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イスラエルとパレスチナの緊張関係をコメディタッチで描いた映画『テルアビブ・オン・ファイア』が10月29日、第31回東京国際映画祭のコンペティション部門で公式上映され、監督・脚本のサメフ・ゾアビ、出演のヤニブ・ビトンが記者会見に出席した。
主人公は、エルサレムに暮らしながら人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のアシスタントとして働く、パレスチナ人の青年サラム。撮影所に行くために毎日通るイスラエル検問所で主任を務めるアッシと知り合う。ドラマの大ファンである妻に自慢するため、アッシは独自の脚本案を持ちかけ、サラムはそれをもとに正脚本家に出世する。第三次中東戦争時を舞台にした同ドラマは大人気となるが、サラムはさまざまな状況に板挟みになり、意外な結末へと突き進んでいく。
サラムの奮闘などをメタファーに、両国のシリアスな状況を寓話的に紡いだゾアビ監督。自身の背景を「テルアビブに住むパレスチナ人」と説明したうえで、今作成立の経緯を「アラブ社会とは少し隔離されていて、毎日のようにイスラエル人と共存しなくてはならず、闘争を日常的に感じている。そうした僕の状況から、サラムが生まれた。そしてアーティストとして、パレスチナ問題をいかに違った視点の物語でできるか、自分自身の声をどう表現したらいいか模索していました。今作はコメディですが、ジョークは二の次。コメディが成立しているシチュエーションを理解してほしい」と語りかけた。
そしてビトンは、高圧的に自身のスクリプトを押し通そうとするイスラエル人・アッシを、魅力たっぷりに好演。自身は「テルアビブに住むイスラエル人」で、出演にあたって「まず驚いたのが、コメディだったこと。おそらくこの問題を本格的なコメディで描いた映画は他にない。実際の状況は笑えないから」と振り返りながら、脚本からは強い共感を得たことを明かす。本映画祭ではすでに観客向けに上映されたが、「遠く東京の方々は、どれだけこの問題をわかってくれるか心配でしたが、みんな非常に笑ってくれた。やはり、コメディは世界中で受ける」と大喜びだった。
またゾアビ監督は、コメディとして描くことで、両国の問題をまた違った角度から広く伝えることができると示唆。今作に込めたメッセージについて「占領は実際に行われていることです。パレスチナ人は今も国も市民権も持たず、若い世代には将来もない。とても深刻な問題です。ただ僕は、この映画のなかで実際の軍事的占領を描くのではなく、“精神的な占領”を描きたかった」と切り出し、「劇中のアッシが強固に「(メロドラマの対立する国家間のキャラを)結婚させろ」と要求するのは、結婚式はオスロ合意を象徴しているから。非現実的な要求を、イスラエルの彼は押し付けようとする。精神的占領は両国が持っていて、検問所で日々感じていることなんです。コメディは悲劇を扱うのに適していると言われます。願わくば答えよりも、より多くの“質問”や“疑問”を提起したい。疑問は多ければ多いほど良く、みんなに考えてほしいんです」と願いを込めていた。
第31回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。