©2018 TIFF
第31回東京国際映画祭「Japan Now」部門の特集企画「映画俳優 役所広司」で10月26日、『孤狼の血』がTOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、役所広司、メガホンをとった白石和彌監督がティーチインに出席した。
第69回日本推理作家協会賞を受賞した柚月裕子氏の小説を実写化した本作は、過激な違法捜査も辞さない刑事・大上章吾(役所)と刑事二課に配属された新人・日岡秀一(松坂桃李)を軸に、魂と魂をぶつけ合う熱き男たちの物語を描いたもの。「“正義の味方”の刑事、呉という街に舞い降りてきた天使だと思って演じていました」と茶目っ気たっぷりに挨拶した役所。一方、白石監督は「ファーストカットの時、僕のところに来て『監督、僕はやくざになってましたか?』と仰っていたので、まさか天使のつもりで演じているとは……」と笑いを隠せなかった。
本日上映された『キツツキと雨』で挑んだ木こり・克彦役とは、全く正反対の人物像を体現した役所は“演じ分け”について問われると「かつて『眠る男』(小栗康平監督)、『Shall We ダンス?(1996)』(周防正行監督)、『シャブ極道』(細野辰興監督)を続けて撮影したことがあったんです。『眠る男』は沈黙が多い、そして『Shall We ダンス?(1996)』を経てからの『シャブ極道』だったんですが、その時点で暴れたくてしょうがない自分がいましたね(笑)」と述懐する。そして「演じている方は、そのギャップを楽しんでいる面がありますけど、やっぱりお客さんもその点を楽しんでもらえるといいなと思っているんです」と思いの丈を述べると、白石監督は“俳優・役所広司”の魅力について「全てがそのタイミングでしかできなかった役」を引きつけるパワーがあると説明していた。
質問コーナーでなかなか手が上がらないとみるや「豚のうんちの味はどうだったとか?」と発言して、場内の空気を和ませた役所。インドネシアから訪れた女性ファンから“演じる役と自身との関係性”を聞かれると「僕は撮影が終わった瞬間に、役の人物はどこかに行ってしまいますね」と回答。「撮影中は、妻が『変な奴が帰ってきた』という感じになるらしいです。だとすれば、撮影をしている間は、どこかで役の人物を繋ぎとめているんでしょうね。でも、終わったら、いつもの自分にすぐ戻ります」と語っていた。
「大上章吾は“大上章吾”という人物を演じていたのでは?」と質問が飛ぶと、白石監督は「大上はハチャメチャなことをやりながらも、どこかで律して『正義のために』という思いはあったんでしょうね。その優しさの部分は、役所さんが持っているキャラクターの部分にも助けられ、桃李君が受ける芝居で出るという構造になっていた」と解説。その言葉を受けて、役所は「人間というのは一面的ではなくて、多重構造でできている。全部が真実なんですよね。それが1つの人間になると、結構面白い人物ができるのかな。今回の大上という男も、非常に複雑で面白かった」と補足していた。
第31回東京国際映画祭は、11月3日まで六本木ヒルズ、東京ミッドタウン日比谷などで開催。