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2018.10.31 [イベントレポート]
デンマーク監督が苛烈な貧困を容赦なく描く J・クリステンセン主演『氷の季節』TIFFで上映
映画コムニュース
©2018 TIFF
映画.com

第31回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された『氷の季節』が10月31日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、メガホンをとったマイケル・ノアー監督、プロデューサーのルネ・エズラ、マティルダ・アッぺリンが会見を行った。

『007 スペクター』『ヒトラーに屈しなかった国王』で知られる名優イェスパー・クリステンセンが主演を飾る本作。19世紀デンマークの農村地に暮らし、厳しい自然環境の下で貧困にあえぐ農民イェンスは、ある耐え難い選択を迫られる。一家が過酷な冬を越すためには、近所の裕福な農家との取引に応じるしかない。しかしその選択は、家族のより良い暮らしと引き換えに、自身のモラルと最も大切な存在の犠牲を意味していた。

これまで、厳格なリアリズムで社会を容赦なく描いてきたノアー監督。「主人公の生きるための選択が生々しく描かれていたが、この映画を通して伝えたいメッセージは?」という質問に、「私自身が父親でもあり、息子でもあることが作品の土台にあります。生命の木のように人生が代々つながっていくことには、責任が伴います」と、真摯な眼差しで語る。「私も自分の子どものためなら何でもできますが、それは子どものためであると同時に、自分のためでもある。そうした葛藤が、飢えの問題が深刻な19世紀という時代設定で、より強調されています」と解説した。

物語にはデンマークの習慣が随所にちりばめられており、子どもの遺体を窓から出す描写について問われたノア―監督は、「亡霊に扉を知られて家の中に現れないようにする、という意図があります」と説明。また、劇中に登場する掛け時計について、「農場にいる人たちにとって、時間とは抽象的なものなんです。イェンスの世界では、日が昇ったら起きて、暗くなったら寝る。時計が別世界のものであることを描いています」と、アイテムに込めたメッセージを明かした。

後代の書物に頼らない独自のリサーチにこだわったというノア―監督は、当時の歌から発見したという「ハートがいっぱいでも、おなかが空っぽだったら意味がない」という言葉を紹介。さらに「(物語でもテーマになっている)策略結婚が多く、例えば2頭の牛と娘を交換したり、土地と息子を交換したり……そのような契約が結ばれていたようです」と、苛烈な貧困の状況を紐解いた。

第31回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。
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