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城西国際大学メディア学部生が卒業制作として撮影した『海抜』が10月27日、第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門でワールドプレミア上映され、監督・脚本の高橋賢成をはじめ製作の田村太一、出演の阿部倫士、佐藤有紗、三森晟十朗がTOHOシネマズ六本木ヒルズでのティーチインに出席した。
高校時代に、中学校の同級生が暴行されるのを目の当たりにしながら何もできなかった男が、苦悩を抱えながら生きる12年間を描いた。30人のスタッフおよびメインキャストは撮影当時、全員大学生。仄暗い印象的なルックで、性暴行における苦しみと葛藤に焦点を当てた22歳・高橋監督は、ほぼ満席の会場を見渡し「嬉しいです」とほほ笑む。製作の田村は「お客さんの反応を見ながら、一緒に映画を見ていました」といい、「僕たちが「大丈夫か?」「うまくいってるか?」と不安なところも、集中して見てくれていることがありがたかった」と、初上映の喜びを噛み締めた。
企画当初は全く異なる物語だったという。高橋監督は「もっと娯楽に近いスリラーだった。10数年前に性暴行を受けた女性が、男たちに復しゅうするというもの」と前置きしたうえで、「(リサーチのため)本を読んだり、いろんなことを聞いていくなかで、性暴行をスリラーとして、ヴィランとして描きたくない、これ以上進めないと思った。3カ月以上練っていたものを白紙にしました」と真摯に明かし、方向転換したことを説明した。そして、込められたメッセージを「互いの、互いへの無関心。広いところに目を向けると、今この瞬間もどこかで起きているかもしれないことに、我々は常に無関心だと言いたかった」と強く訴えかけていた。
高橋監督と田村はすでに卒業しているが、キャスト3人は現役の同大生。学部で俳優を専攻する阿部は、坊主頭&ヒゲ面の主人公・浩役を演じるにあたり「撮影の3週間前に「5キロ痩せろ」と言われた。無茶苦茶。親が一番心配していました。家に帰ってくると急に坊主頭でヒゲ面だし、ごはんは食べないし(笑)」と語る。女優専攻の佐藤は、強かんされる女子役を振り返り「暴行されるシーンは鮮明に覚えていて。近くの海や、雨を吸った畳の湿気の匂い。つくられた物語だとしても、やはり……」と言葉にならない苦しみが渦巻く胸中を明かした。さらに声優専攻の三森は、「あくまで自分は「声で」ということだったんですが、台本には「(三森扮する)怪物のような男が襲う」と書いてあった(笑)。インパクトのあるシーンに使っていただいた」と冗談交じりにクレームをつけていた。
最後に「次回作は?」と質問を受けた高橋監督。「新人でいられるのは2作目まで。次は「これが高橋賢成だ!」という、どエンタテインメントな作品を」と威勢よく言い放ち、「来年はコンペに! ……行けるかな」と控えめに凱旋を誓っていた。第31回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。