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2018.10.24 [イベントレポート]
湯浅政明監督、TIFF特集で自作を回想 ピンチを楽しめるきっかけになった『ちびまる子ちゃん』の仕事
湯浅政明監督
©2018 TIFF
映画.com

第31回東京国際映画祭で特集上映が行われる、アニメーション監督・湯浅政明。昨春、『夜は短し歩けよ乙女』(原作:森見登美彦)と『夜明け告げるルーのうた』が連続公開され、今年1月には永井豪による伝説的な漫画「デビルマン」を最後まで映像化した『DEVILMAN crybaby』がNetflixで全世界一斉配信され話題を呼んだ。奔放なアニメーションで見るものを魅了する湯浅監督に自作を振り返ってもらった。

東京国際映画祭で自身の特集上映が組まれることを聞いた湯浅監督は、これまで特集されてきたアニメーション監督(庵野秀明、細田守、原恵一)の名を知り、「順番的に、自分はちょっと早い気もした」そうで、「ひょっとしたら誰かが断ったのかなと思ってしまったぐらいです」と冗談めかして笑う。「こうした機会をいただけることは光栄ですし、本当にありがたいことです。これまで特集された方々に比べると、まだ自分の作品は広く見られていない感じがしていますので、これを機にもっとたくさんの方々に見ていただけたらと思っています」

湯浅監督の長編デビュー作は、2004年公開の『マインド・ゲーム』(原作:ロビン西)。文化庁メディア芸術祭大賞と毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞し、その衝撃が今でも語り継がれる快作だ。同作がTIFFで上映されることを喜ぶ湯浅監督は、「何も分からずに、ただただ素直に面白くしようと思いながらつくった映画です」と語る。

「当時は、自分が面白いと信じるものをひたすらつくれば、それをみんなも面白く感じるはずだと思っていましたが、実際にやってみると意外とみんな違うふうに受けとるのだなとの発見がありました。自分では気がつかない、いろいろな見方があることを知り、そこからは演出として“作品をつくる”ことを意識するようになりました」

その後、湯浅監督は『ケモノヅメ』(06)、『カイバ』(08)、『四畳半神話大系』(原作:森見登美彦/10)、『ピンポン THE ANIMATION』(原作:松本大洋/14)と続けてテレビシリーズの監督を手がける。ここで得た経験が、昨年公開された2本の劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』に大きく生かされている。オリジナル作品の『夜明け告げるルーのうた』では、湯浅監督が好きな水のアニメーションがさまざまなかたちで描かれ、自身の原点に返っているところがあるという。

「一般向けのオリジナルで、作品のテーマ自体も『自分の好きなことを言う』話でしたから、自分も作品のなかで『こんなアニメーションが好きだ』というふうに描いていったところがあります。制作的なところで言うと全編Flashを使っていて、Flashでここまで綺麗なアニメーションができるのだと認めてもらうことも目標のひとつでした」

特集のプログラム『自選短編集 1992-2014』には、8月に亡くなった漫画家・さくらももこさんの代表作「ちびまる子ちゃん」の劇場アニメ第2作『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』もラインナップされている。音楽パートの一部の演出を湯浅監督が手がけているのだ。

「アニメーターになりたての頃に関わった作品で、いろいろ挑戦させてもらった思い出深い作品です。原作者のさくらももこさんや、さくらプロの周りのスタッフさんがとても好意的で、自由にやらせてくれながら、サポートしていただけました。アニメーションの仕事をやっていて、はじめて楽しいと思えた作品でもあります」

アニメーションをつくっていて、どんなときに楽しいと思うか聞くと、「勉強していろいろなことがわかっていくのが楽しいですね。ピンチになったときの切り抜け方なんかもいろいろあって(笑)」との答えが返ってきた。

「どんな局面になっても自分がしっかりしていれば、たぶん上手い切り抜け方があるんですよね。そうしてピンチを切り抜けるのが監督の仕事なのだと思っているところがあるので、ピンチを楽しむ習慣がついています」

そう思うきっかけとなった、「ちびまる子ちゃん」のときのエピソードが語られた。「音楽にあわせて絵をつくっていたのに、編集の現場にいったら音楽が違っていたことがありました。当時の僕は、『話が違う!』とメチャクチャ腹が立って、もう何もできなくなったんです。でも、そのときの監督と編集の方が『ちょっとでも合わせていこうよ』と作業をしていったら、“らしく”なっていったことがありました」

「今なら分かりますが、何もやらないよりもよくすることをやったほうが絶対にいいわけです」と湯浅監督は振り返る。その後、監督として仕事をするなかで思うようにいかないことが起きても、「ちびまる子ちゃん」でのことを思い出しながら振る舞うように心がけていくうちに、「監督とは、こうあるべきだな」との考えにたどりつく。

「今は何が起こっても、最短でベストを尽くすように心がけています。ただ、ピンチを切り抜けるだけでなく、もちろん作品が面白くなければ困りますから、そこもふくめて最終的に作品を面白くつくりあげるのが監督だと思うようになりました。ピンチを楽しめるようなったのは、その頃からです」

アニメーションは大勢のスタッフの手を経てつくられるため、アクシデントは付き物。オーダーどおりのものが上がってこないこともある。そんなとき、「変えられるものは変えて、とにかくできあがりがいちばん良くするよう臨機応変に手をつくします」と湯浅監督は言う。

「曲と絵が合わなかったら絵のほうを変えたり、声が思うようなものでなかったら、芝居のほうを変えてみたり……そんなふうにやっていけば、逆に最初の想定より良くなることだってある。ベストな答えはひとつだけじゃないんじゃないか。今は、そんなふうに思っています」
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