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故高畑勲監督を特集する「高畑勲監督特別上映会」が10月29日、第31回東京国際映画祭で開催され、長編アニメ『かぐや姫の物語』が上映された。上映後のトークショーには、西村義明氏(スタジオポノック代表取締役/プロデューサー)、百瀬義行(演出家/アニメーション監督)、イラン・グェン氏(東京藝術大学特任准教授)が出席し、日本アニメーション界の巨匠との思い出を語り合った。
スタジオジブリ出身で、『かぐや姫の物語』のプロデューサーを務めた西村氏は、開口一番「今日ね、高畑さんの誕生日なんですよ。皆さん信じられないですよね、今年亡くなったんですよね。生きていたら83歳になるんです。そういう特別な日に、こういう場に立てることは光栄です」と率直な思いを告白。ジブリ在籍時、高畑監督と仕事をすることが多かった西村氏。巨匠との最初の仕事を「高畑勲監督は、とても恐ろしい監督であるということが、ジブリでは常識のように語られていたわけです。僕は24、5歳の時にジブリに入ったのですが、「高畑さんと話せるのは、ジブリでも一握りの人間なんだ」と。そんななか高畑さんの担当について、1本の作品『王と鳥』を一緒に宣伝することになった。それが出会いでした」と振り返る。
一方、『火垂るの墓』『ホーホケキョとなりの山田くん』などに参加し、高畑監督の右腕として活躍した百瀬は、司会のグェン氏の「高畑さんは、作品ごとに新しいことをやろうとして、成立するのかしないのか分からないことを、次々成し遂げていかれました。そのなかでも『かぐや姫の物語』は集大成的な作品ですが。百瀬さんから見て、いかがですか?」という問いに対し、「高畑さんが東映動画で作られた最初の長編『太陽の王子 ホルスの大冒険』から、そういうことに気を使って作っていた」と深くうなずく。『太陽の王子 ホルスの大冒険』や『かぐや姫の物語』を例に挙げながら、高畑監督が取り入れた技術は「後に一般化していく」と説明した。
高畑監督が製作期間8年を費やした「かぐや姫の物語」。西村氏は「高畑さんは「自分は作家ではない」としきりにおっしゃっていたことがありました。でも作家の定義って、なかなか難しいもので。高畑勲という監督は「今、現在自分が考えていること」を必ず作品に投影してくるし、「この映画が現代に存在するとしたら、どういう意味を持ちうるのか」ということに関して、冷静に世の中を見ながら作っていましたね」と明かし、「『かぐや姫』の時は、最初は「女性とは何か」ということを深く考えようとされていました」と述懐した。
イベント終盤、グェン氏は「これまで作り手としての高畑さんの話をしましたが、最後に、個人としての高畑さんを語るならば?」と切り出す。百瀬は「ちょっと、一言では難しいですね」と悩み、「次が見たかったですね。『ホーホケキョとなりの山田くん』の時に『かぐや姫』のスタイルに割と近いものを作りましたよね。そして『かぐや姫』があって。さらにもうひとつあると、もっと……」と言葉を詰まらせながら、新作を熱望した。
西村氏は「自分にとっての高畑勲監督は、おこがましいですが、そう言わなくはならないという意味を込めて、監督とプロデューサーというパートナーとして並走しました」と真っすぐな眼差(まなざ)しで語る。そして、「一方で作品を離れた時に、やはりすごく恩義を感じてしまって。あの方が僕をプロデューサーにした。あの方がいなかったら、世界の見え方が違っていた。あの方と会った後に見る映画、あの方と会った後に見る絵画はすべて違って見える。そのくらい、自分のなかに糧として残してくれた方」と感謝を述べた。
第31回東京国際映画祭は、11月3日まで六本木ヒルズ、東京ミッドタウン日比谷などで開催。