10/26(金)、コンペティション『翳りゆく父』上映後、ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督、プロデューサーのロドリゴ・サルティ・ウェルトへインさんをお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:このプロジェクトは、実は8年前から始まりました。私自身ホラー映画の大ファンなのですが、ただクリエイターとしては自分が好きな映画を模倣はしません。大体いつも登場人物達が、私に何をしてほしいかを教えてくれるのです。そのキャラクター達の中にある恐怖といったもの、あるいは誰かを失うことに対する恐れ、そういったものがグレードされてくることが多いんです。そういうところでホラーと家族の映画というものが重なってきたんだと思います。
新谷里映(司会):ロドリゴさんはどの時点でこの作品の企画に携わったのかということと、プロデューサーとしてもっともっと完全なホラー映画にしたほうがいいよとか、開発するにあたってプロデューサーたちの側からどのようなディスカッションを監督とされたのか教えてください。
ロドリゴ・サルティ・ウェルトへイン プロデューサー:私が制作会社持っているんですけれども、12年くらい経っているんですね。そのうち10年をガブリエラと一緒にやっています。そして、彼女のショートフィルム6本を一緒に制作してきたのですが、ある日ガブリエラが「もう長編を作る時期に来たんじゃないかしら」と言ったんです。「ストーリーが今、私はあるんだけれどもこれ長編になりそうな気がする」と言いました。そしてスクリプト、いわゆる脚本を見たんですけれども、非常にナチュラルな形で出来ていて、今までの彼女の作品の延長にあるような気がしたんです。ガブリエラの書くものというものは、奇妙なドラマであり、ホラーとしてもちょっと危なっかしいところがある感じなのですけれど、いつも人間の感情であり人間のドラマが描かれているんです。なので、脚本の段階ではもっとホラー入れようとかもっとドラマにしたほうがいいんじゃないかという話はしていませんでした。ただ「その人間の感情みたいなものが欲しいね」と言うことを話しているんですが、「撮影して、演技して練習中にもうちょっとホラーを入れようか」とか、「もうちょっとドラマを入れようか」と言うような話をします。
Q:ダルヴァ役の子役の女の子を選ぶにあたって?
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:私がキャスティングをさせていただきましたけども、撮影の前から、キャストの方々と1か月毎日リハーサルをしていました。脚本の内容通りと言うことではなく、一番いいところは後に残しておきましたが…
感情の状態と言うものを、身体を使って、毎日リハーサルします。
毎日リハーサルすることによって現場でセットが組まれたときに現場に行って色んな機械やカメラがあっても怖気づいてしまわないように準備させていました。
ダルヴァは早く育たなければならなかった子供でした。
それが、ブラジルの実際それがリアリティーであり、現実ですけども貧しい階層の人々の間では一人で、自分で自分を育てなければならない子供がたくさんいます。7、8歳の子供が赤ん坊や兄弟のお世話をしていることがかなりあります。
お母さんやお父さんに仕事がなかったり、親がいないということが、悲しい現実なんですが、存在します。私たちはダルヴァについて、怖いと思うようなことはあって欲しくなかったし、同情して欲しくなかったんです。というのも彼女はとても強い子なんです。お父さんのジョルジですが、愛することも知らないし、抱きしめることも知らない、自分の感情を表現することも知らない人なんです。そういう人に育てられたので、ダルヴァは抵抗していく強さがある人だという風に思っています。
新谷里映:実際子役の女の子は、これはただの空想上のストーリーではなく自分達の生活の延長上のドラマだということは信じて、理解して、演じられていらっしゃったのでしょうか。
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:もちろんそうです。私は子役の人と一緒に仕事するときに、必ず脚本を書き直して、子供の絵本のようなものを作ります。そうすることで、大人がやっていることにただ参加して操作されるのではなくて、お遊戯であると。お遊戯って子供っぽいものですよね。なので、一緒に子供たちは自分のものであると。キャラクターを自分のものにして欲しいし、それからセットの中に自分の居場所を見つけてほしいと思っています。
新谷里映:劇中のホラー映画には娘がお母さんを殺しているシーンがあったりとか、物語に結構関係のあるホラー映画を観ているわけですけれど、実際にはあの少女はホラー映画を観たのでしょうか。
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:観てません(笑)。
観せませんでした。ホラー映画というのはほとんどの場合、ほとんどの部分で悪くひどいですよね。浅くなければならないというところがあると思うんですが、そういうジャンルなんですが、私は俳優さんたちに「これはホラー映画です」とか「あなたは犠牲者です」「あなたは悪役です」と言わずにあなたは「こういう人をやるんです」とか「こういう人についての映画です」と言うんですね。
そうではないと、悪役とか犠牲者ということを言ってしまうと、偏見を与えると言うこともありますし、キャラクターによって白黒はっきりとしたイメージをつけてしまうと思いましたので、そういうことを言わないようにしています。
例えば、ダルヴァをやった女の子は、とても小さくて8歳だったんです。怖い感じを出してもらうのに、8歳なのであの映画を観せられないので、セットに怖い音を出したんですね。ヒューとかという音もありましたけども、ああいう音をだして、楽しい雰囲気だけど、怖い感じを楽しもうと。彼女にも「お化け屋敷で幽霊屋敷で怖がっている感じの雰囲気で遊びながらやりましょう」と伝え、怖がっているのを引き出しました。
Q:劇中に成人の日が出てくるのですが、その意味を知りたいです。そしてもう一つが、ダルヴァの家族の中で白魔術とか、黒魔術とかが使われていますが、それはブラジルの中ではよく行われることなのでしょうか。
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:私は、スティーヴン・キングの大ファンで彼の映画をいろいろ勉強しました。ペット・セメタリーもその一つなのですが、それを聞いて、こうやって質問いただけて嬉しいです。
ブラジルですが、何でもありなんです。アフリカンのものもあれば、教会も行くし、do it yourselfというか、自分でやる黒魔術、自分でやる白魔術もあります。ほとんどノーマルと言っていいと思うんです。特に私がいた街では、本当に朝ご飯を食べるくらい普通のことです。いろんな事をやって、全然境界がないんです。ということで毎日毎日マジックが行われるんです。そういう意味で、とてもブラジル的な雰囲気なのかもしれません。
そして成人の日には子供が大人の格好をします。子供がすごく大喜びするのですが、女の子だったら口紅をつけたり、つけまつ毛をつけたりして、大人のふりをします。非常に奇妙といえば奇妙なのですが、パーティーをして子供たちがすごく楽しんでいます。なぜそれを選んだかといいますと、ダルヴァは家族の中で大人にならなければいけなかったのです。それと子供が大人の格好をするということで共鳴するかなというところでこのお祭りを選びました。
Q:ホラーには見えなかったので、なぜホラーと呼ぶのか非常に興味があります。
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:私はこのホラーというジャンルが大好きなので、それを無視したくはないんです。どんなジャンルでもホラーでも、キャラクターがやっぱり主役である、キャラクターが中心にあるというのことは同じだと思うのです。私はゾンビとかホラーの型というのがあって、それを破ったかもしれないですけれど、ホラーっぽいものってそこにあるんです。脚本を書き始めるときにはホラーの型を破ってやろうと思って書き始めるのではないのですが…。私は子供のことからホラーが大好きだったので、この映画に出てくるホラーを一生懸命見ている子供は、私自身なのです。そういう意味で私が好きなもの、好きなジャンルを書いていきたいと思っているので、ホラー映画と呼んでいます。
韓国のポン・ジュノ監督の『グエムル -漢江の怪物-』、あの作品では、あるシーンでは笑って、あるシーンでは怖がっているんです。これはモンスターに怪物にとられた家族の一員を取り戻そうとする話なのですが、ジャンルでいうとモンスター映画なります。でも中心にあるのはキャラクターの心なのです。ホラーにしろ、モンスターにしろ、それはドラマのボリュームを最大にするための仕掛けだと考えています。
新谷里映:監督、やはりこれからも同じ路線というか、このホラー的な要素とドラマ的な要素を一緒にしたものを作っていくのでしょうか?
ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督:はい。私は、やっぱり自分の観方を変えたくないと思っているんです。人間は恐れているとき、お互い人間同士つながるものがある、共通項があると思うんです。キャラクターを見るときに、やはりホラー、あるいは恐れといったことから見ていきたいと思っています。
新谷里映:将来の作品ぜひ楽しみにしたいと思います。最後に、ロドリゴさんにあまりお話聞くことできなかったのですが、一言いただいてもよろしいでしょうか。
ロドリゴ・サルティ・ウェルトヘイン プロデューサー:このように皆様との対話の機会を得られて本当にありがたいと思っています。私たちは長い間このキャラクター達、登場人たちを通して見ていました。彼らの目を通して、人生とは何なのか、人生はどうありうるのかということを考えてきたので、こういった機会に皆様のそれに対する意見・感想を聞けるのはうれしいですし、非常に光栄に思います。そして、こういう仕事をやってきてよかったなと思います。まだまだいろんなプロジェクトがありますので、これからどんどん作っていきたいと思います。この作品には8年かかりましたが、今のようなこういう対話の瞬間を得られると本当にやってきたかいがあるなと思います。