウォン監督をお迎えし、Q&A が行われました。
作品詳細
 
イ・ジウォン監督:今日お越しくださり、映画をご覧くださいまして、本当にありがとうございます。この映画が海外でこのように上映されて、その場に参加させていただくのは私も初めてのことです。このような光栄な場に呼んでいただき、とても感謝しています。
 
石坂PD(司会):この作品は韓国で公開されたばかりとお伺いしましたけれども、反応など今どうなっていますか。
 
イ・ジウォン監督:韓国では公開されて2、3週ほど経ちました。この映画は低予算映画だということで、映画館の確保が厳しかったです。それで、観客の方々に最初はあまり知られていなかったんですけれども、口コミによってどんどん知られるようになっていきまして、最近では興行的にもとてもいい状況にあります。
また、主演を務めたハン・ジミンさんは、批評家連盟が主催する映画祭で主演女優賞を受賞されましたし、ロンドンの映画祭でも主演女優賞を受賞されました。そのようなニュースが伝わって、今、口コミでどんどん広まっている状況にあります。
 
Q:タイトルの発想は?
 
イ・ジウォン監督:最近ではあまりそういう呼び方はされなくなったんですけれども、韓国では数年前までは女性を卑下する呼び方として、ミス・キムとか、ミス・ペクとか、名字にミスをつける呼び方が多くされていました。このサンアという人物は前科があることで、ちゃんとした仕事につけず、肉体労働で生計を立てています。彼女は仕事場でもフルネームではなくミス・ペクという名前で呼ばれることによって、その呼び方の後ろに隠れた生き方をしてきたとも言えます。
最初に子供と会ったときには、彼女も心をすべて開いている状況ではなかったので、子供に聞かれたときに、「ミス・ペクと呼びなさい」と言うわけです。それによって、その子供とサンアとの間に、ミス・ペクと呼ばれれば、子供のところに駆け寄っていくという関係性が生まれていきます。子供からはミス・ペクという言葉を彼女に呼びかけることによって、ずっと彼女のそばから離れない関係性も生まれてくるわけです。呼ばれれば、自分の元に駆け付けるといった、魔法の呪文のような力も持つ「ミス・ペク」という名前が繰り返し子供から言われます。そのような二つの意味を込めて、このタイトルを決めました。
 
Q:いろいろな社会問題がある中で、監督がこの題材を選ばれた理由、児童虐待を映画で表現されようとした理由と目的について?
 
イ・ジウォン監督:最初に、韓国で児童虐待のニュースが伝えられるたびに、私はどちらかというと無関心で、目を背けていた時期がありました。ですが、この映画のストーリーを書くきっかけになったのは、引っ越しする前に私が住んでいたアパート団地の隣に住んでいた子供です。毎晩苦痛で呻いているような音が聞こえてきたんですが、たまたま泣いているその子供とアパートの廊下ですれ違ったことがあります。そのときに、その子供が無言でしたが、眼差しで「助けてください」と語りかけてくるように感じたんですが、私はそれを無視して通り過ぎてしまいました。それ以来、ずっと自責の念に駆られて過ごしてきました。そのことがストーリーを描き始めるきっかけとなりました。
シナリオを描き始めたころには、その子供は別の場所に引っ越してしまった後だったのですが、彼女以外にも、今でも児童虐待の苦痛を受けている多くの子供たちが一人でも救われてほしいという願いを込めて、このストーリーを書きました。
エンディングのシーンで、二人がどういうところに向かっていくのかは、観客の皆さんの想像、考えにゆだねたいと思って、あのような結末にしました。
 
Q:そちらのポスターにあるように、彼女が受けた傷が、見せたり見せなかったりしていることに意図はあるんでしょうか?
 
イ・ジウォン監督:ポスターは私が制作したものではないので(笑)。これは象徴的な意味合いが込められたポスターではないかと思います。サンアという人物は、ずっとその傷を受けた人生を歩んでいます。彼女は一貫して傷を負っているという人物でもありますので、ポスターでもそのように表現されているのではないかと思います。
彼女の傷が際立たないアングルの撮り方をしているのは意図的なものです。私が意図しようとしたものが観客の皆さんに逆に伝わりにくくなってしまうのではないかと思いまして、あまりわからないようにして撮っています。
 
Q:キャスティングについて?
 
イ・ジウォン監督:この質問にお答えする前にちょっとひとつ気になったことがあるんですけれども、日本での主演のハン・ジミンさんの認知度というのはどれくらいのものでしょうか。みなさんご存じでないということですか?
 
石坂PD:いえいえ、知っている人は多いと思いますよ。
 
イ・ジウォン監督;まずハン・ジミンさんについてお話しますと、韓国では本当に清純派の女優として知られていまして、落ち着いた雰囲気の清楚なイメージです。それがとても根強く認識されていて、この映画が公開されて韓国の観客もとてもショックを受けた状態にあります。
最初に彼女のキャスティングを念頭に置いていたというよりも、偶然プライベートで彼女にお会いしたことがきっかけにありました。私自身も彼女に対しては清純なイメージを持っていて、実際の彼女の普段の姿に触れて、実はとてもショックを受けたんですね。みんなが思っている清楚で清純でというイメージよりも、普段の彼女はとてもエネルギッシュでカリスマ性があり、そして自分の内なるエネルギーをすごく外に発散させようとする、そんなエネルギーのある女優さんだと感じました。なので、彼女のそういった面を引き出して、この映画と組み合わせていけば、とても面白いんじゃないかなと考えました。
そのあと直接渡したわけではなかったのですが、どこからかハン・ジミンさんがこのシナリオを入手して読まれて、ぜひこの役をやらせてほしいと先にお話をいただいたんです。彼女とお話ししてみたところ、児童虐待の問題についても日ごろからとても関心を抱いていましたし、そして自身が持たれているイメージから抜け出したいという意欲を強く持っていらしたので、この役にと決めました。
次に、子役のキム・シアさんはこの映画に出演する前はどこにも顔を出したことがない、まったくの新人でした。600倍のオーディションを勝ち抜いて、この映画でデビューをしました。この映画で彼女が演じている役は韓国で実際に起こった児童虐待の事件をモデルにしています。観客の方々がこの映画を観たときに「これはフィクションではなく実際に起きていることなんだ」と感じてもらえるように、これまで見たことのない子役を使って、この映画を観客の目に触れてほしいという思いがありました。そして、セリフ以上に彼女の眼差しでいろんな感情が伝わっていけばという気持ちがあったんです。まさにそういった表情を持った女優さんだと思ってキャスティングをしました。

オフィシャルパートナー